98.Vリーグ(その5)
現実世界では東京都の新人戦は春高をまたいであります。
11月に4回戦まであって、1月の春高が終わった後に5回戦以降があります。春高があるから、春高に参加した3校が新体制になるのが、1月からになるので、それに合わせているんでしょうね。
この手の現実改変はこれまでも普通に書いているのですが、主人公を出すために大きく変えているところなので、念のため補足しておきます。
年末、バレー部は新人戦がある。私は高校の時新人戦には出たことがないのでちょっと楽しみ。
新人ってなに、ってことだが、要するに3年生は出れないってだけだ。どのみちうちの学校では、3年生はとっくに引退しているので、全然問題がない。Vリーグも年末年始の中断期間中なので、私は男女とも引率から参加した。
新人戦は都内に閉じた戦いとはいえ、予選リーグもあるのだけれど、そこはきっちり勝ち抜いて、男女とも本選に進んだ。
本戦の1日目は男女とも2回戦から登場。いわばシードされているわけだが、本当のシード校は準々決勝から登場するので、なんていうの、準シードって感じだ。2回戦、3回戦あたりは安心して見てられる。私が特に指示しなくても生徒の間だけで相談し、うまく対応できているようなので、私は野暮な口出しはしない。試合中にやることは選手交代ぐらい。
4回戦、男子の相手は反対側の山でその準シード校を破ってきたチームだ。いわば勢いのあるチーム。大前は女子の方が強いよね、なんて言われてたりするらしいけど、男子もしっかり落ち着いて対応できている。相手は1試合多い4戦目なので疲れているところもあるだろう。最初のうちは相手の勢いが強いので耐える時間があったが、そこをうまくいなして、1セット目を逆転で取ると、2セット目は相手に疲れが出たのか結構簡単に取れた。これで来週の5回戦に進める。
一方の女子は準シード校同士の戦いになった。うちの学校の売りは男女とも守りの堅さだけど、私が指導し始めてから、丸々いない月も含めてだけど、もう9ヶ月。このころになるとレシーブに強いだけじゃなく、高さで勝負できる子、フェイントが上手い子、サーブが強い子と、それぞれに尖った長所を持った子ができてきた。そういう意味でそういった子を上手く組み合わせて使っていくのが私の仕事になる。セッターもリベロも違ったタイプの子がいて、それぞれ使い分けをすることができるので選択肢が広がったのも大きい。
後半少し追い上げられたところもあったが、こちらも無事4回戦突破、男女とも、来週にコマを進むことができる。でもここからがきついんだよね。男女とも5回戦はうちと同じ準シードで2回戦から上がってきたチーム。3回戦って勝ち上がって来たチームだから当然強い。そこに勝てればベスト8になり準々決勝に進出できる。そうすると相手は東京でも4校しかない本当のシード校が相手になる。男女とも相手は年明けに春高の全国大会に出るチームだ。
この一週間はバレー部の強化週間。音楽の両部は今は基礎練習を重ねながらレパートリーを増やそうとしている。
また、学校全体がピリピリしてきたのは、やはり受験が近づいてきたからだろう。私は3年生の授業を受け持ってないけど、新生徒会長から校長に正式に要望書があったそうなので、今は偉い人の間で議論中だという。早ければ来年度から3年生にも授業をすることになる。ということは将来3年生の担任になる可能性もあるということだ。私には進路指導とか絶対無理だよ。多分現役の選手を続けている限りは無いと思うんだけど。
そうこうしているうちに1週間がすぎ、新人戦の5回戦に挑む。こちらは相手チームの映像も手に入れて対策はバッチリしたけど、それは相手も同様だろう。今日は女子の試合から始まる。スタンドから湾岸松原の選手たちが観戦しているのが見える。ほんの数ヶ月前、春高予選でボコボコにされた相手です。この5回戦に勝ったらまたあそこが相手だよ。ちゃんと公平な抽選をしてるんですよね? まあ新人戦だから勝ち目がまったくないとは言わないけれど。
でもまずは5回戦からだ。ここを勝つのも大変だ。相手のサーブをまずレフト平行できっちり切った。今までうちはこういう長いトスをあまり上げてこなかった。だって私が速攻至上主義者だからね。だから相手も少しは戸惑うはずだ。あたりまえだけど速攻以外も練習しているからね。
とにかく丁寧なプレーを重ねてミスをせず相手にブレイクを許さない。一方で、特にサーブはもちろん、他のプレーでも相手が判断に困るようなプレーを続けて相手のミスを誘う。うちは力づくでどうこうできる選手も、高さで圧倒できる選手もいないからね。
サイドアウトの多いシーソーゲームはうちのいつものパターンだ。我慢比べに持ち込んで、そこで負けないことが、強豪相手にうちが勝つための唯一と言っていい戦法だ。第一セットを 25-23 なんとかデュースに入らずに取ることができた。第二セットのスターティングメンバーはいろいろ入れ替えて、選手を送り出す。セッターとリベロ含め4人を変えた。
選手は変えたけど、やれることはあまり変わらないから、所詮は小細工だけど、少しは混乱させたい。大成功とは言えないにせよ、序盤で少しリードを奪えた。後はサイドアウトを繰り返しながら凌ぐ。凌ぐ。凌ぎきった。1セット目と同じ 25-23 途中で互いにブレイクをしたが、2セット目もなんとか持ちこたえた。これでベスト8、湾松にリベンジする機会を得ることができた。
挨拶だけして、私は男子の元に走る。私が着いた時、試合は第一セットの 8-5 少しリードしているけど、まだ始まったばかりだ。すこしぐらい開始を待ってくれればいいのに、と思うけど、女子の試合がフルセットになったり、デュースが続いていた可能性があるので仕方がない。
相手は都立の強豪。同じ都立とは言え、あちらはバレーボール推薦がある学校だ。実はそういう高校は結構あるんだな。とは言っても1校につき毎年2~3名ぐらいだそうなので、私立の強豪校にはなかなか勝てない。とにかく同じ都立なだけに、普通の都立のうちには勝ちたいだろう。
うちは男女とも指導者が私だから、戦術も思想も変わらない。常に自分がチームのためにどうするべきかを考える。常に相手がやりたがっていることを考えて、相手にそれをさせないようにする。相手のミスを誘って、そこに付け込む。こちらはいつでも丁寧にプレーをする。相手のスーパープレーは仕方がないから、すぐに頭を切り替える。まとめればたったそれだけだ。
相手はちょっと調子が悪いみたいで、連携ミスがなんどかあったので、25-20でこちらが取れた。セットの間、相手の監督が生徒に掛ける激がこちらまで聞こえてくるので、どうやら熱血タイプの監督のようだ。
女子と同じようにこちらも選手の何人かを入れかえて、第2セットが開始。思った通り、相手は全力でガンガン来るが、こちらも負けずにしっかり守れている。19-19 まで来たところで、相手がレセプションのミスから崩れ、こちらが3連続得点。そこから立ち直ってきたけれど、これが決めてになって 26-24 でなんとか逃げ切った。これで男子もベスト8。でも次の相手は国体で日本一になった、幸徳学園ですよ。ちなみに吹奏楽も強い。身長などの数字を見ただけでも、体格違いすぎて思わず笑いが出る。ずるいと思わず言いたくなるほどの相手だ。




