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4-03 推しの神様(おとこの娘)に家業を押し付けられました。

祖父の死をきっかけに山奥の実家へ戻った社会人・裕太。待っていたのは相続手続きでも田舎のじじばばでもなく、なんとソシャゲで推していた“おとこの娘神様”そっくりの式神だった! ご先祖が神々と結んだ「休憩所のおもてなし業」を継げと言われ、気づけば神と人外を相手にした喫茶店のマスターに!? 社会人スキルゼロ、宗教知識ゼロ、でもツッコミ力だけは無限大。令和の山奥で繰り広げられる、ゆるっと神様相手のドタバタ喫茶ライフ開幕!



──じいちゃんが死んだ。

これでオレは社会人3年目にして身内が全員鬼籍に入ってしまったことになる。

ぼーっとしているうちにオレを哀れんだ近所のばあさんだか遠い遠い親戚のばあさんだかが葬儀や相続のあれそれを色々指示出してくれたおかげで困ることはなかったが、なんだか身体が空っぽになったような、頭に綿が詰まったようなそんなほけーっとした感覚から中々抜けられたなかった。


いいじいちゃんだったとは中々言えない。記憶に残っているのは山の上に暮らしているくせに来客が多かったことと、その来客の対応であまり話したことがなかったことだけ。


父親も母親もダブル不倫の末にオレを捨てたらしく、じいちゃんが世話をしてくれたんだが、家族と言うより師弟のようなやり取りばかりだった。


「じいちゃん、さすがにこんな山の上の不動産はどうにもならねえよ」


どうにもならない。本当にどうにもならない。いやある意味実家だからどうにかしないといけないのは分かっているんだが自分だって社会人として3年、生活基盤を整えてしまっている。

売るにしても値段もつかないような田舎の里山のてっぺんにある住む人間の居ない家など面倒見れないのだ。薄情なら薄情と思ってもらって構わない。令和の人間は人情でやってけるほど懐も人柄も温かくはないのだ。


住んでいるマンションから電車で30分、1時間に1本のバスで20分、そこから小高い山を登ってひいこら徒歩40分。

昔からタケノコだの山菜だの謎に桃だの採れていたがどんなに図々しい近所のじじばばも不思議と山にはいる人はいなかった。


まあ頂上に人間が住んでたら見回りも細かくしてると思われていたんだろう。不動産屋に見積もりを貰うためと遺品の整理のために久しぶりに、本当に久しぶりに実家に向かう。


死ね死ね死ね死ね死ねとセミと日差しが圧をかけてくる気配を感じつつ、山の中のムワッとした空気がイヤに懐かしい。

山登りのために半袖も短パンも無理だったので空調服の音とセミが耳にうるさい。というか本当にセミに死ね死ねといわれているような気分でどうにもならない。しんどい。


ところどころ、オレとじいちゃんにしかわからない獣道のような道があり、その先には小さな棚のような畑が開墾されている。


──いいか、神様はなもてなされるのが好きなんじゃない。真摯に向き合ってもらうのが好きなんだ。


幼い頃のじいちゃんと話したたわいもないいい感じのセリフが頭に浮かぶ。何をするにも神様神様、今思うとなんか宗教でもしてたんだろうか。


つらつらとそんなことを考えながら熱中症予防のスポーツドリンクのペットボトルを二本目開けた頃にようやくたどり着いた。


純喫茶 こしかけ、そう書いてある看板が真っ先に目に入る。こんな私有地の山の舗装すらされてない道を登ってくる客なんていないので営業届けも出ていない。じいさんのさらにじいさんが昔営業していたらしいがその名残だと時折看板を拭いていたじいさんの顔が思い浮かぶ。


「懐かしいな」

「本当にな、待っていたよ」


空気が凍る。いや一人で来たし。知らん声だし。さっきまで死ね死ねうるさかった蝉の声も一気に遠のく。行かないでくれ現実感。


「掛居 裕次郎の孫息子の裕太だろう?人の話を聞く時は目を見て聞けと言われなかったか?」


甘ったるい、どこか聞いた事のありそうな性別のよく分からない声が誘ってくる。いやこれはダメだろう。オタク特有のメタ思考が高速回転する。これは振り返っちゃダメなやつ。振り返ったら明らかに人外がいるやつ。どう考えてもそう。もしくはろくな展開が待ってないはずだが、人間ってのは好奇心に勝てないように調教されているんだ。


ギギギ、と音がなりそうなほどぎこちない動きで振り返る。


「よぉ、これからよろしく」


そこにはソシャゲの嫁がいた。


「は?え?うそだろ?え?は?どういう?」


2次元が3次元にいる。いみがわからない。いやどう見ても実写化するならこう!な理想的な推しが目の前にいる。

惰性と愛で高校から10年計画的に課金と散財を繰り返していたソシャゲ、神話大戦極のオオゲツモチというおとこの娘だ。

太陽と食べ物をモチーフにしたコックのような巫女のような格好をしている可愛い姿に肩から腹にかけて大きく切られた跡のある可哀想な神様で戦いに使える訳では無いが貴重なバフと回復要員で何より顔が可愛くて顔が可愛いのが気に入って3年くらい性別を知らずに推していたが後におとこの娘だと知ってそれもまた良きかなと業を深めたのはいい思い出だったんだが、現実逃避はそこまでだった。


