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回収―1

 工事音のような何かが削られる音。

 気持ち良く寝ていた俺を起こすその音に、少しイラっとしつつも再び眠りを誘ってくるベッドから出る。二度寝はしたいが、これ以上寝ても逆に疲れてしまいそうだ。


 もうこんな時間か。昼前にもなれば、皆が作業していても文句は言えない。むしろ、寝ていた俺が文句を言われる方だろう。


 「あ、起きて来た」


 着替えを済ませてリビングへと顔を出せば、アイリーンが遅めの朝食なのか、それとも早めの昼食なのか、はたまたその両方を兼ね備えたものなのかは分からないが、塩をふって焼いただけであろう何かの肉を食べていた。


 「おはよう」


 「おはよう、主。もう起きるの?」


 「もうって言っても、既に十時は過ぎているからな」


 規則正しい生活をしている人からすれば、いつまで寝ているんだと怒られるような時間だ。


 「遅くまで働いていたんだから、別に寝ていても誰も文句は言わないのに」


 規則正しい生活なんて、この世界に来る前は程遠い生活をしていた俺に、自室を与えればどうなるかなんて目に見えているよな。遅くまで働いていたと言っても、体を動かしては無いし、時間も夜中の三時頃までだ。七時間も寝れば十分だろう。


 「今日はどうするの?」


 「んー……そろそろエステルを迎えに行くかな。その前にリーシアの所に行くから今日中に間に合うかは分からないけれど」


 フーレがまだ残っているが、これ以上待たせればエステルに怒られるかもしれない。

 どうせ、転移なんて御伽噺のような魔法が使えるとは思わないだろう。普通に疑うとすれば、遠距離通信系の魔法や能力、もしくはアイテムを俺が持っているというところだろう。


 「ようやく、エステルも来るんだ。もう、向こうはいいの?」


 「良いか悪いかで言えば、まだ悪いだろうけれど、エステル一人残し続けるのも悪いからな」


 「主って、素っ気ないけど、意外とエステルのこと好きだよね」


 男なんて可愛い女の子に気があるそぶりをされたら、ちょっと惚れちゃうものなんだよ。

 それに、エステルは気遣いもできるし、頑張り屋さんだし、優しいし。

 まだ、結婚となると早いだろうと思うけれど、別に行く行くはエステルとなら結婚しても良いかななんて。

 まあ、俺が相手を選べるような人間かと言えば、そうではないけれども。


 エステルみたいな良い子と婚約できただけでも、俺にとっては幸運だろう。

 リーシアは怖いけれど、俺を選んでくれたことには感謝してる。


 「意識が低すぎるのも問題」


 呆れたようなアイリーンの表情に苦笑いで返しつつ、ソフィアが用意してくれていたのであろうサラダとパンを食べる。

 気遣いからなのか、それとも食べ飽きたからなのかは分からないが、アイリーンが自分が食べていた肉を少し俺のパンの上に乗せて来る。


 「まず……」


 一口食べてみれば、美味しいとは言えないその味に思わず声が漏れた。


 「この近くにいた蛇の魔物の肉。肉は美味しくないけど、皮は使えそうだって」


 「へ、蛇の肉ね……これは食用にするにはこのままだと駄目だから、しばらくは狩っても皮を使うだけにしような」


 「それに賛成。お腹は膨れるけど、食べたいとは思えない」


 それをずっともちゃもちゃと食べ続けているお前に言われてもな。

 それに、不味いって分かってるのに俺に喰わせるなよ。指示を出す俺が体験するのが手っ取り早いけれど、こういうのは口で言ってくれれば分かるから。


 「さて、気は進まないが、リーシアのところに行くとしよう。アイリーンはどうする?」


 「暇だから一緒に行く。どうせ、主がいないとすぐに魔力が切れて休まないといけないから」


 そうだったな。ソフィアとクロードにも伝えておかないといけない。

 作業効率が落ちるとフーレが勘ぐってくるかも知れないから、二人には別の仕事でも任せておくか。


 教会の受付のような場所で壁にもたれかかる。リーシアに会えるかどうか確認しに行ってもらっているが、会えないなら会えないで、むしろラッキーかもしれない。直接会う必要のある用件はあるが、そっちは今すぐでなくてもいいから、伝言だけ頼む方が気が楽だ。

 隣で暇そうにしているアイリーンが三度目の欠伸をしたあたりで、見覚えのある奴がこちらにやってきた。


 「あー……ルークだっけ? 久しぶりだな」


 「覚えてくれていたんですね。お久しぶりです。リーシア様がいつもの小屋で待っているとのことなので、案内します」


 場所は分かるが、せっかく案内すると言ってくれているので付いて行く。ルークがいるおかげか道も譲ってもらえるし、警備の人に止められることもなく教会の中を通り抜けられた。


 「この先は許可が無いと入ってはいけないので、自分はここで失礼します」


 リーシアの待つ小屋まであと少しと言ったところでルークが立ち止まる。この先はプライベートゾーンになるようで、リーシアが許可しない限りは入れないようだ。


 「ありがとう。また何かあれば頼むよ」


 「はい! また今度よろしくお願いします」


 去って行くルークを見ながら首を傾ける。今度って何かあったっけ?


 ゆっくりとした足取りで考えながら歩いていれば、アイリーンが俺の背中を押してさっさと行くように促してくる。

 いや、気になるじゃん?それに、進みたく無いし。


 時は待ってはくれず、ゆっくり進もうとする俺とそれを後ろから押すアイリーンとの戦いも、小屋に辿り着くという結果ですぐに終わりを迎える。

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