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回収―4

 転移を発動しようとする俺に恐る恐る近づいてくる二人。

 それに何か言うこともなく集中し続けるが、人数が増えると調整が難しい。何が起こるのだろうと不安げな二人に集中が少し薄れるが、数分の時間を要してようやく転移が発動した。


 「……え?」


 間の抜けた声が響くとともに、自分の体や周囲を確かめ出す。

 説明も無しにいきなり転移みたいな超常現象を体験すればそうなるよな。迷宮にある転移陣を用いた転移ですら意味が分からないし、転移をすると思って使用しても驚きが隠せない。


 「こ、これは思っていた以上の機密事項ですね……」


 「ね。だから、言ったら潰す」


 「は、はい! 言いません。言いませんから!」


 なんかもうコントみたいになってるやり取りに笑ってしまう。ある意味仲が良いのかもしれないな。

 ただ、一応味方なのだから、ナイフを突きつけるのはやめてやれ。


 「それで、ここはどこだよ?」


 「王都にある宿屋だ。もう一人ここで合流してからリピディールに戻る」


 「迷宮都市から王都まで、こんな一瞬で辿り着けるなんて」


 実際の移動距離を聞いて、また驚き出したので、無視してエステルを迎えに行くことにする。

 三人には廊下で待っておくように伝えて、エステルのいる部屋をノックする。


 「はい。どちら様でしょうか?」


 「あ、俺だけど」

 「け、ケーマさん!? ちょっと待ってください!」


 バタバタと何やら中で慌ただしくしているようなので、ゆっくりと待つことにする。

 前の時も連絡してから来ていたし、一緒にいた時はそれこそ会うと分かっていたわけだ。いつもあまりだらけた姿は見せないし、髪とかもボサボサなところは見たことがないが、ちゃんと気を使っていたのかな。


 そう考えるとなんか嬉しいな。エステルが俺のことをちゃんと意識してくれていたことが分かる。


 「すいません。お待たせしました」


 少し肩で息をしつつエステルが出てくる。別段髪がボサボサだったり、中が汚かったりも無いのだが、ちょっとした部分が気になるのだろう。前髪を手で梳く姿が可愛い。


 「今日はどうしたんですか?」


 部屋の中に入ってエステルが出してくれた紅茶を飲む。

 あ、三人とも外で立ちっぱなしだ。まあ、すぐに終わるしいいか。


 「村の方も落ち着いて来たし、クロード達が屋敷を建ててくれたから、そろそろエステルを連れて行こうと思って」

 「本当ですか!?」


 「ああ。ちゃんとリーシアにも許可を取って来た」


 嬉しかったのか、ぐいっと乗り出したと思えば立ち上がる。そして、そのままの勢いで後ろを向いて固まる。


 「荷物ならストレージに入れていけば良いだけだから、そのままで大丈夫だぞ」


 「すいません……」


 別に散らかっているわけじゃないし。一纏めにしていないだけで、それぞれ袋に入れてあるからリピディールに着いてから片付けるのを考えれば、このままの方が楽だろう。


 荷物をストレージに放り込み、忘れ物が無いか部屋を確認する。

 宿屋の主人に鍵を返しに行かないといけないので廊下に出ようとして、三人の存在を思い出す。


 「廊下でアイリーンと冒険者の二人が待っているから」


 「冒険者ですか?」


 転移で移動すれば護衛もいらないから、何故いるのかと小首を傾ける。


 「リピディールの森の探索と作業中の護衛をしてもらおうと思ってな」


 「そういうことですか。フーレドリヒさんが貸してくれている騎士がいるとは言え、人手は多い方が良いですからね」


 フーレが付けてくれた四人は、作業の中心にいるから手が足りなさすぎるのだけどな。


 廊下に出ればアイリーンの横に並んで二人が背筋を伸ばして立っていた。疲れるからそんなことはしなくて良いのにと思うが、アイリーンに何か言われたか、怖くてこうなっているのだろう。


 「初めまして。ケーマさんの婚約者のエステリーナと申します。これからよろしくお願いします」


 「ぼ、冒険者のカデュートです! 引き受けたからにはしっかり働きます!」


 「同じく冒険者のエトと申します。まだまだ未熟者ですが、精一杯頑張らせて頂きます」


 そう言えば、二人の名前を聞いたのは初めてだったな。最初に会った時に鑑定で見たとは思うが、名前は忘れていたから覚えておこう。

 最近は鑑定をあまり使っていなかったから、二人を鑑定するのも忘れていた。


 「王都の外に出たら連絡してくれ。先にリピディールに戻って準備してくる」


 カデュートとエトに任せるのは不安だが、このままリピディールに行けば転移の存在がバレてしまう。

 時間稼ぎくらいなら二人でもできるだろうし、準備に時間をかけるつもりも無いから大丈夫だろう。


 アイリーンと二人で屋敷へと転移で戻り、バレないように行動を開始する。


 「何すれば良い?」


 「エステルがこっちに向かって来たように見せるために馬車を持っていく。馬車自体は村の端の方に前から用意してあったから、そこまで誰にも気付かれずに行こう」


 スニーキングと言うには簡単すぎるミッションだ。屋敷から北に出れば森の中なので、遠回りすれば見つかりはしない。


 玄関から出れば人目につく可能性があるので裏口から出て森へと入る。


 「なんか楽しい」


 「そうか? まあ楽しいなら良いが」


 村の端に用意された小屋へと辿り着き、中にいる馬の一頭を連れ出し、馬車に繋げる。

 こっちの方に人が来ないように仕事は割り振ってある。それにしても簡単すぎるミッションに、村の警備をしっかりしないといけないなと改めて思う。

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