「オオゲツモチ?」

「いや違う」

「そんなにオオゲツモチしてるのに?」

「お前これ好きなんだろ?孫の嫁って裕次郎がよく話してたから式神として姿を作る時に寄せてみたんだが」

「情報量」


オタク特有のメタ思考が再び加速する。なんだこれ、なろう系か?それとも転生か?というか式神って言ったよなうちのじいちゃん陰陽師?妖怪退治とかする?


「安心しろ、異世界に転生もしないし陰陽師は明治で無くなったし第7王子に生まれ変わることもないし薬屋でひとりごと言わなくていいしスライムに転生することもないから本当に落ち着いて話を聞いて欲しい」

「なんでそんなに詳しいんだよ」

「裕次郎が好きだったんだよ。サブスクでアニメも見てたぞ」

「うそだろ寡黙なじいちゃんのイメージ返せよ。あと太ももが眩しいので隠してくださいお願いします」


少なくとも3年は女と信じてたんです。自分でもそっちではないと信じたいけど白く健康的な絶対領域は本当に性癖に悪い。


閑話休題。


ひとまずオオゲツモチ(?)を家の中に入れて話を聞くことにした。年寄りの一人暮らしだったのに意外なほど綺麗で電気も水道もガスもまだ通っていた。


「まあ信じられないと思うから最初は聞き流していいがこの山はな、元々神の休憩所だったんだ」

「は?」

「元々は聖域で禁足地だったんだよ。だからその名残でいまもよほど図々しくなければ人間は山に入るのもいやがる」

「はぁ」


突拍子もない話の始まりにオオゲツモチの入れてくれたお茶を飲みながらモナカを摘む。めちゃくちゃ美味いなこれ。


「それでな、ある日山にお前の先祖がやってきて住処を追われたからここに住まわせてくれって神々に頼み込んでな。じゃあ休憩所の世話をするならと寛大に許したんだ」

「へぇ」

「で、その感謝に保食神と大気津比売神を祀った神社を建ててここに来る神や人外をもてなすことにしたのがお前の先祖」

「それで……?」

「家業を継げ」


いま、令和だぞ?と口から出そうになった。


「神代の時代の約束事を破ってみろ、どうなるか考えることも恐ろしいだろ」

「え、ごめんなんか呪われる的な……?」

「めっちゃ呪われるぞろくな死に方したくないなら家業継げ」


いま、令和だぞ?


思考が固まる。がっちごちに固まる。いま、令和だぞ?神話だか心霊だか知らんがいま令和だぞ?墓じまいすら考えてたのに実家の家業継げって何事……?


「じいちゃんから何も聞いてないんだけど」

「実践で覚えればいいさ。神も多少は丸くなった、優しい神も多いさ。」

「いやでも、お茶の入れ方くらいは習ってるけどそれ以外はなんも知らんかしこみかしこみとか言えばいいの?」

「誰もそこまで形式求めてないさ。喫茶店に入ってるのにドレスコード求めるようなナンセンスさだろそんなん」


ばっかだなぁと言う生意気な目でおとこの娘なオオゲツモチがこちらを見下したように見る。Z世代に神様のマナーはわからんって。


どうやら家業(?)を継ぐことは決定事項らしい。会社どうしよう、と思っていたら業務用のスマホに倒産のお知らせというメールが来た。縁切り神社よりもレスポンス早いなぁと変に感心してしまう。マジか。


「安心しろ、裕次郎に頼まれたんだ。お前が寂しくないように嫁としてそばにいろってな」

「マジで?」


え、甘酸っぱい未来を考えていいんですか?


「なんで男神選んだのか意味わかんないがまあこれから嫁としてよろしくな」


期待をした瞬間に地獄に落とされた。知ってた。最低!最低!


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛爺ちゃん絶対これ分かってただろぉ!!」


ケタケタと笑うオオゲツモチの前で膝をついて嘆くと脳裏にたまにイタズラをしかけてげらげらと笑っていたじいちゃんの顔が浮かぶ。あいつ寡黙なくせにたまにえげつないイタズラしてたな。


「ま、嫁も神の休憩所も、覚悟決めろってことだな」

「これ労基とかどっか相談できないかなぁ」

「無理だな、諦めろ」

「お祓いは?」

「神を祓うってバチあたりにもほどがあるだろ」


グダグダとイヤイヤしていたが不思議と山を登る前までのイヤな空虚感は無くなった。無職になった、いや喫茶店の店長になったのか?自営業か?確定申告とか……いや、神の支払いって、考えることは色々あってある意味頭が痛いがこの時のオレはたしかにワクワクしてしまっていた。

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