街道整備
「そこ。さっさと周囲の安全確認に行く」
「は、はい!」
アイリーンの指示でカデュートが勢いよく走り出す。すっかり調教されたなと考えながらも、おかげで手がかからないから助かる。
ようやく始まった街道整備。基本的にはクロードと他数人の土魔法を使える組が交代で地面を均し、他の奴らが周囲の草や木を刈ったり地面を固めていく。地道な作業なので、時間はかなりかかるだろう。
この道が完成すれば、行商人を呼ぶこともできるだろうから、今まで支給性にしていた食料や生活に必要な物を、それぞれが金で買えるようになる。
そのためにも、金を払うだけでなく、村から買い取ってもらう物も必要になるが、そこに良いアイディアが浮かばない。
とりあえずは、この森から取れる素材を売ることになるが、それだと村の産業は育たないからな。
「それでは私達も行ってきます」
「ああ。そっちは頼むよ。最初のうちは無理せず帰ってきてくれていいから」
「一応、そのように伝えてはみます」
伝えたところで作業をやめてくれるかどうかってところだな。クロードとかは張り切って日が暮れそうになるまで続けそうだ。
村から遠くなると往復が面倒になるからとテントなんかを渡すのは、もっと後の方が良かったかな。
全員というわけではないが、街道に割いた人員は決して少なくない。村の中が少し寂しいような気がするのは、普段ならこの辺りで作業をしている人がいなかったり、聞こえてくる声が街道の方に集まっているせいだろう。
残っている人達にもやってもらわないといけない作業は残っているから、指示をしないとな。普段ならクロードとソフィアに伝えれば勝手に指示してくれるが、クロードは街道整備で手一杯だし、ソフィアは力仕事が苦手な女性陣と共に炊き出しを作ってくれているから手が離せないだろう。
村の中を移動するのも面倒だ。町から町へと旅をしていた時はあれだけ歩いていたのに、一旦歩く必要が無くなるとちょっとの距離でもだるすぎる。
ましてや、村の中なんて家が増えたり、地面が整備されたりしてはいるが、毎日見ている景色だからな。村の奴らがいちいち話しかけてくるのに応えるのも面倒だし。
村の中心付近に造られている白い石造りの建物。
まだ造りかけだが、教会にする予定で建てている。小屋でも良いと言われても、後々村が大きくなった時には、それ相応の建物であって欲しいし、俺のイメージとしては木目丸出しの建物よりは白い建物の方が合っている思う。
それに、白い建材は余っている。買ったのは良いが、とりあえず作っている建物は木材での建築が基本になっているから、煉瓦とかを使っているのは俺の屋敷と井戸、中心部の道路くらいだ。
外からその建物を見ていると、俺に気づいたエステルが出てきた。
「ケーマさん。街道の方は大丈夫なんですか?」
「ああ。クロードとへレナートに計画は伝えてあるから問題ないだろう」
クロードはやる気が空回りして暴走しちゃう可能性はあるか、へレナートならその心配はない。
ただ、クロードが張り切りすぎるとへレナートが止めれるかどうかってところは心配だ。むしろ、止めずにそのままやらせる可能性だってある。
数ヶ月へレナートと一緒にいて分かったのは、あいつも作業が進むのなら少しくらいの犠牲は構わないタイプの人間だということ。村に戻っての休息よりも、野営をした方が効率が良いと思えば、野営を選択するだろうな。
「それにしても、教会の方はかなり出来上がってきたな」
「まだ中があまり出来てませんが、とりあえず形だけでもと思い、皆さんに頑張ってもらいました」
ここにも人使いの荒い奴がいたか。
エステルの場合は治癒魔法を使って少しだけでも体力の回復をしている分、作業している奴らは楽だと思っているようだが。
エステルが来てから、魔力の消費が倍以上になった気がする。
それでも、まだまだ余裕があるくらい、魔力は余っている。俺を含め四人がせっせと作業していようが、魔力の急速消費で疲れることはあっても、魔力切れになることはない。本当に無駄に魔力だけはある。せめて、俺も普通の魔法が使えればよかったのだが。
「こっちは任せるが程々にな。急ぐ必要はないから、中もしっかり作ってくれ」
「はい。せっかく作るのですから、この村に来る教会の人に気に入ってもらえるように頑張ります」
ぐっと力を入れる仕草をするので苦笑いで返す。
次の場所へ向かおうと、エステルにまた後でと告げて歩き出してふと思う。
あれ?もう俺がいる必要なんてほとんどないんじゃないか?
街道の方はクロードとへレナートで十分。村の中の建築は今はエステルがいる。女性陣にはソフィアがついている。畑の方はサプラがいる。
直接指示しに行く必要もないか。勝手にサボるような奴らでもないし、むしろ仕事を休むように言わないといけないくらいだもんな。
魔力さえ渡せれば良いから、今日は屋敷の中でゆっくりしよう。何かあれば呼びに来るだろうから、それまでは久しぶりの息抜きだ。
屋敷へとうきうき気分で戻る。気分的にはさほどしんどくもない微熱で学校を休んだ時のようだ。
「たっだいまー」
少しテンションが高いまま屋敷の中へ入る。キッチンでお茶でも用意して部屋に戻ろうと、通り抜けるために食堂のドアを開ける。
「おかえり。早いね」
「……な、なんでいる?」
お茶を飲みながら、また変な肉を食べているアイリーンがそこにいた。




