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補充―3

「用意している間に他にも人を雇いたいのだが、どこに行けばいい?」

「それならガゼフの所に行け。今は王都で仕事をしているから、ここから歩いて十分もかからない」


 ガゼフか。奴隷でも悪くはないが、有能な奴がいるかが問題だな。鑑定である程度分かるとはいえ、万能という訳ではない。スキルがあっても使えない奴もいれば、スキルが無くても優秀な奴もいる。

 スキルが無いと使えない能力があるもの以外は、スキルは所詮プラス補正をかけるだけのものだからな。


 奴隷の方が秘密を守らせたりするには良いだろうから、どっちもどっちってところだが。


「ガゼフは奴隷だけで無く人材斡旋もやっているから、好きな方で雇えばいい」


 斡旋もやっているのか。両方見て、金と能力で決めるとするか。


 場所を聞いて俺も部屋を出る。良い奴がいるといいな。今回は戦闘用では無いから、候補は多いだろうな。


 食材を取り扱っている店が集まる場所を抜け、少し行くとガゼフの店に着いた。入り口が大きな通り沿いと横道に一つずつあり、通り沿いの正面には人材斡旋所と書かれた看板がある。

 先に横道の方に行き、奴隷市と書かれた看板を確認して中へと入る。


「いらっしゃいませ。ガゼフ奴隷市へようこそ」


 俺と同じくらいの年齢の女性が受付から声をかけてくれる。案内を頼もうと近づけば、首に奴隷用の首輪が着けてあるのが見えた。

 ガゼフの扱う奴隷はしっかり管理されてあるなと感心する。彼女くらいしっかりしていれば、使用人としても文官としても使えるだろう。

 その分、値段も高いだろうが。


「戦闘用以外で、健康で働くことのできる奴隷を見たいんだが、案内してくれ」


 「かしこまりました。少々お待ちください」


 受付の仕事を奥で休憩していた女性に引き継ぎ、こちらへとやってきた。


 適当に条件を告げると、すぐに案内を始めてくれる。鑑定を発動させながら、ささっと見ていき、適当に何人か候補に挙げる。

 ピンとくる奴もいないし、スキルも似たり寄ったりなので、元気そうな奴とましそうな奴を商談用の部屋に連れてきてもらう。


「いやいや、お久しぶりです。三度目のご来店ありがとうございます」


 部屋で待っていると、奴隷では無くガゼフがやってきた。いない方がやりやすいが、さすがに放っておかれることはないか。しれっとテーブルの向かい側の席へ座り、ニコニコと笑顔を浮かべる。


