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村案内

 食事を終えれば、ソフィアとエステルが片付けをしに台所へと行く。アイリーンはだらだらとどこかに行ったが、あれはきっと二度寝をしに行ったのだろう。


「昨日は突然いなくなって悪かったな。さっき作業の状況を見てきたが、順調に進んでいるようで何よりだ」


「はい。皆頑張ってくれているので大丈夫です」


「計画を変えるところがあるから、今やっている部分が終わったら報告に来てくれ」


「分かりました。冒険者の人も連れて来たと言うことは、先に街道に取り掛かるんですか?」


 話が早いのは助かるが、これなら俺が考えなくてもクロードに任せておいた方が早い気がする。

 どうせ作業の中心に立つのはクロードで、俺は魔力を渡しているだけだもんな。


 楽をするためにも、クロードに主導させるのもありか。試しながら少しずつ押し付けていこう。


 クロードとソフィアが仕事をしに出ていくのを見送りつつ、ゆっくりとお茶を飲む。

 これいいな。家事もせず、仕事に行く家族を見送る感じ。働かずに生きている感覚を味わえる。このままゆっくりとしていたい。


「すいませーん。仕事の内容を聞きに来たんですけど」


 カデュートとエトか。俺の安息時間を邪魔するとは。

 そんなに仕事をしたいのか……指示がくるまで黙っておけば良いのに。


 気分的に重たい腰を上げて屋敷の外で待つ二人のもとへと行く。仕事を割り当てたところで中途半端になるだけだから、必要になるまでは放っておいて良いだろう。


「おはよう。昨日は悪かったな」


「おはようございます。いえ、あれだけのことをしたのですから仕方のないことだと思います」


 ちゃんと転移の名を口に出さないあたり、アイリーンに対する恐怖で上手くコントロール出来ているようだな。


「今の作業が一区切りするまで、数日はやることが無いから、アイリーンについて森の中を探索していてくれ。この辺りの土地勘を少しでも得ていた方が良いだろう」


「えっ!?……いや、頑張ります」


 アイリーンの名を聞いた途端に嫌そうな顔をするカデュート。いいぞ苦しめ。その方がお前らの経験にもなるだろう。


 カデュートとエトにアイリーンの寝ている小屋を教えて屋敷の中へと戻ると、次はエステルが準備万端といった様子で待ち構えていた。

 もうちょっとダラダラ気分を味わいたかったが、村の中を見て回るくらいなら疲れもしないしいいけれども。


「村を案内するよ。案内するだけのものもないけどさ」


「はい! 大丈夫です。行きましょう」


 屋敷を出てすぐの場所。庭として用意された場所だが、今はまだ花も池もなく、小屋が建てられている。

 小屋というには細長い建物。三つの小屋を無理やりくっ付けたような作り方のその建物は、入り口が三つ用意されている。


「手前からソフィア、アイリーン、クロードの順番で部屋になっている」


「皆ここで寝ているんですね。まだ部屋はかなり余っているようだったんですが」


「ソフィアとクロードが、まだ自分達が住むには早いって聞かなくてな」


「そうだったんですね。あの二人ならそう言うのも納得です」


 俺よりも三人の事についてはエステルの方が理解している気がする。俺の方が一緒にいる時間は長いが、ゆっくりと話す時間はあんまり無かったからな。

 誰かが吹き飛ばされたような音が聞こえるが、それは無視して次へと向かう。どうせ、二度寝を邪魔されたアイリーンがカデュートを殴るか蹴るかしたのだろう。俺のくつろぎ時間も邪魔したからな。いい気味だ。


 村の東側へといけば、畑を耕している集団が目に入る。ちょうど芋を植える時期だったので、上手くいくかどうかは考えずに、とりあえず植えておこうということになった。上手くいけば万々歳だし、上手くいかなかったとしてもダメな点が分かるかもしれないし、畑を数ヶ月放置しておくのも勿体無い。

 畑の予定地の四分の一ほどの区画を芋を植えるために、せっせと働く姿を眺めていると、集団の中からクロードがこちらへやってきた。


「今日はここにいたんだな」

「埋まっている石は掘り起こすのが大変なので手伝いを。畑は明日にでも種まきができそうです」


 四分の一とはいえ、五十メートル四方くらいあるんだがな。この村の奴らは働き者すぎて困る。


「ちょっと向こうの奴らで手が空いてる奴を呼んできてくれ」


 耕し始めている場所に入るのは申し訳ないし、石を退けた穴とかもまだ有るから行きたくない。

 クロードが声をかければ、殆ど全員がこちらへとやってきた。石を運んでいる残された二人の男が可哀想に見える。


「お疲れ様。想像以上の仕事の早さに驚きだ。質問だが、畑の作業でクロード以外に指揮をとったりしている奴は誰かいるか?」


 顔を見合わせ、次第に視線が一人に集まっていく。自分では思ってもいなかったようでキョロキョロと皆の様子を窺っている。

 前に来るように言えば、おどおどと不安そうにやってきた。


「名前は?」


「サプラです」


 三十歳くらいかな?俺よりは上だろうが、この世界の基準が分からん。まず、寿命自体同じかどうか分からないもんな。

 茶色い髪に、薄くはないが目立ったところもない印象の顔つき。何だか忘れてしまいそうだが、信頼は得ているようだから、こいつに任せるとしよう。


「農業関連のまとめ役に任命する。何かやる時は、お前がクロードに確認して許可をもらえ。こちらから頼むこともあるが、基本的にはお前が中心にやる事を考えるように」


「は、はい! 精一杯頑張ります!」


 農業なんて分からないし、これで考える事は一つ減った。サプラとクロードで基本的に考えてもらえれば、俺は定期的に確認さえしておけば良いだけだからな。

 この調子でどんどん仕事を押し付けていって、最終的には、俺の仕事は大きな事をする時の許可と面倒ごとの対応くらいだけにしたいものだ。


「今は人がまだ少ないから難しいだろうが、何グループかに分けて四日に一回くらいは休みの日も作るようにな」


 八日に二回の休みだから、俺のいた日本に比べると休みの日は少ないが、今はそのくらい働いてもらわないとやってけない。

 安定するまでは頑張ってくれ。

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