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出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました  作者: 秘翠 ミツキ


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二十四話〜第三部隊 二〜



 道を開ける騎士団員達の中を歩いて来たのは、セドリックだった。

 屋敷での恰好とは違い稽古着をきており、少し雰囲気が違って見える。

 剣術大会での勇ましい姿が脳裏に浮かんだ。

 執務室で淡々と仕事をしている時は、まだどこか幼さを感じるが、こうして見ると立派な騎士だ。


「誰が休んで良いと言った。全員、打ち合いの後追加で素振りを百回……ソロモンに、リズ⁉︎」


 厳しく低い声で団員達を叱責するセドリックと目が合うと、急に彼の声は上擦る。


「セドリック様、お疲れ様です! 昼食に飲まれる牛乳を届けに来ました」


 呆然としているセドリックに、ソロモンは空気も読まずに明るく元気にそう告げた。良く通るその声は周りに響いた。


「牛乳って……ああ、なるほど」


「意外と気にしてたんだな」


「まあ気持ちは分かる」


「隊長も年頃だし」


 すると団員達は口々にそんな事を言い出す。

 エヴェリーナは、彼等の言葉を受け改めてセドリックを見て納得をした。

 どうやらセドリックは、身長を伸ばす為に牛乳を飲み始めたらしい。

 なんだか少し可愛いと思ってしまった。


 セドリックが団員達を睨むと、彼等は「さて、やるか!」と白々しく言いながらまた稽古を再開した。

 彼は軽く咳払いをして話を続ける。


「それで、どうしてリズまで来ているの?」


「差し入れをお渡ししたかったんです」


「差し入れ?」


「はい。今朝、食べ切れなかったミートパイです」


 籠を差し出すと一瞬目を丸くするが、直ぐに笑って受け取ってくれた。


「わざわざありがとう、嬉しいよ。でもここまで来るのは大変だから、次からこういう些末な事はソロモンに全て任せるといい」


「いえ、大変などとそのような事はありません。それに、実はこれから買い出しに行く予定なんです。それでその前にこちらに立ち寄りまして」


「買い出しって、まさかソロモンと二人でじゃないよね?」


「はい、そうですが……」


 無表情になったセドリックからは、どういう訳か凄い圧を感じる。


「セドリック様?」


 暫し黙り込んだ後、側にいる団員に「イアンを呼んできてくれ」と声を掛けた。

 程なくして一人の団員がこちらへ向かって走ってきた。


「隊長、お呼びっすか」


 褐色の肌に肩までの黒髪を後ろで束ね、珍しい琥珀色の瞳の青年は軽い口調でセドリックに声を掛けた。


「イアン、君、二人に同行して」


「え、俺がっすか⁉︎」


 突然の命令にイアンは戸惑う。

 それはそうだろう。エヴェリーナだって同じだ。


「護衛兼荷物持ちだ」


 さも当然のように言うが、すかさずソロモンが断りを入れる。


「セドリック様、そんな心配なさらなくても大丈夫ですよ。買い出しは街中で危なくないですし、荷物も私が持ちますので」


「いや、ダメだ。二人にはイアンが必要だ」


 セドリックの妙な言い回しに三人は困惑しつつも受け入れる他ない。

 何しろ彼は、皇子でありエヴェリーナ達の主人でイアンにとっては上司だ。これ以上は何も言えない。

 よく分からない状況の中、イアンも買い出しに一緒に行く事となった。


「……」


「どうした?」


 イアンは急に黙り込みセドリックをまじまじと見た後に、今度はエヴェリーナを同じように見てくる。

 

「いや、隊長も遂に卒業したんだなって思っただけっす」


 卒業とは? そうエヴェリーナが真剣に考えていると、セドリックの口元が引き攣っていくのが分かった。


「あの隊長が遂にか〜」


「俺、一生独り身なんじゃないかって心配してたんだよ」


「今度、隊長の卒業を祝して酒盛りしようぜ!」


「お前ただ飲みたいだけだろ」


「はは、バレたか!」


「俺も早く卒業したい……」


「良し、今度一緒に街に繰り出すか!」



 また先程のように、団員達が騒ぎ出す。

 賑やかで楽しそうだと微笑ましく見ていたが、彼は違った。


「くだらない事を言ってないで、さっさと稽古に戻れ!」


 セドリックが団員達を一喝すると、皆慌てて剣を握り今度こそ稽古を始めた。

 



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