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音楽室と体育館  作者: 多手ててと


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86.文化祭(その6)

ワールドカップは大阪ラウンドが終わって、東京ラウンドに移る。そこで残りの試合をこなして、無事に2連覇を達成、来年のオリンピック出場が決まった。11試合が終わった後、優勝を祝うイベントをする、という話が協会から出てきたようだが、私はそこへの出席を拒んだ。


「私は良識あるメディアの皆さまから、もっとプロ意識を持つように求められているようです。なのでそちらはプロ選手の皆さまにお任せして、私は自分の仕事にいそしむことにします」


自分でも底意地が悪いと思ったが、もう文化祭まで日が無い。文化祭は吹奏楽部と合唱部にとっては最大の見せ場だから、できる限り残り時間を注ぎたい。


両部とも今年それなりの成果を上げているので、30分づつ体育館のステージの時間をもらっている。生徒たちにほぼ丸投げしたところ、20分×3に分ける案を両部長が持って来たのが、ワールドカップが始まる前のことだ、最初が合唱部、次が吹奏楽部。最後に両部コラボの演目だ。私のすることはそれを了承することと、仕上げを手伝うことだ。9/29(日)がワールドカップの最終戦。最終戦の後宿舎に戻った私は、急いで荷物をまとめて自宅に帰った。そして翌日、9月30日(月)の朝から学校に出勤した。この土日が本番なので、練習できるのはこの月から金の5日間しかない。


「どちらの部もこれまで学生だけで練習してきたのだから、指揮も生徒がった方がいいんじゃないかな」


月曜の昼休み、私はそう言ったけれど、どちらの部長も、指揮者は吹雪先生前提で練習してきたのでお願いしますと言われてしまった。そりゃ今回の演目は事前にもらっていたけれど、指揮者を変えたら、一からとは言わないけど、結構やり直しになるよ。この時間ではとても無理。


そう言っても部長のみならず部員たちは結構頑迷だった。たしかに顧問らしいことができていないから、私は受けた。残された時間、つまり放課後を夜まで使ってでどんどん演奏を修正する必要がある。部員の中にはクラスの出し物にも関わっている子がいたりするので大変だ。バレー部に割く時間は無いが、そこは申し訳ない。同じ顧問を共有してるので、お互い様と割り切ってもらうしかない。


ところでもう一つせないことがある。プログラムを見ると「長崎教諭によるリサイタル」なる時間が各部の演目とは別に15分設定されている。この話は初めて聞くのだけれど?


「このプログラムって誰が作ったの?」

「生徒会です。私たちも最初びっくりしましたが、吹雪先生の了承を得ているのかと思っていました」


全然大丈夫じゃない。まったくなにも練習していない。


唐突に話を変わるが、私は1年2組の副担任でもある。おそるおそる担任と話をすると、さすがにそれどころではないですよね、と言ってくれたので助かった。私、副担任の仕事って任用されてからどれぐらいやっただろう。朝のHRを月に1回代わったかどうかぐらいじゃないの?


だが、たしかにそれどころではない。部活は7時から朝練。その後は1限から6限までぎっしり詰まったいわゆる時間割Cをこなし、放課後は夜遅くまで合唱部と吹奏楽部の練習をする。どちらの部も、文化祭向けに普通の学生や父兄をターゲットにしている。最近ヒットしたJ-POPを1曲、誰もが知っているような普通の合唱/吹奏楽の曲を1曲、そしてちょっとチャレンジングな曲1曲を選んでいる。そしてコラボする20分は吹奏楽をバックに合唱部が歌うのがメインとのことだ。


通常より長い部活動が終わった後の時間、次の日の授業の準備をして、その後ようやく自分の演目のための練習が取れる。15分。長い曲だったら1曲で終わるけど、そういうわけにもいかないだろう。短めの曲を3曲。選んで練習するしかない。まあ文化祭だから適当にアレンジして15分で終わらせよう。そうしよう。


最初は誰でも知っている曲を弾き語り、2曲目はピアノだけ。3曲目はオリジナル。私がよくやるパターンだ。


1曲目はフランキー・ヴァリの「君の瞳に恋してる」にしよう。日本でもバンバンカバーされている名曲。もちろんガンガンアレンジを加えることにする。テンポも音程もどんどん上げよう。2曲目のピアノはパッハベルの「カノン」から「カノンロック」へ展開。当然アレンジする。3曲目はオリジナル、私の頭の中でだいたい出来上がっている新曲をこの機会に形にしようと思う。タイトルは「おやすみなさい」だ。タイトル通り子守唄なのであまり盛り上がる曲ではない。これまでの試合やコンクール、そして文化際の準備に煩躁した生徒たちにゆっくり休んで欲しいという願いを込めている。その意図が通じる相手がいたらいいな。


時計で測りながら練習して、なんとか15分に収められるだろう目途が付いた。そうこうしているうちに気が付いたら日付が変わっていた。正直このまま音楽教官室で寝てしまいたいが、そういうわけにもいかないので、戸締りをする。


音楽室は私の管理下にあるが、校舎自体は違うので、鍵は職員室に返しに行く必要がある。さすがにもう誰もいない。私はしかるべき鍵を職員室に返して、防犯装置を起動させ、文字通りダッシュで帰宅した。


さて、この短期間で吹奏楽部と合唱部をなんとかまとめられるかな?

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