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出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました  作者: 秘翠 ミツキ


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六十四話〜進展〜



 結局、ユージーンのペースに嵌り、上手く情報を引き出す事が出来なかった。

ただ執務室の掃除を任せられた事は大きな収穫といえる。


 ふと先程のユージーンが見せた裏の顔を思い出す。妹のビアンカへの執着のようなものを感じた。


 昔読んだ本に、双子は普通の兄弟よりも絆が強いと書いてあったが、そういうものなのだろうか。これまで双子に出会った事がなかったので正直よく分からない。

 ただ妹の為に、皇族に媚薬を盛るくらいだ。真面ではないだろう。


 これは罠だろうか。それともただ単に彼に気に入られただけだろうか。

 またとない機会で気持ちが逸るが、慎重になるべきだ。ただ余り悠長にはしていられないのも事実ではある。


 翌日、エヴェリーナはユージーンが昼食を摂っている間に、執務室の掃除をしていた。

 彼が戻るまでに一時間余りある。

 机の引き出しや書類の保管されている棚、本棚に絨毯の床下など調べたい箇所は沢山あるが、流石に全て調べるには時間が足らない。

 確りと執務室を綺麗にして置かなくては不審に思われるし、無能な侍女だと判断されれば執務室の掃除担当から外されてしまうだろう。

 先ずは執務室の掃除が最優先だ。


「うん、完璧だ。これからも宜しく頼むよ」


 昼食を終えたユージーンが執務室へ戻って来て室内を見渡すと満足そうに笑んだ。

 自覚するくらい几帳面な性格の所為で、結局大半の時間を掃除に費やし、調べる時間は僅か数分程度だった。その為、一日目は何の収穫も得られなかった。


 それから数日後ーー


「そういえば、来週あたり急遽父が戻ってくる事になったみたいでね」


 いつも通りユージーンにお茶を出すと、不意にそんな事を言われた。

 話を聞けば、侯爵は仕事の関係で一足先に戻って来るという。

 

「父が戻った後は、執務室(ここ)は父の侍従が掃除を担当するから君は別の場所を頼むよ」


「……承知致しました」


 ユージーンからの言葉に、内心焦りを感じた。

 侯爵が戻ってくれば、必然的に侍従や使用人達の数も増える。

 それに執務室の掃除担当から外れれば日中に調べるのは無理だろう。そうなれば夜中に忍び込むしかなくなるが、やはり危険性が高い。

 

 この数日で、机の引き出しや本棚までは調べた終えたが、コルベール家の財務に関するものは見つける事は出来なかった。

 正直、財務関連でなくても弱みに値するものなら何でも構わないのだが、ニコラの事がある。

 乗り掛かった船だ、どうせなら助けてあげたい。


 翌日、エヴェリーナは掃除もそこそこに、書類の棚を上段から順に全て確認をしていく。

 そこでコルベール家の財務状況を示す資料を見つけるが、その内容に違和感を覚えた。

 読み終えた資料を元の場所へと戻すと、今度は絨毯を捲り上げ床を調べる。


(…………あった)


 一見すると普通の床に見えるが、一箇所だけ僅かに色褪せていた。恐らく何度も開閉している内に床の表面が擦れてしまったのだろう。

 手を滑らせながらその周囲の床に触れていると、床板の模様の一部に違和感を覚え手に力を入れた。すると、模様は回転し鉄金具が現れる。それを引っ張ると、約四十センチ四方の床板が浮いた。

 確証はなく半信半疑ではあったが、床下に隠された収納場所を見つけた。


(これは……)


 中を覗き込むと、沢山の書類が保管されている。その中から数枚を抜き取り内容を確認したエヴェリーナは顔を顰めた。

 抜き取った書類を小さく折り畳み素早くポケットに入れると、床や絨毯を元の状態に戻し部屋を後にした。





「うん、美味しい」


 ニコラに蜂蜜入りクッキーを出すと、彼は歓喜の声を上げた。

 先日ユージーンにお茶請けとして出したクッキーを、また今日もまた焼いてみた。

 ユージーンと話す機会を増やす為にと用意した物だったが、その余りをニコラにあげると彼は思った以上に喜んでくれた。なので手隙に作ったのだが、やはり好評だった。

  

 余談だが、コルベール家の厨房には驚く程食材が少い。本当に侯爵家の厨房なのかと呆気に取られる程だ。困窮しているので仕方ない事だが、仮にも有力貴族と称されているのに情けない。ビアンカの散財がなければこんな状況にはなっていないだろう。ニコラや使用人達の事を思うと、やるせなさと憤りを感じざるを得なかった。

 そんな限られた食材の中で、エヴェリーナは頭をしぼりこの蜂蜜入りクッキーを作る事にした。

 これは昔、エヴェリーナが管理していた領民から教わったもので、材料も少なく簡単に出来る。小麦なのでお腹にもたまるし、小腹が空いた時に丁度いいと思った。


「お口に合ってなによりです。それでですが、ニコラ様。これからの事をお話する前に、一つ伺いたい事があります」


「うん」


 昨日、執務室で見つけた書類についてニコラに話をする為に彼の部屋を訪ねた。だが本題に入る前に確認しておくべき事がある。


「家族を捨てる事は出来ますか?」


「ーー」


 目を見開きニコラが息を呑むのが分かった。

 まだ十二歳の彼には酷な話だ。

 だがニコラが望むように、昔のコルベール家を取り戻す為には通らなくてはならない道だ。

 コルベール家の闇はそんな単純なものではない。それに、ニコラの返答の有無に関わらずこの件を見過ごすつもりはない。


「ーー平気、覚悟はしているから」


 暫し黙り込んだ後、彼はエヴェリーナを見据えそう答えた。

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