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回収―3

 フリージアを後にして、エステルを迎えに行く前にもう一つ寄り道をする。

 人気のない森の中まで移動して、集中して転移を発動させる。微調整の難しさに精神をすり減らしながら発動した転移で辿り着いたのは薄暗い洞窟のような土で出来た小部屋。


 「ここは?」


 「迷宮の中みたいだな。何層かまでは分からないが、モンスターを見る限りここが迷宮都市の迷宮であれば二十層付近だろう」


 「二十層程度なら簡単」


 アイリーンの実力なら問題ないだろうが、冒険者として一つの壁になる難易度ではあるんだがな。

 こうやって気を抜いていられる程、初めて迷宮に来た時から比べても、俺もアイリーンも強くなっている。ここに来ていないソフィアやクロードもあの時からすると、数段強くなっている。特にクロードなんて、あの頃はまともに敵と向き合うのすら怖れていたからな。


 「ここには何の用?」


 「ああ、ちょっと人をスカウトしようと思って。ちょうどあそこで戦っている奴らだ」


 指し示した先には、二人の少年がモンスターと戦っている。連携の取れた動きは見習いたくなる程だが、俺達じゃ無理だろうなとも思う。

 実力自体はアイリーンにも、俺にも及ばないが、前に見た時よりはかなり伸びている。


 剣がモンスターの首を刎ねる。周囲にいたモンスターは全て倒し終えたようで、部屋の端の方で休憩を取り始めたので、そちらに向かう。


 「今良いかな?」


 声をかけた瞬間に座っていた二人が飛び跳ねるように立ち上がり、剣を構える。


 「戦うつもりはないよ。ちょっと話があってきたんだ」


 「お、お前は!」


 手をひらひらとさせて戦う気は無いアピールをしているが、依然として金髪イケメン少年は剣を構えたまま……むしろ、握る力が強くなっている。


 「デュー、やめとけ」


 青髪君の一声で構えていた剣がゆっくりと下ろされる。ただ、一歩下がって警戒してくるあたり、全く信用されていないなと思う。


 「僕達に何の用ですか? スタンピードの英雄さんですよね?」


 「その呼ばれ方は好きじゃ無いが、そう呼ばれているのには間違いないな。用件は一つ。俺の下で働かないか?」


 俺の言葉の裏を考えているのか、じっとこちらを見つめてくる青髪君には悪いが、裏なんてないんだよな。

 純粋に人手が欲しい。ただ、依頼として冒険者を呼べば一時的には解消されても、依頼が終わればまた足りなくなる。

 それなら、何度も依頼を出すより、そこそこ使える奴らを抱え込んだ方が楽だし、安上がりだ。


 知り合いの冒険者なんて、アルトくらいしかいないし、そのアルトは今どこにいるかも分からない。

 若手の方が安上がりだが、成長してくれるかなんて未知数だし、どういう奴かも知らないのに、適当に声をかけるのも怖い。

 こいつらなら、何かの役に立てば良いなと思ってラポールをかけていたから会いにいけるし、性格に若干の難はあると思っていたが、向上心はあった。無理なら無理で、貴重なラポールの登録を解消できるから、賭けで会いに来たわけだ。


 「この前の女といい、その女といい、そうやって侍らせている奴らで十分だろう!」


 「ちょっとデューは黙ってて」


 目の前に出て来た金髪君を後ろに引っ張り、邪魔そうに下がらせる。

 こいつら本当に仲が良いのか?冒険者として二人でパーティーを組んでいるということは、仲が悪いわけではないだろうが。


 「仲間は既にいて、スタンピードの英雄ともなれば、金にもそこまで困ることはないはずだ。それなのに、僕達を誘う理由はなんですか?」


 「確かに仲間は既に三人いる。パーティーを組めと言っているのではない。俺に雇われて働かないかと聞いているんだ。森をもらって村を作ったは良いが、人手が足りなくてな。村を拠点に活動してくれる冒険者を雇おうと思ってな」


 「村ですか……」


 どういう理由で冒険者になろうとしたのかは知らないが、自由に生きたいとか色々ね場所に行きたいなんて考えだったら断られるだろう。

 だが、金を稼ぎたいといった理由なら、どこかのお抱えになるのが安定して楽に稼げるから、俺の誘いに乗ってくれるだろう。


 「ちなみに、どういったことをさせるつもりですか?」


 かかった!と内心ガッツポーズをしながら、顔や態度に出さないように平穏を装い答える。


 「一番最初にやってもらうのは、街道整備の護衛かな。周辺にいる魔物を倒して安全を確保してもらう」


 その後は、リピディールの森の探索や村の周辺で狩りをしてもらえれば良いと言うことを伝え、そのままの流れで給金などの説明も行う。


 「僕はその話に乗っても良いですよ」


 「エト!? お前何言って──」


 詰め寄って来た金髪君の肩を掴み、俺から少し離れて話を始める。

 スタンピードの英雄として有名だし、あの金髪君が俺に突っかかって来ているだけで、俺が悪いことをしているわけではない。それなら、うまい話があれば乗っかるべきで、こんなところで地道に頑張るよりは良いはずだ。


 数分待てば、しぶしぶといった態度でやってきた金髪君が俺の前に立つ。


 「その話、乗らせてください。ついでに、俺を強くしてください」


 急に頭を下げてくるので驚きつつも、こっちの返事は既に決まっている。


 「任せられる程度には鍛えてやる。だが、俺はそれほど暇でもないから、こいつや他の奴らが見ることになるが良いか?」


 アイリーンの姿を見て、返事に詰まる。

 自分より小さい女の子に鍛えてもらうと言われれば不審に思うのも、返事に詰まるのも仕方ない。

 アイリーンの肩をトンと叩き、見せてやれと合図を送る。その合図に反応してくれたのかは知らないが、魔力が吸われる感覚が訪れる。


 「見えないくせに生意気」


 気がつけば、と言って良いくらいの速さで後ろに回り込み首元にナイフを突きつけたアイリーンに、言葉を出すことすらできずに目を見開く。

 見えないくせに。って言われても、俺ですら魔力強化無しだと動いたのが分かる程度で、防ぐことはできないぞ。魔力が吸われた感覚で慌てて魔力強化しても、ぎりぎり防ぐことができる程度だ。


 「が、頑張ります……」


 頑張れ金髪君。まだまだ伸び代はあるから、これからの努力次第だ。と俺は信じてるよ。

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