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補充

 街道整備が始まりすでに十日経った。

 俺の魔力譲渡の範囲からはとっくに出ているため初日のようなスピードは無いが、時折見に行っているときの様子では順調に進んでいるようだ。幸運なことに、この十日間は雨が降ることも無かったので、今のペースならあと数日で第一段階は終わるだろう。


 今回は木や草を除け、道を固めるのがメインだ。一応簡易の柵を作ったりもしているが、あの程度の柵なんて弱い魔物を近づけさせない程度の効果しかないだろう。

 大雨に見舞われても大丈夫なように、水切りの設置なんかもしないといけない。できれば、土を固めるだけでなく舗装もしたいところだが、それにかける時間も金も今は無い。


「部屋汚い」


 入ってきて一言目がそれかよ。

 いや、分かっている。汚いといっても少し散らかっている程度だが、ソフィアやエステルが掃除をしていた頃に比べると汚い。

 ソフィアは街道整備組に同行しているし、エステルは片付けたりもしてくれているが、教会の仕上げと建設作業の指揮をとってもらっているから、屋敷全体の掃除までする余裕がない。


 俺だって掃除はしているが、部屋の中でさえ関連するもの毎に分けておき、蹴ったりぶつかったりしないように道は開けているだけだ。


 アイリーンに掃除を頼むのは不安だし……というか、結局人が足りているとか言って街道整備にもついて行かなかったし、こいつは何をしているんだろうか。


「ちゃんと主の体調管理をしてる。それに、村の周りの見回りはしている」


 俺の視線に気づいたのか、手に持っていたパンを俺の前に置く。食べろということか。ただ、これは昨日の夜ソフィアのもとに行った時に渡された物を持ってきただけで、アイリーンが作ったりしたわけでは無いけれどな。


「時間に合わせて持ってくるのも仕事」


 俺一人だと気づかずに時間が過ぎていただろうから、持ってきてくれたのはありがたいんだけれどね。

 だが、アイリーンに家のことを任せるのは不安だ。何の肉か分からない物を適当に焼いて持って来られるのは恐怖でしかないし、掃除をしているところなんて見たことない。


「仕事は適材適所が基本。私にはゆったりとした仕事を任せるべき」


 単にサボりたいだけだろうが。

 適材適所ってのは間違っちゃいない。だからこそ、しっかりしたクロードには指揮を任せているんだし、アイリーンには魔物と戦ったりできる周囲の探索を任せている。


 俺の適所ってどこだろうか。

 一つ言えるのは、こんなに働かないといけないのは、違うと思うんだ。


「そうだ。人を雇いに行こう!」


 将来的に見ると金は厳しいが、今は金がある。どうせ後々必要になるならさっさと雇って村開発を進め、金になる何かを探した方が良いだろう。


「当てはあるの?」

「スタインがいる。あいつに任せるのが一番だ」


 俺には人を集める力なんてない。知り合いも少ないから、声をかける相手もいない。

 だったら、人を集めてくれる奴に頼めばいい。これも適材適所ってやつだな。


「善は急げだな。どうせ、ソフィアとクロードには魔力譲渡が届かないし、エステルはこの時間に魔法を使うことは少ないから、村を離れても大丈夫だ。アイリーンはついてくるか?」

「はぁ。ソフィアに頼まれてるから行く」


 アイリーンに頼まないといけないほど、俺って心配されるようなことしてるのか?

 いやいや、そんなことはないはずだ。いたって普通なはず。単にソフィアが心配性なだけ。

 王都へと転移をする。エトについていた分のラポールを王都に変えておいたから王都には来れるが、ラポールをもう少し使えるようになりたい。


 商会までやってきて、店員にスタインかリールがいるか尋ねれば奥へと案内される。


「お待たせしました」


 数分もすればリールがやってきた。いきなり来たというのに、こんなにすぐに来るとは思わなかった。


「アポも無しに来た俺が悪いから」


 リールを引き抜くことはできないだろうか。まあ、さすがに無理だろうな。今すぐに引き抜いたら紹介した意味がないだろう。せめて、もっと商会に貢献しないとみすみす人材を明け渡しはしないだろう。


「スタイン様は十分程でこちらに来ると思います。本日はどうされましたか?」

「ちょっと村で働いてくれる人を紹介して欲しくてな。ついでに追加分の買い物もしていきたい」


 「それなら人材に関してはスタイン様が来てからにしましょう。先に必要なものをお伺いします」


 エステルのおかげで進んでいる建築のためにも建材を頼み、村の皆とこれから雇う人の分の服も頼んでおく。あとは適当に前にももらったものを頼めば、リールが一度部屋から出ていった。




「ふわぁ……」

「すいません。お待たせしました」


 暇そうに足をぷらぷらとしているアイリーンが、三回欠伸をしたのをところでリールが帰ってきた。

 仕事が早いなと感心しつつ、書類を受け取る。

 一般には出回っていないだけで、金のあるところにはそれなりの技術があるんだなと、書類を見ながら思う。紙は質が悪いのかもしれないが、これだけ使えるということは生産もそれなりにされているということだ。細かい部分は手書きだが、これは判子だろうか?印刷の技術は無いようだが、版画のような技術はできている。


 俺程度の知識で再現できそうな技術は、すでにこの世界でもできつつあるので、簡単に金稼ぎはできそうに無い。


 不備も見当たらないし、欲しいものはしっかり追加されていたので書類にサインをして返す。ストレージに入りきるか心配だったので、服やすぐに必要になりそうな物だけを受け取ることにして、残りは街道の宣伝も兼ねてアスクトまで持ってきてもらうように頼む。


「配送料は別途頂きますがよろしいですか?」

「ああ、大丈夫だ。ついでに、村の皆の為に行商もしてくれると助かる」

「それでしたら、喜んでさせて頂きます」


 俺からの支給だけでは無く、たまには自分で買い物もしたいだろう。リピディールに来てからは金を使う場所が無かったから、各自で持っている金も余っているだろう。

 俺からも少しばかりだが給金として金を渡す口実にもなる。

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