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出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました  作者: 秘翠 ミツキ


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二十一話〜書斎〜



 あの後リズの発言から誤解を招き、色んな意味で興奮し顔を真っ赤にしたソロモンが部屋を飛び出していき屋敷中で触れ回った事で、ちょっとした騒ぎになってしまった。


『セドリック様が、リズさんを手篭めにした』


 それを聞いた使用人達の反応は様々で「女嫌いのセドリック様が⁉︎ 嘘だろう」「いやリズさんに対しては妙に距離が近かったからなくはない!」「女嫌いでも、あれだけ美人な女性がいたら欲情してしまうのは分かる」などなど言いたい放題だ。

 上着を貸しただけで、まさかこんな大事になるとは思わなかった。しかも話を聞いた大半の者が、納得しているのがまた腹が立つ。

 やましい気持ちなど一切ないのにも拘らず、勘違いも甚だしい。

 ただリズ本人の耳に入らなかった事だけは幸いと言える。

 

 その後セドリックはソロモンをとっ捕まえて二時間程説教した後、数日の謹慎処分を課した。無論口外は禁止だ。

 ジルには事の経緯を説明し、彼から使用人達には話をして貰い騒動は収まった。

 




 それから半月後のある日の事。

 セドリックは仕事に一区切りついた所で気分転換に書斎に向かった。

 どうせ誰もいないと扉を無作法に開けると、そこにはリズの姿があり目を見張る。


「セドリック様、休憩ですか?」


「ああ、うん、一区切りついたから本でも読もうと思ったんだけど……」


 振り返った彼女は持ち切れないくらいの沢山の本を腕に抱えていた。


「本棚の整理をしていたのですが、お使いでしたらまた後に致します」


 机の上のみならず床の上にも無造作にあちらこちらに本が置かれている。

 これはリズがした事ではなく、セドリック自身の仕業だ。


 書斎はセドリックのテリトリーであり、ジルとソロモン以外には立ち入らせていない。

 何故なら書斎はセドリックにとって特別な場所だからだ。

 セドリックも一皮剥けばただの人間だ。一人になりたい時もあれば息が詰まったり気が滅入り苛々する事だってある。だがそれを悟られないようにしなくてはならない。屋敷の主人として皇子としての示しがつかなくなる。

 そんな時は決まって書斎へと向かう。

 ただジルとソロモンも多忙な為、手が回らずいつも散らかりっぱなしの状態だった。

 

「片付けるように、ジルかソロモンに言われたの?」


「はい。ジルさんから手隙なら書斎の整理をして欲しいと頼まれまして」


 これが他の使用人だったなら、嫌悪感を抱き怒っていた。無論ジルも呼び出して叱責した筈だ。


「もしかして、入ってはいけませんでしたか」


 察しのいい彼女は、何かに気付いたようで不安そうに言う。


「いや、ありがとう。助かるよ」

 

 なので、その不安を払拭させる為にも、セドリックは笑って見せた。


(不思議だ。どうしてか、全く嫌ではない……)


「僕も手伝うよ」


「いえ、セドリック様にお手伝いをして頂く訳には……」


「大丈夫だよ。貸して、これを戻せばいい?」


「はい。ただ上の方なので、届かなくて困っていたんです」


 手が触れないように気をつけながらリズから本を受け取ると、それを本棚へと戻そうとした。だがーー


「なら尚更僕がやるよ。えっと、ここだよね。あれ……ーー」


(届かない……)




 廊下を歩いていたソロモンを引っ張ってきて、先程の本を戻させた。

 ついでに上段の他の本も戻して貰う。

 リズとソロモンは手分けをして本の整理をしている。その様子をセドリックは、少し離れた場所から眺めていた。


「……」


 本棚から一度取ったら戻さないのが仇となった。届かない本はジルがソロモンに取って貰っていたが、随分と前の事で失念していた。


 それにしても情けなくて、とてつもなく恥ずかしい……。

 冷静になって考えれば、セドリックとリズの身長はほぼ変わらない。僅かにセドリックの方が高いが、一瞬見ただけでは判別がつかない程度だ。


 これまで身長に関して、大して気に留めていなかった。同年代の中では低い方だが、ある程度の年齢になればその内伸びるだろうと楽観的に考えていた。だがこれは由々しき事態だ。


 セドリックは苦手である牛乳を毎日飲む事を決心した。



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