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32.最初の授業（その4）

2限目は空き時間なので、その間に3限目に向けに準備と復習をする。2年生も最初は歌唱から始めるが、こちらは教科書通りに進めることにする。教科書の最初に乗っている曲がものすごく有名なポップスだから、これならば皆知っていると思う。

だが、歌詞をきっちり知らない生徒もいると思うので、あらかじめホワイトボードに書いて裏に向けた。

来る人数はさすがに1年よりは少ないはずだ。そう思っていたのだが、3限目も人数がいっぱいだったので、1限と同じように中央に人を集める。私は最初に聞くことにした。

「皆さんは2年生なので、芸術の選択をもう決めている人がほとんどだと思います。全然怒ったりしないので、来週以降も音楽を選択しようと思っている人は手を挙げてください」

半分を超える生徒が手を挙げた。私は大げさに安心したそぶりをする。逆に言うと4割ぐらいの生徒は美術か書道に戻るということだ。

「正直安心しました。さすがに毎週この人数を相手に授業をするのが難しいな、と思っていました。今日だけの人も楽しんでください。去年もそうだったと思いますが、最初の授業はみんなで歌を歌おうと思います。まだ配られていませんが、教科書に沿って進めようと思います」

えーっ。

という声が実際に聞こえてきたが、無視する。

「今日みんなで歌おうと思うのはこの曲です」

私がリモコンを使って教科書についているCDを流すと生徒たちが、ああ、と声を上げた。

「この歌を知っている人、挙手！」

私が言うと全員の手が挙がった。さすが日本を代表する偉大なシンガーソングライターが作詞作曲し、本人はももちろん様々なアーチストたちがカバーした名曲だ。とある個人の結婚式のために依頼されて作られたというのも凄い。今ではいろんな結婚式で歌われるし、動画サイトでもいろんな人が歌っている。

「じゃあまずはみんなで、好きに歌ってみよう」

私はさっきの用意したホワイトボードを裏返して歌詞をみんなに見せる。

「吹雪先生！」

ある女生徒が手を挙げて発言を求める。吹部の子だ。

「なあに？」

この時点で彼女が何を言い出すのか、だいたい想像がついたが、一応聞くことにする。

「まずは先生が一度歌って頂けないでしょうか？」

ほらきた。

「いいけど、今からやるのは合唱だから、私は完全に教科書の楽譜通りに弾いて歌うよ。でもみんながちゃんと歌ってくれて、時間が余ったら、私なりに解釈してアレンジして弾いて歌う。どっちが聞きたいかな？」

彼女は後者を選択した。その後の授業はスムーズに進んだ。さすがにCD音源だけでは味気ないので、ピアノは私が楽譜どおりに弾いた。

大きな声もいいけど、感情を込めて歌おう。

みんなの声を聞きながら自分の声を出そう。

自分に好きな人がいると考えてみて、その人に聞かせていると思って歌って。

最初は恥ずかしがっていた生徒も、途中からはちゃんと声を出してくれた。残り5分ぐらいを残して、いい感じでみんなの声が揃ったので授業はこれでおしまい。残りの時間で約束通り、私の解釈で歌わせて頂きました。私は好きな人がいないけど、いつかそういう人ができるのかな、と思いながら歌った。

そしてお昼を挟んで5限、また1年生の授業だ。申し訳ないが、1年の最初の授業はもう校歌の練習に決めたので、1限の時のようにどんな歌を歌いたいかは聞かなかった。1年生は週に２回授業があるので、2回目は歌いたい歌を選ばせるようにするつもりだと皆に伝えた。

6限は空き時間なので、和楽器の練習をもう一通りやって、残りの時間は部活の年間計画の続きを立てる。あとは私の予定とのすり合わせだ。

やっぱりビーチに出るか出ないかで全然予定が変わって来る。早いうちに早苗に連絡しておこう。ダメ元で奴にメッセージを送った。

ふぶき：で、結局ビーチどうするの？

さなえ：ポイント足りてるから、後は東京かどこかのWT4で肩慣らしして、クオリフィケーションに出たらええやん。

ふぶき：わかった。じゃあとりあえず東京にエントリーするつもりでいる。

驚いたことに即レスが返ってきた。やっぱり出るつもりなのか。そうだよね。そうじゃなきゃ、去年から今年にかけて、トルコリーグの合間にビーチのツアーに参加しないよね。それにしてもWT4ってほぼ最高レベルの大会を肩慣らしとおっしゃるところは早苗様らしい。そうするとどういう日程になるのかネットで調べてみたところ、とっても恐ろしいことがわかった。

ふぶき：ちょい待ち。ビーチのオリンピッククオリフィケーションのファイナルと、インドアのワールドカップの初戦って中6日しかない。

さなえ：4年前もそんな感じやったな。連盟って相変わらず掛け持ちに冷たすぎるて思わん？

ふぶき：まだ重なってないだけお情けがある、って思えってことなんじゃない？

どちらも9月なので、当然授業にしわ寄せがくる。これで年間予定を組んだらどうなるんだろう。とっても恐ろしいが、早めに計画をたてて調整を始めないと、とんでもないことになるのが目に見えている。私は急いで年間計画を立てた。