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出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました  作者: 秘翠 ミツキ


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二十三話〜第三部隊〜



 ソロモンとたわいのない話をしている内に馬車は城に到着をした。


 エヴェリーナは、馬車から降りると目の前に聳え立つ城を見上げた。

 ローエンシュタイン帝国の城と造りは違うが、その規模は同等くらいだろうか。

 ここは、ローエンシュタイン帝国ではないと分かっていても、無意識に身体が強張るのを感じた。


「リズさん、こっちですよ」


 親しそうに門兵と話していたソロモンに呼ばれ、エヴェリーナは差し入れの籠を手に後について行く。

 

「こう見えて意外と顔は広いんですよ」


 話を聞けば、どうやら先程の兵士は騎士団に所属していた時の知り合いらしい。


「剣の腕はからきしだったんですけど、人付き合いはばっちりでした」


 そう言って穏やかに笑う姿に納得をする。

 確かに初対面の時から、物腰が柔らかく印象が良かった。そして、侍従という仕事は彼にとって天職だったのかも知れないと思った。


「天井の壁画、凄かったでしょう? あ、あそこの彫刻、かなり年代物でーー」


 数歩先を歩くソロモンは、得意気に城の説明をしている。

 彼の言う通り、エントランスの天井の壁画は見事でとても美しかった。他にも廊下などには彫刻や絵画が飾られており、どれも華美過ぎず落ち着いた雰囲気でセンスの良さを感じる。


「初めて城に来た時は、何もかも輝いていて夢を見ているようでした。胸の高鳴りが止まらず、結局その日は寝付けなくて……」


「どうかしましたか?」

 

 急に黙り込み、こちらを見るソロモンにエヴェリーナは小首を傾げた。


「もしかしてリズさんは、城に来るのは初めてじゃないんですか?」


「え……いえ、そのような事はありませんが」


 突然核心をつくように言われ、内心動揺をする。


「どうしてですか?」


「なんだか慣れている感じがするので。何というか堂々としているような、でもそれが妙に似合っているといいますか……う〜ん、上手く言えないんですけど。あれ、でも、リズさん出身は」


「平民です」


 思わず言葉を遮ってしまった。しかも思いの外、声が大きかった。

 

 冷たい汗が背を伝う気がする。

 普段穏やかで少し抜けている所があるソロモンだが、意外と鋭いのかも知れない。

 屋敷に来てからは、姿勢などの振る舞いに注意を払ってきた。だが、久々に城というある意味馴染みのある場所に来た事で、無意識に妃としての振る舞いを意識してしまっているのかも知れない。


(気をつけないといけませんね……)


「こう見えて、凄く緊張してるんですよ」


 取り敢えず軽く笑って誤魔化す。そして内心ため息を吐いた。




「あそこに見えるのが、第三部隊の稽古場です」


 ソロモンが指さす渡り廊下の先からは、既に金属の打つかり合う無機質な音が聞こえてきている。


 騎士団は全部で十部隊あり、一部隊大体二百名程在籍しているという。それら全てを統括しているのが騎士団長であり、次に副団長と続く。また各隊には隊長、副隊長、小隊長数名、副小隊長数名がいる。


 丁寧に説明をしてくれるが、正直心配になった。

 

「ソロモンさん、そのような機密は余り人にお話しない方がいいと思います」


「はは、大丈夫ですよ、ちゃんと分かってます。ただリズさんだからお話したんです」


 それだけ信頼してくれているという事だろうが、そもそも『リズ』という人間は存在しないのだ。素性が不確かな人間に、国家機密に値する情報を話すのはやはり頂けないと思う。



「お、ソロモンじゃないか!」


「久しぶりだな!」


「相変わらず締まりのない顔してるな〜」


 稽古場の前まで行くと、ソロモンに気が付いた団員達から次々に声が掛かる。皆、嬉しそうに笑っている。


「ん? 後ろに誰を連れてるんだ?」


 エヴェリーナの存在に気付いた団員が、近付いてくるとソロモンの後を覗き込んできた。

 目が合ったエヴェリーナは、笑みを浮かべ丁寧にお辞儀をする。


「……だ」


 すると団員は静止しこちらを凝視してきた。穴があくほど見られ困惑をする。更に何かを呟いたが全く聞き取れない。

 一体どうしたものかと、ソロモンへ視線を向けるが笑っているだけだ。


「あの……」


「め、女神だ‼︎‼︎」


「⁉︎」


 広い稽古場に響き渡るほどの声量で叫ぶ団員に、流石のエヴェリーナも驚愕し身体をびくりとさせた。

 

「ジャン、大声を出さないで下さい! リズさんが驚くじゃありませんか」


「あはは、悪い悪い! だがこんな美人見れば、誰だって興奮するに決まってるだろう?」


 褒められ慣れているとはいえ、興奮するなどと言われ恥ずかしくなる。

 戸惑いながら周りを見れば、稽古をしていた筈の団員達は皆手を止めこちらを見ていた。


(これはどういった状況でしょうか……)


 剣の打つかる音が止んだ事で静まり返り、何故かエヴェリーナは一身に注目を浴びている。

 

「一体、何をしているんだ」


 そんな時、聞き覚えのある声が稽古場に響いた。

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