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音楽室と体育館  作者: 多手ててと


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89.日置華菜(その2)

合唱の2曲目は寂しげな歌だったが、合唱は幻想的で美しかった。曲の合間に写真部の子なのか、何人か腕章をつけた子が舞台に現れて、写真を撮ってまた舞台から出て行った。3曲目も私の知らない歌だが、今度は迫力があって、歌が歌に、それにさらに別の歌がより大きな音量で覆いかぶさるように次々と押し寄せる迫力があった。空気が震えているのがわかる。音が空気の波だというのを、私は体で感じた。もっと聴き続けたいのに、唐突に歌が終わった。舞台の吹雪先輩が振り返り、生徒たちと一緒に深い礼をした。私は熱烈に拍手をした。


「続きまして、吹奏楽部による演奏を行います。吹奏楽部はこの夏の吹奏楽コンクール、東京都予選で金賞を受賞しています」


こちらも金賞か。吹雪先輩は強豪クラブの顧問をいくつも掛け持ちして大丈夫なのだろうか? 多分大丈夫じゃないから、ワールドカップの合間に抜け出して指導にいったりしたんだろうな。


アナウンスの声が始まる前に合唱部の部員たちは舞台の左側、つまり私たちの方に整然と退場するのかと思いきや、舞台袖から椅子を持ってきて並べ始める。それが終わると、右側からいろんな楽器を持った別の生徒たちがやはり規律正しく入って来る。服装はさっきの合唱部と同じだ。ただ一人吹雪先輩だけが、例の赤いTシャツを着たまま舞台にとどまって、生徒たちが所定の位置に座るのを眺めている。


全員の準備が終わったのを確認したのだろう。先輩は右手を上げ、そしてリズムを刻み始める。どの楽器かわからないけれど、静かな音色が流れ始める。ああこの曲も流行りのポップスだから私の知っている曲だ。原曲は最初からビートが強いので、印象が随分違う。合唱と同じように、ここでも先輩が手を動かすたびに新たな楽器が合奏に参加していき、音が空中に絵具を重ねるように、空間に彩りを作り出していく。先輩の左手がゆっくり上がるのに合わせて、なにかの楽器の音が大きくなったかと思うと、ゆっくり下げられるのに従ってどこかの楽器の音が下がる。右手もリズムを刻むだけでなく、生徒の誰かを指さしたり。くるくる回したりと私にはわからない動きをすると、そのたびに音楽が変化し、時に激しく、時に優しく音色を引き出す。


2曲目は私でも知っているクラッシックの名曲。こちらは随分迫力があった。3曲目はとても速い曲だった。先輩の両手がせわしなく動き、数多くの楽器の音が重なっては離れを繰り返し、一つの音楽を奏でる。そしてこの曲も、唐突に終わった。まるで違う曲なのに、合唱部の3曲目と同じようだ。


私はまた手が痛くなるまで拍手をした。吹雪先輩が客席に振り向いて、生徒たちと一緒に礼をすると、拍手が大きくなる。


「続きまして合唱部と吹奏楽部、両部によるコラボを行います」


アナウンスの後、一度舞台袖に消えた合唱部が6人だけ戻ってきた。そのうちのひとりはマイクを舞台の真ん中に設置し、その前に3人が立ち、その後ろに別の3人が立つ。それまで舞台の中央にいた吹雪先輩は、舞台の右側にずれる。そして皆の用意ができたのを確認したのか両腕を振り始めた。


その両腕に操られるように、吹奏楽部による音楽が鳴り始める。私でも出だしを聞いただけでわかる、あまりにも有名な曲だ。「We are the world」 当時の大スターたちが次々にソロを引き継いでいく名曲を、合唱部の面々が一人ずつその代わりになってソロで歌っていく。3人ワンセットでそのまま舞台を降りて次の3人に代わる頃にはさらに次の3人が舞台そでから出て、歌い始めた3人の後ろに並ぶ。その後数人ワンセットとは言え、ソロの部分が多いのに、みんなとても上手だ。


コーラスの場面になると、客席が明るくなって、既に舞台から降りていた子たちが客席の通路で歌い始める。人数が多いから、ソロのパートが無かった子たちも既にいたのだろうと思う。曲が体育館全体のコーラスで終わる。よく見ると、通路で歌っている子たちもちらちらと舞台の上の吹雪先輩を見ている。先輩から指示がでたら、すぐさまそれに応じることができるようにしていることがわかる。


2曲目も英語の曲、どこか聞き覚えがあるけど私の頭はあやふやだ。客席前全体に散らばった合唱部の子は観客の学生や子どもたちに歌いかけて一緒に歌うのを促す。たいていの子は歌えないけど、たまに歌っている子がいるところを見ると相当に有名な曲なのだろう。私の近くにも部員がいて、私や早苗先輩たちと歌いながらハイタッチを交わす。でも早苗先輩も椿先輩も知らない曲みたい。サビの部分に入って、聞き覚えがあることがよくわかったけど、私は歌えるほどは知らない。歌の音がどんどんが上がって終わった。吹雪先輩始め、舞台の上の吹奏楽部員と、広く客席に散らばった合唱部員がお辞儀をする。


どうやらこれで、両部のコラボは終りのようだ。部員たちが退場していく。一部の自分の楽器を仲間に渡したらしく、手ぶらになった部員が椅子を片付けて、その空いたスペースに、舞台の端から中央にピアノを移動させる。ピアノの向きもたまに写真とかで見る右向きではなくて、吹雪先輩がまっすぐ前を向いた状態で固定された。よかった。このまま演奏が見えないかと思った。マイクもセッティングされているようだ。


「続きまして、本日の最後のプログラムになります。本校音楽教諭の長崎先生による演奏です」


吹雪先輩は例のTシャツのまま、ピアノの前の椅子に腰かけた。


華菜視点はまだ続きます……。元々は1話で終わらせる予定だったんですけどね。


なおコラボの2曲目は、映画「アニー」で使われた、超名曲「Tommorrow」を意識しています。華菜はもちろん早苗も椿も知らないです。どちらの曲も著作権が切れていないのでガイドラインに従ってタイトルだけです。

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