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エステルと

 窓から差し込む光で目が覚める。

 そういえば、昨日は屋敷に着くまでは耐えたが、着いた途端睡魔に襲われて夕方にもなっていないのに寝てしまったんだったな。


 指示しなくても、しばらくの計画は伝えてあるからクロード達は作業を進めてくれるだろうが、進捗なんかはしっかり確認しておかないと。


 「精神的な疲労だったからか、倒れそうな程だった割には、起きたら疲れも殆ど残ってないな」


 これなら、もう帰って寝るだけって時なら無理して転移も使えるか。


 時間を確認すれば、まだ日も登り切っていない朝の五時前だ。誰も起きていないだろうから、自分で見て確認してくるか。


 「……んっ」


 立ち上がろうと振り返れば、ふにゅっとした何かを抱きしめるような体勢になった。

 黒い髪。柔らかい体。

 そろりと体を離して覗き見れば、すやすやと眠るエステルがいた。


 「なっ!?」


 なんでと叫びそうになって声を抑える。

 息を吐き出してベッドからそーっと抜け出す。

 そういえば、エステルの部屋にしようと勝手に決めていた部屋はあったが、他の奴に伝えたりはしていなかった。聞いても分からなかったから、誰かが一緒に寝たらとでも言ったんだろう。

 クロードかアイリーンかフーレあたりが怪しいな。


 さっさと部屋を出て行こうかと思ったが、せっかくの機会なので寝ているエステルを見ようとベッドに腰掛ける。

 サラサラの髪の毛を手で撫で、気持ちよさそうに眠るエステルを眺める。


 可愛いな。起きているときにこんなことをする勇気は無いから、今はもう少しこうしていたい。


 十分程ゆっくりとしてから着替えて部屋を出る。まだこの時間だと少し寒いのでローブを羽織って村の状況を見ていると、ソフィアが森の方からやってきた。


 「おはよう。こんな時間から何してるんだ?」


 「おはようございます。えっと、朝ご飯に使う野草を採りに……」


 手に持っている袋には確かに野草が入っている。

 だが、野草を摘まないといけない程、食料には困っていないはず。むしろ、ストレージが無ければ余りそうなくらいだ。


 「力仕事をしている人達はよく食べますし、せっかく大きく育っているので少しでも節約になればと」


 確かに予想以上に食料の減りは早いが、それでも余裕はある。

 まあ、本人がやりたいと思っているなら止めるつもりは無いからいいんだが、ソフィアもかなり頑張っているのだからもう少し休めばいいのに。


 「こんなに早く起きなくてもいいのに。帰ったらゆっくり休んでおけよ」


 「はい。ケーマ様も無理しないでくださいね」


 昨日倒れるように寝たばっかりだから、反論しようにもできない。昨日のは転移の使いすぎが原因だが、確かに普段の疲れもあったからな。


 村を一周して屋敷へと戻る。昨日はクロードとソフィアの働きが悪かったはずだが、作業は問題なく進んでいる。

 昨日決まった内容も入れないといけないから計画を少し変更して、教会と街道にも手をつけないとな。


 静かな部屋にペンの走る音が響く。紙もペンも安くは無いが、この組み合わせが落ち着く。

 だが、いずれはパソコンのキーボードのような入力媒体も欲しいものだ。手書きも良いが、書くのが面倒なんだよな。

 かといって、魔力紙は高すぎるし使いにくい。魔力で文字が書けるからイメージ次第でスピードはかなり上げられるが、集中力の消耗が半端じゃ無い。トレーニングに使えるんじゃないかと思うほどだ。


 書き終わった計画書を見直していると、部屋のドアがノックされる。

 気がつけばもう七時を回っているのか。それでも早い時間だが、誰だろうか。


 「おはようございます。ケーマさん」


 ドアを開けて入ってきたのはエステルだった。眠っていた時とは服が変わっているので、ちゃんと準備してから来たのだろう。そう考えると、起きたのは数十分程は前のはず。普段からこんなに早起きしているのだろうか。

 日本とは違ってテレビもパソコンも無いから、夜にすることが無いから寝る時間は早いとはいえ、早く寝ても遅く起きたくなるんだけどな。


 「おはよう。昨日は悪かった。今日は村の中も案内するから」


 「い、いえ。私も……案内おねがいします!」


 リビングへと向かうために階段を下りれば、良い香りが漂ってくる。

 ドアを開ければちょうど完成したようで、ソフィアが料理を机に並べていた。


 「おはようございます。ちょうど良かったです。朝ご飯の用意ができたので食べて下さい。私はアイリーンさんとクロードくんを起こして来ます」


 ソフィアが呼びに行ったので先に席について、それぞれのコップに水を注ぐ。

 三人ともこの屋敷の周りに建てた小屋で過ごしている。一緒に住めるだけの部屋はあるが、アイリーン以外の二人が今はまだそれだけの成果を上げていないだの何だの言って断ったから、庭のような場所に小屋を建てたのだ。

 アイリーンはフーレが持って来たベッドに心惹かれて一緒に住もうとしたが、クロードに止められてベッドだけ持って行った。


 「こうやって皆で食事をするのは良いですね」


 「そうだな。昼は分かれて作業をしているから時間が合わないことも多いが、朝と夜はこうやって食べるのが良いな」


 俺とアイリーンは、寝坊して朝ご飯は後で食べることが多いんだけれどな。


 教会の中だと、知り合いと言っても年齢が上の人が多いだろう。見習いなんかは同年代も多くいるだろうが、そういった奴らと一緒になることはほとんど無いだろうし。


 「おはようございます。お待たせしました」


 「今日は主がいる。珍しい」


 「おはようございます。クロードさん、アイリーンさん」


 珍しいってのはこっちのセリフだ。寝坊率は俺よりアイリーンの方が高いはず。


 全員が席に着いたのをみて食事を始める。俺が食べ出さないとクロードとソフィアは食べ出さない。アイリーンは勝手に食べ始めるが、俺より先に食べ始めるとクロードが怒るので、アイリーンよりも先に食べ始めるためにすぐに箸を伸ばす。

 ただの野菜炒めだが、この家で食べるような素朴な味が良い。朝は味のあまり濃く無いものが良いと言ったのを覚えてくれているのか、あっさりとした味付けだ。


 ……この緑のって、ソフィアが採ってきていた野草かな。

 こんな自然に食べていたなんて。ソフィアには後で感謝しておこう。

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