84.文化祭(その4)
私が会場に着くと、引率の種村先生にお礼を言う間もなく、生徒たちから口々に大丈夫かと心配されてしまった。
「大丈夫、勝ち残っている限りいるよ」
私はそう言ったけど、部員の微妙な顔を見ると私が来たのは、かえって逆効果だったかもしれない。
さて女バレの春高予選の初戦、相手は奇しくも東南大付属池袋、男子がインターハイの東京都予選の5回戦で負けた、ある意味因縁の相手だ。ちなみにインハイの東京都予選は男子も女子もベスト8のチームだから当然強い。しかも3年生も主力が残っているようだ。こちらは1、2年生しかいないけど、夏の間に早苗の力も借りて鍛えたから、そこまで戦力は落ちていないはずだ。
なお私を見て、対戦相手の選手や指導者、それに他校の子がやってる審判までが驚いていた。まあ、女子のワールドカップの真っ最中だということは、バレー関係者ならみんな知っているだろうし、そちらを優先するのが普通の考え方か。ここでこういう反応だということは、大阪に戻る時は覚悟しておいた方がいいかもしれない。
試合はうちが予想以上の大健闘を見せている。いつものように高さは相手の方が全体的に上だけど、こちらは守備がきっちり機能していて相手のブレイクをなかなか許さない。ミスもなくきっちり繋ぐバレーができている。私や早苗のアタックを拾う練習、正確には拾おうとする練習、をしていたからね。攻撃も上手くボールを散らせている。14-15 のところで相手が連続でミスしたので逆転。その後もわずかなリードを守って第1セットを取った。
第2セットは最初にこちらのサービスエースが2本続いて始まった。その後は一進一退だったけれど、こちらが20点を超えたところで、焦りからか相手がミスを続けたので、そのまま1回戦を2セット連取で取った。相手はインターハイ予選のベスト8、これは大金星ですよ。私はコーチとしてベンチに入っていた種村先生や生徒たちとハイタッチした。この子たち本当にメンタル強いよな。
私たちは昼ごはんを食べて午後の試合に備える。
でも2回戦は都大会準優勝でインターハイ本戦に行ったシード校、湾岸松原高校が相手なんだよね。全国でもベスト8まで行ってる。間違いなくこれまで当たった相手の中では群星の次に強いだろう。春高予選だから強豪校しかいないのは当たり前なんだけど、早く当たりすぎだと思う。
高さは1回戦の相手よりさらに差がある。それにうちとの試合にはセッターをふたり入れてきた。こちらはツーセッターのチームと当たるのは初めてだ。一応これまでの湾松の試合を一通り見たけど、ツーセッターは初めてのはずだ。実験台にちょうどいいと思われているのかもしれない。
実際、うち相手にツーセッターは効果的かというとそうでもないような気がする。だって高さが違う。単純にこちらのブロックの上から打てる選手がいるんだから、その子を使えばいい。そりゃブロックに飛ばないのと比べると、かなりコースは制限することはできるけど、それでも高さを持っている子は怖い。だからツーセッターにして飛ぶ人数を増やす必要性をあまり感じない。とはいえ、何も対処しないわけにもいかない。思いきって前衛もブロックに飛ばずにリリースしてレシーブ勝負をするように指示した。
これが多少は功を奏したのか、16-19 となんとか離されずについていけている。だが湾松は守りも固いので、こちらはなかなかブレイクできなくて、20-25 で1セット目を落とした。決め手に欠けるのに、20点に届いただけで十分うちの生徒もスゴいと思う。
2セット目、相手はセッターをひとりにしてきた。5点しか離せなかったのでテストはお終い、2セッターは不採用ってことなのかな。でも湾松で1番高い子は当然残っているから、脅威が減ったわけではない。
あの背の高い子を潰しても他にも跳べる子が揃っているし、セッターは手堅いし、守りも堅い。攻撃もブロックも速くて上手いので手が付けられない。いろいろ練習した新しいコンビネーションで揺さぶったり、ロングサーブやフェイントで小細工しても、効果は一時的なもので次から通用しない。メンタルも強いのか、すぐに立て直してくる。さすが全国区の学校相手は厳しいなあ。
結局18点しか取れなかったけれど、これで上出来、良く頑張ったと思う。やはりこのレベルの相手は、群星もそうだけど単純にすべてが強い。しかし、だからといって歩みを止めるわけには行かない。次はもっと上をめざして進むだけだ。
負けたから次の試合の審判をしなければならないのだけど、それは生徒と種村先生に任せて、私は一足先に会場を出させてもらった。今からだと宿舎を出る前にぎりぎり間にあうかもしれないが、やはり難しいか。




