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出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました  作者: 秘翠 ミツキ


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三十一話〜饒舌と寡黙〜



「セドリックお兄様〜! ご機嫌よう〜!」


 ダンスが始まり暫く何事もなく過ごしていたセドリックの元へやって来たのは、妹のシャーロットだった。

 落ち着いた銀色の長い髪、紫色の瞳の妹はセドリックより二つ年が下だ。

 そして明るく元気でお喋りな妹が少し苦手だ。

 因みに女嫌い云々は関係なく、きっとシャーロットが弟でも苦手だったと思う。


「ほら、ラフェエル。お兄様にご挨拶なさい」


「…………お久しぶりです」


「ああ、シャーロットにラフェエル。久しぶりだね」


 シャーロットの後ろから現れた彼は三つ年下の弟のラフェエルで、小さな声で挨拶をした。

 兄弟姉妹の中で唯一の金髪で、瞳は青色だ。

 ルヴェリエ帝国の皇族は銀髪青眼の人間が多く、ラフェエルは髪も性格も母親似だ。


 セドリックの四人の兄弟姉妹は皆腹違いだ。

 現在ルヴェリエ帝国には、后妃の他に側妃が一人いる。またセドリックの母は亡くなっているが側妃であり、皇太子の母は侍女だった。


 兄の母は貴族の娘ではなく、平民で城の侍女だった。その為、様々な問題が生じた。

 彼女は数度の閨を得て皇帝の子を身籠った。

 当時、皇帝には子はおらず必然的に生まれれば皇太子となるが、彼女の身分が当然問題視され早急に妃に召上げる必要があった。

 だが正式に妃に召上げるには貴族籍が必要だ。そんな中、平民を妃にする事に反対する貴族が多く、中々話は進まないまま臨月を迎え彼女は平民の身分のまま出産をした。

 子は生まれたが、今度は子を皇太子と認めるか否でかなり揉めたそうだ。

 話が平行線のまま数年の月日は流れ、兄が三歳の時に彼女は病で亡くなった。ただその死因には疑念が残った。

 彼女の死後は有力貴族であるリュシドール侯爵家が兄の後ろ盾につき、慣例に従い兄は正式に皇太子となった。

 そんな理由から未だに兄を良く思わない人間は少なくない。その影響もあり水面下では皇位争いが起きているのが実情だ。

 

 妹の母は存命の側妃で、女児とありこちらは別段問題はない。また弟の母は后妃ではあるが、后妃は変わり者で有名で権力にはまるで興味がない人間だ。寡黙な人で、彼女が話している所を見る事は滅多にない。本当にラフェエルと良く似ている。弟も口数が極端に少なく、感情の起伏もない。いつも姉のシャーロットに引き摺り回されているが、大人しく従っている。


「セドリックお兄様、聞きましたわ! 許されぬ恋に落ちたのですよね?」


「許されぬ恋って……」


 十中八九先程の噂の事だろうが、その言い回しに顔が引き攣る。


「大丈夫ですわ、セドリックお兄様! 私、お兄様を応援しております! あ〜許されぬ恋なんて、聞いただけで胸がどきどきして切なくて、素敵〜‼︎」


 祈るように手を組みうっとりとしている。


「それで、お相手はどんな方ですの⁉︎」


 頬を上気させ目を輝かせ、興奮している事が窺える。


「シャーロット。実は噂は事実ではないんだ。だからーー」


「もう、セドリックお兄様ったら照れているんですね! 大丈夫です、シャーロットは分かっています」


 一体何を分かっているのか謎だ。

 噂を否定するも一瞬にしてそれを否定された。

 

「そうだわ! 今度、セドリックお兄様のお屋敷に参りますわ! その時に、噂の侍女を紹介して下さいな」


「いや、だからーー」


「とっても楽しみですわ〜!」


「シャーロット、話をーー」


「ではセドリックお兄様、これで失礼致します! ほらラフェエルもご挨拶しなさい」


「…………失礼します」


「シャーロッーー」


 相変わらず人の話をまるで聞かない。

 

 シャーロットはラフェエルを連れて、さっさと行ってしまった。


(やっぱり、苦手だ……)


 嵐が去ったようだった。



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