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出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました  作者: 秘翠 ミツキ


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二十七話〜お披露目〜



 応接間の長テーブルの上には、購入してきた物が丁寧に並べられている。

 ジルとミラは興味深気に眺めており、ソロモンは何故か少し得意気だ。


「あらこのお茶、良い香りね」


 ミラは五つある瓶の一つを手に取ると、少し顔を近づける。


「そちらは、セドリック様用のお茶です」


「セドリック様用のお茶?」


「はい。屋敷にある物はどれも上質で美味しいとは思いますが、セドリック様は香りが高い物がお好きなようですので、今回は試飲する為に少量ずつ様々な種類のお茶を購入しました。気に入られた物があれば、そちらを採用したいと思います」


 今日訪れた店は百を超えるお茶の種類が置いてあり、香りの高い物を厳選し五つまで絞った。


「こちらの本は随分と年季が入っていますね」


 今度はジルが古びた厚みのある本を手にする。


「そちらはセドリック様用の本です」


「セドリック様用の本ですか?」


「はい。先日、セドリック様が書斎の既存の本は飽きたと仰っておりましたので、書斎にない分類の物を選びました。新たな分野を開拓し知見を広げるのにも役立つかと思います」


 年季を感じる外観の本屋には、期待通り古書が多く置かれていた。

 皇子であるセドリックは、政や経済などに関連したものは一通り知識があると考えられる。また皇族としての嗜みである芸術なども除外し、少し風変わりなものを選んでみた。


「えっと、ならこれは……セドリック様用のペンかしら?」


「はい。以前使い辛いと仰っていたので、軽くて持ち易い物を厳選してきました。耐久性にも優れていますので、長くお使い頂けます」


「ではこちらは、セドリック様用の香炉でしょうか?」


「はい。寝る前に使うと気持ちが落ち着いて良質な睡眠をとる事が出来る代物です。普段、執務室で机に向かわれる事が多く頭や肩が凝っていらっしゃると思いますので、それ等を解す効果も期待出来ます」


「流石、リズさんです。完璧です」


「本当、リズさんは何でも出来ますね!」


 ジルとソロモンから称賛をされる。


 この他にも、細々した物を購入した。無論ほぼほぼセドリックの物だ。


「栞に膝掛けに……ーーあらあら、本当にセドリック様の物ばかりね。リズさんの物は一つも買わなかったの?」


 そんな中、ミラだけは少し困り顔をしていた。


「実は私的な物で、踏み台を購入しました」


「踏み台……」


「これは私的な物ではなく、仕事で使う備品ですね」

 

 ミラとジルは顔を見合わせると苦笑する。

 気不味い空気が流れた。

 どうしてか、踏み台と口にすると皆微妙な顔をする。

 ソロモンにも仕事で使う物だと言われたが、実質使用するのはエヴェリーナだけだ。故に私物といえるだろう。

 ただもしかしたらセドリックも使用する可能性はあるが、そこは彼の名誉の為にも黙っておく事にする。


「そういえば、こちらの額縁はリズさんが使われるんですよね?」


 ソロモンのその言葉にジルもミラも眉を上げた。




「きっとセドリック様もお喜びになられますね」


「味わい深くて、とても綺麗ですね!」


 エヴェリーナは一旦自室に戻り押し花を手に戻って来ると、皆の前でそれを額縁に入れて見せた。するとジルとソロモンは感嘆の声を上げた。


「こちらを書斎に飾らさせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」


「反対されないと思いますよ」


 笑顔で話すジルとソロモンとは違い、ミラだけは黙り込んでいる。


「ミラさん?」


「……え、ええ、とても素敵だわ」


 もしかして何か問題があるのかと心配になり声を掛ける。すると彼女も褒めてくれた。ただその笑みはやはり少し困って見えた。


「でもこれはリズさんの為に買った物? それともセドリック様に喜んで頂きたくて買ったのかしら?」


「……私の為に購入した物です」


 セドリックから貰ったグロリオサの花は受け取った時点で既にしおれており、本来ならば処分するべきなのだが躊躇わられた。なので押し花にして保管していた。それを額縁に入れて飾れば、きっとセドリックは喜んでくれると考えたのだがーーそれが自分の為なのか、セドリックの為なのかは分からない。


 境界線が曖昧だ。

 ずっとエヴェリーナの言動の全てはジュリアスの為だったり皇太子であったり、自分ではない他者の為だった。

 いつの間にかそれが当たり前となってしまい、今はもう境界線が分からなくなっている。だがそれすらミラの言葉を聞くまでは、自覚がなかった。

 

「そうなのね。変な事を聞いてしまって、ごめんなさいね」


 少しモヤモヤが残る中、そろそろセドリックの帰宅時間だとテーブルの上の荷物を片付け始めた。

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