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音楽室と体育館  作者: 多手ててと


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35.最初の授業(その7)

お昼休み、私は音楽室でお弁当を食べていた。いわゆるランチミーティングってやつを始めてみました。私が顧問を務めている各部の部長か副部長のどちらか一人が来ること。どちらも無理な場合は代理人も可。それと、誰でもいいからもう一人部員を連れて来るように伝えている。できるだけ今まで来たことの無い部員がいい。これを毎週金曜日に行うことにした。金曜日は音楽室で授業が無いからね。


板張りのアリーナのところにビニールシートを敷いて、そこでみんなでお弁当か買って来たパンを食べる。今日は第一回なので、4部とも部長と副部長に来てもらっている。話題はもちろん今年の新入生についてだ。


「まだ仮入部だけどどんな感じかな?」


私が聞くとどの部も今年は豊作だという。あくまで今の時点の予想だけど、例年の倍ぐらいの人数が見込めるのだという。


「まあ入部後、すぐに辞めていく子もいるんですけどね」


吹奏楽部の副部長が言う。それはそうだろうな。友達ができなかったり、自分に合わなければ部活を変えるほうがむしろ健全な気がする。


「それに経験者はもちろん、初心者でも他の部活やってた子が多いんすよ。例えば中学でバスケやってた奴が入部しそうです」


男バレの部長がはっきりと言う。女子に囲まれているのに物怖じしないところは恰好いい。


「でもなんで今年は去年までと違うのかな?」


私がつぶやくと、生徒たちは顔を見合わせた。


「私の友達でもそうなんですけど、中学の時は部活やってたけど、高校では部活に入ってない、って子が結構多いんです。高校になったら勉強しなきゃって思うらしくて」


へえ。やっぱり公立の進学校だったらそうなのかな?


「今年は高校になったら辞めよう、って思ってた子も、思い直して続けようとしてくれている、何人かと話をしましたが、そういう印象です」


女バレの副部長が彼女なりの見解を聞かせてくれた。興味深いけどなぜそうなったのかを考えておいた方がいいんだけどわからない。


でもまずはどの部も後継者不足に悩むことはなさそうでなによりだ。


「もうやってもらっているみたいだけど、初心者には、焦らず基本から教えてあげてね。やっぱり基本が大切だから」


他に聞いておかないといけないことはあったかな?


「そうそう、部員の人数が増えたことで困ることもあるよね。特にバレー部。練習する場所足りてる?」


私の発言にバレー部の全員が無言になった。


実は音楽室も生徒用の席が足りない。選択科目を期限前に提出してきた生徒たちの、音楽選択率が例年よりも高いらしく、このまま行くと新たに座席と譜面台が必要だ。驚いたのは1年で美術や書道を選択してた子でも、2年で音楽に変えた子もいるという。


だが音楽室はスペースがあるから席が増やせるだけまだいい。視聴覚室もそこそこ大きいからとりあえず人を入れることはできる。パート練習で互いの音がかぶるのはもう仕方がない。でもバレー部は2年と3年だけでも狭かったからね。


「仕方ないから外のコート使おうか。月曜と火曜は男子が体育館、水木は女子、雨の日と金曜は今までどおり、どう?」


体育の授業だとバレーボールは外でやるので、そのコートがある。でも試合はインドアだから色々と勝手が違うんだよね。


一軍と二軍に別けるのもありだけど、それはそれでまた別の問題を産む。


「とりあえず来週はそれでやってみよう。それからもっといい方法を皆で考えていこう」


バレー部は6月にインターハイの予選が始まる。それまでに試合慣れさせようと思えば今のうちから練習試合とか、準備しておかないといけない。都内の高校バレーは、力を入れている私立高校がいくつもあって、中学から活躍している生徒はだいたい、そういう高校に行く。私もそうだった。一度はそういうところと試合を組んでみたいけど、相手側にメリットがあまりない。やはり直接監督と話ができる自分の母校がいいかな。母校、群星高校に卒業後も私はよく行って、後輩を鍛えるのを手伝っていたから、嫌だとは言われないと思う。


レベルが近いところだと、近場の都立高校に連絡を取ってみるという方法もある。形だけ所属している都教員バレーボールクラブ杉並から声をかけるという方法もある。私はバレーボール界にそれなりに顔が利くとは思うから、手段を択ばなければなんとかなると思う。


7月には合唱部がMコンに出る。8月には日本吹奏楽コンクールがある。吹奏楽部は入学式で演奏したものを自由曲にする。合唱部は部活紹介の2曲目を鍛えなおす。確かにそれだと、課題曲に専念できるから効率がいいけど、レパートリーが増えないという問題がある。それでよいのかな。マンネリで停滞を産まないかな? それに、こちらも特に1年生に舞台を踏む機会を与えたい。


そちらは藝大人脈を使えばいいんじゃないの?、と思う人もいるだろう。だが、藝大生の卒業後の進路は公開されているのでその実績を見て欲しい。ざっくり言うとピアノも含まれる器楽科のうち半数は「未定・他」だ。このカテゴリーについて説明するのは難しい。フリーのピアニストもいるし、純然たる無職もいる。また全体の1/3は大学院に進学する。


残りの1/6が就職組なわけだが、そのほとんどは、自営業(つまり自称プロ)あるいは、非常勤の仕事に就く。オーケストラを含んでも、企業等への普通の就職組は極めて少なく、教職に就くような変わりものは数年に一人しかいない。今年で言えば全学年、美術学部もあわせても私だけ、その前に教職についた人を探すと数年前になる。長々と書いたが、要約すると藝大人脈で他の高校の音楽教師を探すのは難しい。


恩師の谷山先生にまたすがってみる? 散々迷惑をかけたからそれは避けたい。兄弟子・姉弟子にダメ元で聞いてみようか? それとも恥を忍んで、藝大時代の先生方に連絡を取る方が確実かもしれない。


他に方法があるとすると……教える人材だけなら暇な友人や後輩を飯代ぐらいで雇うという方法がある。OB含むバレー部のチャットに呼びかければどうだろう。バレー部は圧倒的に美術学部の方が多く、音楽学部の人間は少ない。それでも何人かのスペシャリストを集めることができるはずだ。当たり前だけど普通の高校生よりも遥かに上手い。教えるのに向いているかどうかはまた別の問題だし、外部の人間をあまり大々的に連れて来ることもできない。


そう考えるとやはり、もっと場数を踏ませたい、という話に戻って来る。どうしても知らない人たちの前で歌ったり演奏したりする経験が必要だ。大谷先生や咲先生の人脈に頼るのもやはり難しそうだ。地元のイベントで披露させてもらうにしても、そんなに都合がいいイベントがあるかは難しい。うちの吹奏楽部も合唱部もそんなに実績ないしね。やはり近所の都立高校と合同練習を開いて互いに発表するのが現実的かな。

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