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音楽室と体育館  作者: 多手ててと


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82.文化祭(その2)

立浪監督の方針なんだと思うけど、群星高校の女子バレーボール部員は、基本的にオールラウンダーに育てられる。どのプレーもある程度の水準を超えた上で、その個々人の尖った部分を求められる傾向にある、私はそう思う。


例えば私は前衛として他の代表選手に劣っていると思わないし、状況に応じたトスも上げられるけど、一番得意なのはやはりレセプションとディグだと思う。早苗もなんでもできるけど、サーブとアタックは他の選手より何枚も上だ。あとブロックもそうか。


椿先輩もセッターとして代表入りするに十分な実力を持っているけど、レシーブはもちろん、自分で打つこともできるし、ブロックも高い。高校の時から心強かった威力のあるサーブもレベルアップしている。華菜ちゃんだって、高いブロックと速攻が売りだけど、サーブもレシーブも代表選手として十分に上手い。私や早苗も含めて、4人とも競技人生で大きなケガをしたことがないのも立浪監督の影響だと思う。


もちろん全員がそうなれるわけじゃないけど。そういう方針で高校3年間を育てられた。だからセッターの椿先輩が狙われてレシーブにせざるを得ない時でも、オポジットの早苗がツーで打つように見せかけた上で速攻のトスを上げ、華菜ちゃんがAクイックのおとりに飛んで、私がバックロークイック、つまりバックアタックで速攻を決める。そんなことも普通にできてしまう。


もちろん全員が高校の時より強く、上手くなっているからできるのかもしれないが、バレーボールの原点が同じだから、よりやりやすい感覚がある。夏合宿などに早苗が来てくれた時、生徒への教え方がどこか私の教え方に似ていると思ったが、それに近いものがあると思う。そういえば畑違いだけど、谷山先生と咲先生の教え方も違うようでどこか似ている。


とにかく、椿先輩も華菜ちゃんも今は他の選手と併用されているけど、高校時代のポリシーを共有している私と早苗が主力で入っている時間帯は、連携面からレギュラー争いで有利に働くと思う。


今度立浪監督に会ったら聞いてみたい。代表、それもワールドカップのコート上にいる6人の選手のうち4人が自分の教え子、それってどんな気持ちでしたかって。監督のことだから、多分普通に私たちを褒めてくれそうな気がするが、内心すごく喜んでいるんじゃないかな、と思う。


第1、第2セットをそれなりに差をつけて取ったからだろうか、第3セット、群星組は全員ベンチスタートになった。この試合、早く終わらせたかったんだけどな。日本もそうだが、相手のドイツもいい試合をしていて一進一退のシーソーゲームが続く。


私はベンチで隣に座っている早苗に話しかけた


「ナエ、ちょっといい?」

「なに?」


早苗が私を見る。


「このセットで終われば、8時半ごろには試合が終わるはず。だからまだ最終ののぞみに間に合うと思うんだ」


ここ、大阪府立体育館から新大阪までは御堂筋線一本で行ける。


「んんーん?」


早苗の機嫌が一気に悪くなったのがわかった。


「明日もここで試合あるねんで。一昨日みたいにフリーとちゃうで」


一昨日の木曜は試合が無く休養日だったので、私は午前中に新幹線で東京に戻った。授業が終わるまでにまた各部の練習風景の動画を見て、気になるところをチェックし、放課後は特に女バレの指導をして、最終の新幹線で大阪に戻った。


だが、明日は日曜日。当然ワールドカップの試合がある。大阪ラウンドの最終戦が。


明日が最終戦っていうのがまた嫌だよね。もし今日が最終戦なら、一足先に東京に戻ってもあまり問題が無かったと思う。だがもし、今日東京に戻れたとしても、明日は試合に出れるかどうかはおいておいて、夜の試合が始まるまでに戻ってこないといけないし、そのくせ明後日にはまた東京という、新幹線のヘビーユーザーになってしまう。


私が早苗に説明しようとしたそのタイミング、こちらがサーブ権を失ったところで、ちょうど私と早苗が呼ばれた、スコアは 20-20。 監督はこのセットで決めるつもりなのだろう。それは私も望むところだ。早苗が前衛のレフトに、私が後衛のライトに入る。相手のサーブはレフト側に打たれたが、味方ががきっちりレセプションしてセッターに返す。セッターの長い平行トスをレフトの早苗が決める。サイドアウトでローテーション。


椿先輩とどちらがうまいかと言うと難しいけど、トスワークだけならやはり今のこの正セッターの方が上かなあ。


残り4点のうち3点を早苗がひとりで取って試合が終わった。2ブロック付かれても、力づくで、あるいはフェイントで淡々と点を取ってくれる。私はこのセット一度もボールに触らないまま終わってしまったが、勝ったから全然問題ない。


これで4連勝、ワールドカップはすべて5セットマッチの3セット先取だが、3-0で終わったので、時刻は予想通り20時半ぐらい。もしこのまま会場を出れるのであれば、さっき早苗に行ったように、まだ最終ののぞみに間に合うと思う。でも記者会見とかいろいろあるので、それを考えると絶対無理だなあ。残念だけど、今日の新幹線に乗るのは諦めるしかなさそうだ。


私は普通に記者会見に出て、いつものように判で押したようなコメントをして、ホテルへ向かうバスに乗り込んだ。

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