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出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました  作者: 秘翠 ミツキ


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四十一話〜悩み事〜



 エヴェリーナがお茶と先程リュミエールから届けられたスイーツを手にして執務室へ入ると、セドリックは書類を見て頭を悩ませていた。


 二人で街へ出掛けてから数日、毎日リュミエールからはスイーツが届けられている。そしてそれを毎日セドリックとお茶をしながら食べていた。


「何か、お悩みですか?」


 ソファーに座り直したセドリックの前にお茶と今日のスイーツであるオレンジピールのケーキを置いた。

 エヴェリーナも自分の分を用意して、向かい側に座る。


 普段仕事中は淡々とこなしている印象なので、余程の問題を抱えているに違いないと思い気になった。


「あぁ、うん。ちょっと厄介な仕事を受けちゃってね」


「それはお疲れ様です」


 内容は気にはなるが、流石に公務の内容を聞く訳にはいかないだろう。


「……ねぇ、リズ。リズなら人に見られたくない物は、どうやって運ぶ?」


 明らかに不穏な言い回しにエヴェリーナは、直ぐに思い当たった。


「それは違法な物ですか?」


「え、まあ、そうだね。でも何でそう思ったの?」


「人に見られたくない物と言われた時点では、一般的に個人的な物を思い浮かべると思います。なのでその後にくる言葉は、どこに隠すや仕舞うなどが予想できます。ですがセドリック様はどうやって運ぶと仰ったので、恐らく公に出来ない物である可能性が高いと判断しました。また運ぶ方法を気にしている時点で、関所を通らなくてはならないのではとも思いました。そんな中考えられる物は、表に出せないお金や盗品または薬物といった所でしょうか」


 目を見張りこちらを見ているセドリックと目が合い、エヴェリーナは我に返った。

 この手の相談は皇太子であるオースティンからよくされていたので、つい癖で口が滑ってしまった。


「……」


 黙り込みむセドリックから凝視され、失言だったと内心焦る。


「あの、セドリック様」


「リズ、これは独り言なんだけど……」


 だが彼は深掘りする事はなく、ワザとらしく咳払いをすると宣言通り独り言を話し始めた。


 今、首都ラルエット近郊で若い貴族達の間でフィーユと名の違法薬物が横行しているが、薬自体の詳細が掴めないでいる。

 取り締まりを強化しているが、トカゲの尻尾切りの繰り返しで意味をなさない。

 更に最近手口が巧妙になり被害も広がり続け、死者も出ている。

 捜査が難航する理由は大まかに分けて三つある。

 先に上げたようにトカゲの尻尾切りで、運び屋や売人を捕らえた所で肝心の情報は持っておらずアジトが掴めない事、手口が巧妙になり現在は運び屋や売人すら見つけられずにいる事、最後に薬物使用者が貴族の令息や令嬢である事だ。

 更に身内の失態を隠したい自尊心の塊の親達は非常に非協力的だ。

 相手が貴族である以上、屋敷内の捜索など強引に行う事は出来ない。例え強制執行出来たとしても後々問題になり兼ねないので厄介だ。

 そうなるとやはり、運び屋や売人、アジトを直接おさえるしかなくなるのだがそれが出来ないので正直お手上げ状態である。

 

「正気を失った者同士の殺傷事件、平民への暴行や強姦などの薬物関連の事件が増えている。捕らえた者達はまともに会話出来る状態ではなく、情報を引き出す事も難しい。現在治療中ではあるが、彼等が回復するのを悠長に待っている時間はない。その間に更に被害は拡大していくだろう。それに正直、彼等が元の状態に戻る保証もない」


 セドリックから独り言ならぬ詳細を聞かされた。その内容から事態はかなり深刻な状態だという事が分かった。

 今はまだ火種は小さいが、薬物を甘くみてはならない。

 古い記録ではあるが、ある国では薬物で国が滅んだくらいだ。


「今回の件、実は兄上が手を焼いていて騎士団でも調べて欲しいと回ってきたんだ」


「そうなのですね……」


「因みにこの話は極秘事項だから他言無用でね。下手したら首が飛ぶ可能せいも無きにしも非ずだからさ」


 場を和ませようと彼は冗談混じりにそう言って笑った。

 ただそれが冗談でない事は理解している。


(それにしても、フィーユですか……)


 薬物の隠語はその国や土地により様々であり、初めて耳にする名称だ。

 

「セドリック様、フィーユの意味はご存知ですか?」


「ある一部の地域で、少女を意味するらしい」


(少女……もしかしたらーー)


 頭の中で薬物に関する記憶を引っ張り出す。そしてある薬物が浮かんだ。


 ため息を吐き冷めてしまったお茶を飲むセドリックを見て、エヴェリーナは悩む。

 本来、他国の事柄に口を挟むべきではない事は分かっている。それに今は一介の侍女に過ぎない。自分自身の為にも余計な事はしない方がいい。だがーー


「フィーユは、恐らくファシナンと呼ばれる薬物かも知れません」


「ファシナン? 名前くらいは聞いた事はあるが、詳しくは知らないな」


「ファシナンは西大陸の一部の国で見られるフェリの花が原料に作られる薬物です。その性質は水に溶けやすく中毒性も高くまたフルーツのような甘い香りが特徴です。摂取すると一時的に気分が高揚し多幸感を得ますが、効果がなくなるとその逆に気分が沈み込み酷い倦怠感を感じます。また繰り返し摂取し続けると精神に異常が表れ幻覚や妄想などを引き起こすと言われています」


 エヴェリーナの説明が終わると、セドリックは口元に手を添えそのまま考え込んでしまった。

 薬物の正体が分れば、入手経路の手掛かりにはなるかも知れない。ただ話を聞く限り、今のままでは現状は変わらないだろう。きっと彼もそれは理解している筈だ。


「リズ、明日、僕に付き合ってくれない?」


 暫くしてこちらを見たセドリックの顔は真剣そのものだ。

 その様子にエヴェリーナは、やはり余計な事を言ってしまったと反省をした。

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