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出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました  作者: 秘翠 ミツキ


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六十五話〜告発状〜



 騎士団の定例会議を終えたセドリックは、副隊長のクライヴと共に第三部隊の稽古場へと戻るべく城内の廊下を歩いていた。

 すると後から声を掛けられた。


「セドリック殿下」


 立ち止まり振り返ると、そこには皇太子の侍従が立っていた。

 兄が自分に用があるとは珍しいと、眉を上げる。

 

「何の用だ」


「メルキオール殿下がお呼びです」


「理由は?」


「申し訳ありません。私はお伺いしておりません」


 兄が自分を呼びつける理由など、十中八九楽しい話ではないだろう。

 正直、行きたくないがそうもいかないと、内心ため息を吐く。


「分かった、直ぐに行く。クライヴ、君、先に戻っていて」


「承知しました」


 侍従の後を重い足取りで付いて行く。

 程なくして、侍従はメルキオールの執務室の前で足を止めた。


「失礼します」


 執務室の中へ入ると、セドリックは目を見張る。

 そこに居たのは兄のメルキオールに側近のヘルマン、そして何処ぞの令息とその侍女だった。

 


 

 執務室の奥に座っているのはメルキオール・ルヴィエ。この国の皇太子であり、セドリックの五歳上の兄だ。

 セドリックの髪色よりも明るい銀色の長い髪は一つに編まれて横に流されており、鋭い青眼をこちらに向けている。


「急に呼び立ててすまない」


「いえ、構いません。それで要件は……」


「取り敢えず、座って話そう」


 そう促されたセドリックは、空いていたソファーに腰を下ろす。

 すると、兄の後ろに控えていた青年が書類を手渡してきた。

 黒髪短髪の緑色の瞳の彼は、兄の側近であるヘルマン・ジルカール。アルバートの婚約者であるディアナの実兄でもある。

  

「兄上、そちらは」


 執務室に入りセドリックが目を見張った理由は、向かい側にいる人物にあった。

 

「彼はニコラだ。セドリックも良く知っているコルベール家の次男だ」


 予想外の名前に、先程とはまた違う意味で目を見張る。

 そして、メルキオールの物言いに引っ掛かりを覚え兄を見た。


「兄上……」


「お前が、コルベール家と一悶着起こした事は知っている」


 無意識にニコラ達へと視線を向けたセドリックを見たメルキオールは軽く首を振る。


「彼は無関係だ」


「それなら、何故……」


「城内で起きた事柄を、私が知らない筈がないだろう。無論、父上も存じている」


「っーー」


 予想外の事実を聞かされたセドリックは、驚いて身を固くした。


「この件は非常に腹立たしい事であり、父上も憤りを感じているが、実害もなかった故お前の成長の為にも少し静観する事にしたんだ。そんな中で、今日、コルベール家の次男である彼が面白い物を持参してくれた」


「面白い物、ですか?」


「ああ、そうだ。流石に私もこの展開は想像もしなかった。ーー()()()だ」


 不穏な言葉に思わず息を呑んだ。

 話を聞けば、告発内容は脱税だという。

 どうやらコルベール家は、領地での農産物などの収穫量を過小に申告していた。無論領民かの税収もそれに伴い少ない事となるので、国に納める税も減る。その浮いた金は全てコルベール侯爵の懐に流れていた。更に悪い事に、通常領民に納めさせる税率は三割を基準とし高くても四割を超えてはならないと定められている。だが、コルベール家の領地では近年五割から六割もの税を納めさせていたという。そしてその過剰に徴収した税もまたコルベール侯爵の物としていた。



「ーーこれで図らずとも、コルベール家は糾弾される事となる。だがセドリック。今回の件、実に情けない。結局お前自身は何も動く事はしなかった。このタイミングでの告発も偶然に過ぎない。それに比べ、ニコラ……身内の不祥事といえ賢明な判断だった」


「っーー」


 メルキオールの言葉に、セドリックは唇をキツく結ぶ。

 兄の言う通りだ。六年前からまるで変わっていない自分が情けなくなる。


「畏れ多いです」


 ニコラが遠慮がちに頭を下げると、不意に彼の後ろに控えていた侍女が何かを耳打ちをした。そして、また口を開く。


「皇太子殿下、糾弾後の両親や兄はもとより姉のビアンカの処遇はどうなるのでしょうか?」


「彼女が元凶といえ、脱税に関与していないのならば罪には問えない。ただ彼女は現在、ギョフロワ家との問題を抱えている。生家が揺らげば、向こうの意向に従うしかないだろうな。恐らくギョフロワ家に嫁ぐ事となるだろう」


 最新の情報では、体裁を気にしたコルベール侯爵夫妻はビアンカを連れて領土へと逃げた。その間ギョフロワ家は、どうやらジョセフとビアンカを結婚させる意向で話が纏まったと聞いている。

 恐らく女癖が悪く手を焼いている息子を、責任を取る名目でビアンカに押し付けてしまおうと考えたのかもしれない。


「セドリック殿下はそこまで見越していたのですね」

 

 突然自分の名前が上がった事にセドリックは目を丸くした。


「実はセドリック殿下が御出でになる前、皇太子殿下からお伺いしていたんです。セドリック殿下の事を、機転が効いていて流石だと褒めていらっしゃいました」


「ニコラっ、余計な事を……」


 ニコラの言葉にメルキオールは、焦った声を上げバツの悪そうな表情を浮かべる。


 詳しく話を聞けば、セドリックが執務室を訪れる前にメルキオールはニコラ達にあの日の舞踏会の話をしていた。偶然ではあったがセドリックがジョセフをビアンカへと仕向けた事を話し、更にはそれを褒めていたという。俄には信じられないと呆気に取られる。


「それよりもセドリック、お前を呼んだのは他でもない。挽回の機会を与える為だ」


 誤魔化すように咳払いをしたメルキオールからは、意外な事を言われた。


「数日後、コルベール侯爵が屋敷に帰還するとの情報を得ている。それに合わせて屋敷を家宅捜索するつもりだが、それをお前に任せる」


 セドリックは戸惑いながらも了承をした。

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