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補充―2

「遅くなったな。今日はどうした?」

「こっちこそ急で悪い。そろそろ追加の人材が欲しくなったから当てがないが聞きにきたんだ」

「ようやく来たか。すごい速度で開拓が進んでいるそうだからな。一応、幾つかは声をかけておいてあるぜ」


 さすがスタイン。話が早い。情報を集め、こちらが要求する前にある程度話を進めておく。簡単に聞こえるが、それを行うのはかなり難しい。

 スタインとリール。どちらかでも引き抜けたら、かなり楽になるだろうな。


「事務作業のできる奴と家事のできる奴が欲しい。他にも色々あるが、優先はこの二つだな」

「事務作業っていうのはどのくらいの内容だ?」

「来た奴に合わせるが、少なくても下から報告のあった内容をまとめて、俺に渡すくらいはできる奴がいい」

「欲を言えば?」

「中のことだけでなく、外との付き合いもできる奴だな。俺としては、任せられることは、全て他の奴に分担して任せたいから、こうやって商会との交渉なんかもできる奴だと嬉しい」


 そこまでできる奴は良いところに就職しているか、どっかの貴族に引き抜かれたりしているだろうがな。

 最初はできなくても、経験すればある程度はできるようにはなるだろうから、そこまで気にはしないが。他に人がいなければ、最終的にクロードの仕事になるだけだし。

 だが、有能な人材が欲しいのもまた事実。経験を積ませるのは良いが、指導を行える人材が今はいない。それが間違っているのか、合っているのかを判断できる奴がいないというのは、間違えた時に修正が効かないから本当に危うい。


「なあ、スタイン」

「どうした?」


 これは賭けだ。

 ハズレたら最悪の場合、頼る当てが一つ減ることになる。


「退屈じゃ無いか? ここでこうしているのは」

「どうしてそう思う?」


 これは試されているのだろう。俺の予想は間違っていなかった。あとは、スタインが納得する答えを返すだけ。それは合っていても間違っていても問題ない。


「ガゼフもリールも優秀な奴らだ。そんな奴らが客人を相手に、お前のことを様付けで呼ぶのはおかしいとずっと思ってたんだ」


 こっちの世界ではどうかは知らないが、客相手に社内の人間を敬称付けでは呼ばないのが日本ではマナーになっている。

 こっちの世界にそのマナーが無かったとしたとしても、ガゼフやリールのような優秀な奴が、常に様付けをするだけの何かをスタインがしたということになる。


「この商会の売り場。他とは違って、様々な種類の物が売られている。あのやり方を考えたのがスタインなんじゃないか?」


 この世界で見てきた店は、肉屋や八百屋のように専門的に取り扱っている店ばかりだ。色々な物を取り扱っていると言えば、行商をしている商人くらいだろう。

 その中で、このライナー商会はスーパーマーケットのように様々な商品を店にならべているのだ。それだけの改革をした人物ならば、それに関わった者から尊敬されても仕方ない。


「そこまで予想していたか。その通りだ。行商場所の取り合いに敗れた実家を助けるために考えたんだよ。王都でも生産と販売の両立に苦しむ職人が多くいたからな」


 生産は職人に任せ、販売は商人が引き受ける。合理的な考えだろう。そこで発生する手数料と供給の安定化のバランスさえ取れれば、消費者からすれば買い物の手間が省けるのだから。


「だが、そんな奴がペネムであんな店をやるだけの時間があった。それは、もうスタイン無しで商会が完全に機能している証だ」


 多分、ガゼフも元は商会の人間だったのだろう。スタインとともに商会を立て直して、自分が必要でなくなったから自分のやりたいことをやるために独立したと予想する。


「だから、退屈なんだろ? うちに来れば、色々とチャレンジできるぜ?」


 俺は退屈なぐらいが良いと思うんだが、人によってはチャレンジし続けることが生きがいのような奴もいる。

 スタインは自分の手で何かをやっているのが好きなんだろう。スライムの魔石を売った時に目を輝かせて自分で王都まで売りに行くと言ったのを忘れはしない。


「お前は自信があるか? あの土地で成り上がる自信が」


 はっきり言って、ただ発展させるだけなら自信はある。リーシアを頼り、かつ俺の力を最大限に発揮すれば良いだけの話だ。

 魔力譲渡をもっとたくさんの相手に使い、モンスター作成で魔石を作り続ければ、作業速度も金銭面もカバーできる。


 俺の負担が半端じゃないし、それこそリーシアに借りを作ることになるし、さらにはフーレや国に目をつけられることになる。

 面倒なことは嫌なんだよ。俺はゆっくり生きたいし、俺がいなくても大丈夫な環境を作りたい。


「ただ開拓するだけなら簡単だろうな」

「簡単ねえ。嘘じゃなさそうだな」

「当たり前だとも。だが、お前がいれば、もっと犠牲は少なく、もっと良いものができるだろう」


 特に俺の犠牲が少なくなって助かる。


 俺なんて経営についても経済についても完全に素人だから、少しは知っている人物がいた方が良い。


「決めるのはお前だ。俺は人材を募集しているが、いつまでも待てるほどのんびりはしていられない」


 スタインほどの奴なら喉から手が出るほど欲しいが、今すぐに人が欲しいのもまた事実。待つくらいなら能力は劣っても数でカバーする方を取る。


「……わかったよ。乗ってやる。だから、俺を失望させるなよ?」

「ああ。存分に仕事をさせてやる」


 スタインと握手を交わす。

 詳しい話をするために、一度リールには部屋を出て行ってもらう。


「さて。給金なんかは後で良いとして、一つ守ってもらいたいことがある」

「犯罪に関わることじゃなければ何でもいいぜ」

「俺を裏切るな。俺の秘密に関しては、俺の仲間以外には話さないようにしてくれ。別に見限るなとは言わない。嫌になったら出て行ってくれても大丈夫だ」


 転移とストレージと魔力譲渡。この三つの力は、特殊だからな。公表するにしても、それなりのタイミングでカードを切らないと、飲み込まれる可能性がある。


「それだけの秘密ってことか。何らかの特殊な力を持っていることは、リーシアから聞いているから予想済みだ」


 そういや、前にリーシアがどうのって言ってたな。神託のことはある程度スタインも知っているのだろう。


「で、俺に何をして欲しいんだ?」

「まずは、リピディールから売れる物を考えるのと、アスクトに商人を呼ぶために必要な環境を整えることだ」


 行く行くは金が動くことは全てスタインに任せたいが、まずは専念してもらわないと計画が進まない。

 それに町になるためには、人がもっと増えないといけない。人を増やすためには、生活できる環境が整っていないとな。

 仕事があり金がもらえる。金を使えば必要なものは手に入る。少なくともこれがないと人を集めることはできないだろう。


「それじゃあ、一度行ってみないと分からないな。荷物の準備をするから待っていてくれ」

「ああ。すぐに着くから準備は向こうで生活するのに必要な物だけでいいぞ」


 意味が分からないと言いたげな顔で見てくるスタインに、後のお楽しみだと言ってはぐらかす。スタインが恩人ならば、商会の中でスタインの命令を無視するような奴はいないだろうが、伝えて騒がれても困る。

スタインが仲間になりたそうな目で見ている。

→かまをかける

 見て見ぬ振りをする


ケーマはかまをかけた。

大成功。スタインが仲間に加わった。

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