村案内―2
そのままエステルと一緒に川まで歩く。ここも道の整備をしないといけないな。大雑把に切り拓かれているだけなので、見通しが悪い。
「良い場所ですね。川の水も綺麗です」
「こればっかりは運が良かったよ。未開の地だから、どういう環境なのかも分からずに来たが、意外と住みやすい環境で良かった」
奥の方にはそこそこ強い魔物もいるそうだから不安だが。徐々にでも魔物と戦える奴を増やさないとな。
湖まで行くのは少し遠いので川辺で少し休憩を取って村へと戻る。ようやく動き出したのか、村へと戻って来たタイミングでアイリーン達が森へと入っていったので、無理するなよとだけ言っておいた。
アイリーンとあいつらじゃ実力差がありすぎて、アイリーンが手を抜いていても戻って来た頃にはへばっている可能性はあるが。
小さくて軽いからか、森の中でも動きが鈍らないアイリーンについて行くのは、身体強化をがんがんにかけた俺でもしんどいからな。
次は南側の建築予定地へと向かう。ここはまだ幾つか建物があるだけで、まだどうなるか分からない。
井戸を中心に石畳みの道を作っている最中なので、それに合わせてある程度の区画に分けてはある。
比較的、井戸の近くの区画。この辺りに教会用の建物を造りたいので、エステルにどういう建物が良いか尋ねる。
「お母さんも言っていたように小さな小屋で良いと思います。寝ることのできる部屋さえあれば、野外でもお祈りはできるので」
「さすがに……それはな」
逞しすぎるだろ。修行という見方をするなら間違っちゃいないが、こっちが申し訳なくなるわ。
金にがめついのも嫌だが、ここまで欲が無いのも困る。必要ないってだけで、あっても困らないだろうから、俺が勝手に決めるか。知識は無いが、どんな建物でも良いなら案だけ伝えて後は職人がやりやすいようにやってくれればいい。
考え込んだ俺を、何か間違ったことを言ったかなと不安そうな表情で見てくるので、大丈夫だよと伝える。
随分とエステルの態度や話し方からよそよそしさが減ったなと考えながら、次は他の建設予定の建物について話をする。
エステルがこの村に来てくれたことにより、治癒魔法という貴重な治療方法が使えるようになった。
それでも、感染症は一度流行ると、エステル一人では対応できない可能性が高いし、ましてやエステルが罹ってしまえば終わりだ。
そうならない為にも、衛生状況を良くする必要がある。村の中央付近には共用の銭湯のような物を、村の端の方にはゴミを焼却する施設を建設する予定だ。
このことは、今エステルに言ったのが初めてで、まだクロードにも伝えていない。
実現できるかどうかも、どれくらいの規模になるかも分からないから、まずはエステルに出来そうか確認してからだ。
「魔力回路の研究者はリーシアが寄越してくれるんだが、魔石が無尽蔵にあるとして、魔力回路と魔石で再現出来そうか?」
この村にいる奴の中で、フーレを除けばエステルが一番詳しいだろう。それでも、かじった程度の知識では簡単には分からないのが、魔力回路というものだ。
考えさせてくださいと言うので、ストレージから椅子を取り出す。エステルからの質問に一つずつ答えながら待つこと数分。エステルが顔を上げたので、その答えを聞こうと身構える。
「あー、確実ではないですが、出来ると思います。私では思いつかないですが、少なくとも不可能ではないです。ただ、コストに見合う結果をだせるかと問われれば、厳しいと言いますが」
無理ではないと。
魔力的なコストならいくらかかっても良い。薪でやるにしてもコストがかかるのだから、それなら魔力回路でやった方が俺がいればコストはかからない。
「できそうならそれで良い。詳しいことは、この村にやってくる研究者に任せよう」
こういうのは、専門家に任せるのが一番。下手に考えたところで、結果が出るわけではないんだから、俺みたいな一般人は適当に口出しだけして、あとは考えさせておけば良い。
「やあ、お二人さん。村の探索かい?」
完全にオフモードなのだろう。鎧も全く付けることなく、村人と同じような服装で彷徨いていたせいで、気がつかなかった。よく見れば、服の生地は良さそうな物をつかっているが。
「そんなところだ。エステルにも計画を伝えておかないと、スムーズに仕事ができないからな」
「もしも、の時のためかな? 君はいつも考えすぎだと思うけれど、見習うべきところでもあるね」
誰かがいなくなっても滞りなく作業が進むのが理想だろう。それが俺であっても。
現状、魔力に頼りすぎているから、俺がいないと滞りができてしまうのは考えものだ。かといって、地球の知識を持ち出して魔力に頼らない発展をさせることができるほど、俺に専門的な知識は無い。
「それで、何の用だ?」
「そろそろ王都に戻ろうと思ってね。明日にでも出発するよ。この村が発展するのは間違いないだろうし、君のアイディアも参考にできそうだからね」
俺のアイディアと言っても、この村に何か目新しいことをした覚えはない。俺の空間魔法と魔力を使った時間短縮以外は普通だと思うんだが。
「君の思う普通が、普通であると確認はしたのかな?」
は?異世界ってまさか脳筋ばっかなんて展開じゃないよな?
去っていくフーレの背中を見ながら、何をしたか必死に思い出すが、思いつかない。
変なことはしていないと思うから、放っておこう。
フーレが王都に帰るというなら、こっちとしては止めるどころか喜んで送り出してやる。あいつがここにいるせいで、面倒なアリバイ工作のようなことをしないといけなかったりするわけだから、それが無くなるだけで気が楽だ。
へレナート達はフーレに情報を流してはいるが、それほどしっかりと情報を集めたりする気もないようで、村を作り始めたとか、もう少しでできそうとか程度だったみたいなので、放っておいて良いだろう。
「また何か考えてるんですか?」
「別にどうでもいいことだよ」
おでこの辺りを指してエステルがむっと表情をしかめる。
「眉間にシワが寄ってますよ。いつでも手伝うので、何かあれば言ってくださいね」
「はは。ありがとう。一緒に頑張ろうな」
「はい!」
むっとした表情から一転。楽しそうに笑うエステルが可愛くて、つい頭を撫でてしまった。
まんざらでもないようで、そのまま撫でられ続けてくれる。
アイリーンと同じように猫耳でも付いていたら、ふにゃっと垂れていそうだな。




