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音楽室と体育館  作者: 多手ててと


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50.鳥羽早苗(その1)

ネーションズリーグの予選なんて出るつもりや無かった。でもトルコでやるんやったらしゃあない。うちの社長にも頭下げられたしな。


「うちが出たらトルコは負けるで」


そう社長にうたった。


「盛り上がらないよりは遥かにいいことだよ。それもサナエに負けるならお客さんも仕方がない、そう思って満足して帰るだろう。だからそれでいいんだ」


ふーん。まっ、わからんこともない。うちはこの国で結構人気あるからな。今回はいないけど、吹雪に遊ばれて負けるよりはだいぶましやろう。


しかしネーションズリーグが始まると、出えへんかった方が良かったと思てしまうようになった。だってVリーグのチームの偉いさんが、かわるがわるうちの所に来るんよ。将来帰国することもあるやろう。そう考えるとあんまり無下にもでけへんしな。


うんざりするのは誰も彼も同じことを言いよるからや。


「是非、来シーズンから私どものチームに入って頂けませんか? 年棒が上がることはお約束しますし、違約金も私どもの方で用意させて頂きます」


だいたいどいつも同じことを言う。違約金いうのはうちは次のシーズンも今のトルコのチームにいる契約になっとるからや。


「そっか。それはええ話やな。また気い向いたら連絡するわ」


うちが考える気なんてないことはすぐわかるはずや。日本人ならちゃんと空気を読むべきや。せやけど目の前のこいつはしつこかった。


「今、日本女子は3大大会を4連覇中。鳥羽さん、あなたはVリーグの盛り上がりをご存じないのです。協会はもちろん、私ども実業団やクラブも予算が潤沢です。必ずや満足いただける金額をお出しできると思います」


うちはやんわりと言い返した。


「それくらい、うちかて聞いてるて。結構ヨーロッパやブラジルのええ選手がこっちのリーグからも引き抜かれてるしなあ。景気がええのなら、なんもいうことないんちゃうの?」


せやけどそれも痛しかゆしなんやろうなあ。うちにはスポーツ経営の話は分からん。せやけど日本のバレーボール界でなにが起きているかは、ある程度わかっているつもりや。


3大大会を4連覇中、か。バレー関係者なら諸手もろてを上げて喜ぶべき状況や。やっぱり代表が強ないと、盛り上がらんもんなあ。日本が国際試合で勝てるようになって、Vリーグにお客さんがいっぱい来るようになった。多くの試合がテレビで放送されるようにもなった。スポンサーが増えて金回りが良くなった。ええことづくめやろ?


でももう4連覇した。そうなったらみんな別のことを考え始めるようになったんやろ? 


金回りのよくなった協会は育成にも力を入れた。ええことや。チームは海外から強い選手を連れてきて、リーグのレベルが上がった。これもええことや。でもVリーグで活躍するのはその連れてきた外国人選手が多い。例えば得点王ランキングを見たらすぐにわかる話や。


もちろん得点ランキングだけやないで、他にもいろんな数字があるから探そうと思ったら簡単や。


なんでかな? みんなそんなことを思い始めたんやろ? なんで日本は国際試合で勝ちまくってるのに、Vリーグは外国人選手ばかり活躍しているんやろ、って?


「鳥羽さん、でははっきり言いましょう。あなたは世界最強の女子バレーボーラーです。最強のバレーボーラーに自分のチームでプレーしてほしい、そう思うのは当たり前の話です」


今まで来た奴はこんなにはっきりとは言わんかった。そう思うと、目の前のこいつは根性あるんかもしれん。顔ははっきり言ってうちの好みではないし、年齢もうちの親父おとんより上やけど、ちょっとぐらいサービスしたろかな。


「バレーボーラーで最強ってなんやねん。ポジションによってやれることちゃうやろ? チームスポーツなんやから、相性かてあるし、敵味方のメンバーによって自分が出せるパフォーマンスは全然ちゃうやろ? それに今日はちょっと調子悪いなあ、とか普通にあるで?」


それでも目の前のこいつはあきらめよらんかった。


「そんなことは鳥羽さんの強さに比べれば些細なことです。どんな状況でも、最強の女子バレーボーラーは鳥羽さんです」


ぐはっ。笑うてしまうやんか。


「そんなことないて。うちは別に世界で一番強いプレイヤーとちゃう。まあ2本の指には入るやろうけどな」


うちがそういうとこいつは意外そうに言い寄った。


「2本ですか?」


とぼけよるなあ。


「わかってるくせに。せやからここに来たんやろ? よかったやん。うちがおらんでも来シーズン、V1個人成績の上位に日本人が来るやろうからな。それとも練習生は別枠にすんのかな? まあ縁があったらまた会おな」


そうやって彼を追い出した。


来年は吹雪がいるチームがV1に上がってくる。そうしたらなぜ日本代表があんなに強いのか、その原因が観客にもわかるやろう。でもそれは協会にとってもVリーグにとっても微妙なんやろうな。だって吹雪はプロとちゃうから。


不思議なもんやなあ。高校生が、大学生が代表で活躍したらみんな手放しで喜ぶのに、なんで高校の教員がVリーグで活躍したら協会やマスコミはあんまり喜ばれへんのかなあ?


吹雪の場合、学生時代の実績があるからまだマシなんやと思うで? もし高校の時から代表に選ばれてへんかったら、大学生でメダルを取ってへんかったらもっと風当たり強かったて思うで。そうなったら吹雪はバレー選手辞めてたかもしれへんから、学生時代から実績があってうちはよかったと思う。


今の契約が切れたら日本に戻ってもええかもしれへんね。もうお金は十分貯めたし、これからも稼げるだろう。そして、もし日本に戻ったらうちはどういうチームに行くかはもう決めてんねん。なんでかって私は負けるのが大嫌いやし、やるなら楽しくやりたい。そういうても次の次のシーズンやから、行くチームの名前まではわからん。昨シーズンと同じなら東京ジャンパーズとかいうダサい名前のところにいるらしいけど、うちがトルコを出る頃には、吹雪はまた違うチームに移籍しとるかもしれへんからね。


とにかくうちと吹雪が揃ったら、残りのメンバーのことはあまり気にせんでもええんよ。足を引っ張らない程度に頑張ってくれればそれでええ。あとはうちと吹雪でどうとでもできる。最悪Vリーグがダメでもビーチに専念したらええだけの話やしな。

お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、鳥羽早苗はラスボスとして設定していました。そのつもりで書いてきたのですが、やっぱりキャラって勝手に動き出すんですね……

なお早苗視点は続きません。次回はしばらく先になる予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 他者視点からだと主人公像が「怖い」とか「遊ばれる」とか出てくるのが面白いです。 どういうことだったのかと解説エピソードの訪れを待っていようと思います。 [一言] バレーIQが高いって感じな…
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