「スタイン様の紹介で来られたので目をつけさせてもらっていましたが、これ程すぐに名を上げられるとな思いませんでした」

「主なら当たり前」


 アイリーンが口を挟むとどうなるか分からないので怖いが、話をばっさりと切ってくれることも多々あるので止めはしない。


「アイリーンも良くしてもらっているようで、こちらとしても肩の荷がおります」


 教育もできていな奴を売って反感を買うのが嫌だったんだろう。こっちが無理を言って買ったのだから気にしなくてもいいのにな。


「スタインから斡旋の方の話も聞いた。今日はそちらも頼みたい」

「では、そちらの資料も取りに行かせますね」


 ガゼフが手を二回鳴らすと、奴隷の女性が入ってくる。荷物を取ってくるように指示を出して、またこちらへと向きなおる。


「今日はどのような人材をお探しで?」

「屋敷の使用人と文官のような事務仕事ができる奴だ。スタインに俺のもとに来てもらうことになったから、文官は素人でも構わない」

「ほう。スタイン様が。それならば、その下で働けるようなものの方がよろしいですな」


 スタインと反発するような我の強い奴は今は要らないな。後々なら、スタインの一強よりは対等な奴がいた方が良いが、今は議論するよりも行動に移す方が大事だ。

 数分程ガゼフの話を聞いていると、資料と頼んでいた奴隷が両方やってきた。

 連れてきてもらった奴隷は十人。壁際に並ぶ彼女達にリピディールの現状について簡単に説明する。


「辺境の地だが、そんな場所でも問題ないという奴は手を上げろ」


 全員が手を上げる。条件としては悪くないのだろう。下手なところに買われるよりは、ど田舎だとしてもまともな貴族に買われるのは好条件だ。

 だが、それでも手を上げる時に躊躇していたのが三人いた。田舎での生活をしたことが無くて悩んだりしたのか、何か心残りがあるのかは分からない。

 躊躇した三人は下がらせて、残りは七人。


「料理、掃除、洗濯ができる奴。もしくは、事務作業をしていた経験がある奴は手を上げろ」


 今度は二人が手を上げなかったので、その二人も下がらせる。

 残った五人には一人ずつ質問していき、さらに二人減らした。


「残った三人は、お前達が良ければ俺が買おうと思う。何か逆に質問したり、希望があったりはあるか?」


 左端から順番に言うように伝えると、少し悩んでから口を開く。


「何でもいいんですか?」

「ああ。別に変なことを聞かれても、買った後に罰を与えたりはしない。そして、俺の答えで君達が村に来るのを嫌だと思うのなら、断るのも許す」


 無理に連れていくことはしたく無い。奴隷だから命令をすれば従うしか無いが、不満があると仕事の効率は落ちるし、裏切られることだってゼロでは無い。


「ずっと屋敷で働くのですか?」

「それは自分で決めるといい。給金は出すから自分で自分を買い取ってもいいし、五年働いたら奴隷から解放してやる」


 村人も欲しいから人手が余ったら解放して村人にするのも良いだろう。数年間働いて不満を感じなければ、そのまま村に残ってくれる可能性は高いはずだ。


 二人目は事務作業の内容について尋ねてきた。文官候補も一人いるのはラッキーだな。


「良ければ娘も一緒に買っていただけませんか? 私の給金は無しにしてもらって大丈夫ですので」


 三人目は質問ではなく希望か。それも、内容が内容だな。

 まあ、一緒に買っておいた方が心配事も減って仕事に集中してくれるだろうし、好感度も上がるから断るのは愚策か。


「こいつの娘を連れてきてくれ」

「っ! ありがとうございます!」


 娘ねえ。母娘で揃って奴隷になるなんてな。旦那の急死で借金の肩代わりに売られたとかなんだろうか。鑑定で見ても、俺より2歳年上なだけ。まだまだ若いのに大変だな。


「お待たせしました」


 連れてこられたのは7歳の少女。あれ?ということは16歳で産んだということか。この世界ならおかしくは無いんだろうな。エステルもまだ15歳だから、すぐに結婚して子供を産んだら同じ年で母になる。

 そんなにすぐに結婚に踏み出す勇気も、結婚できる環境も無いんだけれど。


「ジエノアは、お母さんと一緒に田舎の村に住むのは大丈夫?」

「うん! 大丈夫だよ」

「じゃあ、四人とも買うから一旦下げて」


 元気そうだから問題ないな。ステータスを見てもパッとするところは無かったが、まだ若いから、教えればすぐに覚えられるだろう。

 それに、子供が増えるのは村にとっても良いことだ。


「女性ばかりですが、男性は必要ないですか?」


 もっと売れるだろうとガゼフが数人良さそうな奴隷を勧めてくる。

 内容は悪くはないが、今は必要ない。女性ばかり買ったのは、最初に力仕事ができる奴を頼んだから村にいるのは男の割合が多い。女性は家族で村に来てくれたパターンが大半なので、一人で来た男連中が余っているのだ。

 人手は足りていないと言えば足りていないが、人ばかり増やしても管理ができないし物資も足りないから男の奴隷は買うつもりはない。村人として移住して来てくれるなら別だが。


「では、四人で合わせて60万コルでどうでしょう?」


 一人当たり15万コルね。随分と最初から安くしてくれているものだ。まとめて買うからか?


「それでいいだろう。ディナとジエノアの二人は連れて帰るから、すぐに準備させておいてくれ」

「かしこまりました。二人に関してはこちらで村までお連れしましょうか?」

「リールに頼もうかと思っていたが、こっちでできるなら頼む。斡旋の方と合わせて連れて来てくれると助かる」

「では、それで手配しておきます」


 斡旋は条件だけ伝えておく。こちらは男女問わず、村に住めるのが条件だ。

 一週間後に面談の予定を組んで店を出る。


「では、一週間後にお待ちしております。奴隷も必要でしたらいつでもどうぞ」

「しばらくは頼りにしている」

「ありがとうございます」


 歩き出そうとして、もう一度振り返る。


「……俺の村でも斡旋の仕事をする気はないか?」

「今はこちらの方が楽しいので」

「そうか」


 今は、ね。

 今のアスクトに来てもガゼフの仕事は殆どない。あいつが楽しめるだけの環境を作らないと、簡単には来てくれないか。


「主はあれも引き込むの?」


 今日は殆ど何も言わなかったアイリーンが口を開く。スタインやあの奴隷に関しては文句は無かったのだろう。ガゼフに関しては、何か思うところがあるようだ。


「人が増えればああいう仕事ができる奴も必要だ」

「主の人を見る目はよく分からないけど、何故かいいのは知ってる。でも、あれは商売にがめついタイプ」


 俺には鑑定があるから、潜在能力の一部を見ることができる。だから、ハズレを引く確率は少ないだろう。

 クロードみたいに思ってもみない大当たりを引いたのは運が良かっただけだが。


 意外だったのは、周りを気にしていないように思えるアイリーンが、しっかりと相手のことを見抜いている。

 交渉ごとにはアイリーンを連れて行くのもいいかもしれないな。野生の勘みたいなものだろうか。

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