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王城―5

 中に入ると、訓練所内の騒がしい声が聞こえてくる。かなり音量は抑えられているが、それでも白熱しているのが分かるほどだ。


 「これからみたいですね。ちょうど良かったです」


 激しく剣を打ち合っているように見えるが、二人とも見学人に状況を説明しながら戦っているのでまだまだ手を抜いているようだ。

 ただ、今の打ち合いですら、俺にはできそうに無い。

 振られる剣の速さ。受け止めた時に響く音から予想できる剣の重さ。

 あんなの受け止め続けるのは無理だ。受け流すのは出来るかもしれないが、軽く流して出来るほどの技量はない。


 騎士団長が手で見学人に下がるように伝える。打ち合いが止まり、二人が距離を取って向かい合う。


 「始まるようですね」


 「そのようだね」


 突然、後ろから声が聞こえ慌てて振り向く。

 君達も見に来ていたんだね。とフーレが俺に声をかけ、へレナートへと視線を移す。


 「鍵が無いと思ったら、やっぱり君か」


 「良い機会だと思ったのでケーマ様方にも国トップの実力を見てもらおうと」


 「それは構わないけど、一言報告してね。もう始まるからこれ以上は言わないでおくけど」


 フーレが俺の隣に腰掛ける。それを見たアイリーンが座って良いと判断したのかフーレとは反対側の隣に座る。

 ソフィアとクロードはへレナートの隣で立ったまま見ているが、立っている方が見やすそうだな。ちょっと高い位置に造られているせいで、見えるけど手前の方に来られたらしたのか死角になりそうだ。


 「始まったようだね」


 剣と剣が先ほどとは比べ物にならない強さでぶつかり合う。響く音がその重さを伝える。

 攻めるのは冒険者。流石と言いたくなるような荒々しい剣は、騎士団長の剣を激しく揺らす。それを騎士団長は受け止め切るのではなく少し受け流すことで余裕を持って対応する。

 攻撃から攻撃の連続で相手に守らせる冒険者と、それを捌ききり隙を与えない騎士団長。互いに余力を残しながらの攻防だが、それですら俺の全力を超えている。


 「どうですか? 騎士団長とSランク冒険者の実力は」


 「俺には差がありすぎて、凄いとしか言えない」


 騎士団長が今まで使わなかった盾を使い剣を受ければ、すかさず剣で斬りかかる。距離を取って避ける冒険者に追撃し、攻防が逆転した。


 何度も攻防を変えながら打ち合い、五分くらいだろうか、それくらい経ったところで互いに剣を下ろす。

 見学人から拍手が送られ、戻って来た二人によって解説が始まるようだ。


 「嫌になるね。本気で無い戦いですら、自分との差を感じてしまうなんて」


 「二人とも見学人に見せるように戦っているからね。彼らと並んで戦える人の方が少ないのだから、差を感じるのは仕方ないよ」


 差がわからずに無謀に突っ込むような馬鹿はいらないからね。そう言いながら視線を戻すフーレの顔は騎士達を見定めるように冷たい。


 「使える人材を探すのも大変だよ。自分のこと以外は分からないことだらけだ」


 人のことまで何でも分かってしまえば、それはそれでつまらない世界になりそうだ。

 分からないからこそ良いことも悪いこともある。


 俺も下へと視線を戻そうとすれば、隣にいたアイリーンが居なくなっていることに気づいた。

 部屋の中を探せば、アイリーンが窓から訓練所へと飛び降りようとしているのを見つけた。


 「あ、おい!」


 声をかける前にアイリーンの足が窓枠から離れる。下に落ちていくアイリーンを追うように窓際まで駆け寄る。


 魔力が一気に吸われる感覚。

 その感覚でアイリーンが何をしようとしたのかが分かった。

 アイリーンの速度でも無理だ。反射的に攻撃されれば怪我どころでは済まない可能性だってある。


 「疾風迅雷」


 声は届かなかったが口の動きからそう言ったのが分かる。

 見失いそうになる程の一瞬の加速。気が付けば握られていた剣が冒険者へと迫る。


 「なっ!」


 アイリーンの剣が側頭部を捉える間際。伸びて来た手によって握り止められる。


 素手で剣を受け止めた?

 驚愕で固まる俺とはよそに、冒険者の反対側の手がアイリーンに伸び、それと同時にアイリーンが剣を離して全力で距離を取る。


 慌てて俺も下へと飛び降りる。整理のつかない頭で二人のもとへと向かう。


 「これがSランクの実力か」


 うんうんと頷くアイリーンの頭を叩いて、頭を下げさせる。


 「すいません。うちの馬鹿がいきなり攻撃して」


 バクバクと鳴る心臓を抑えて、とりあえず俺が謝罪の言葉を告げる。

 俺を見定めるかのように上から下までゆっくりと見て、一歩前へと出てくる。


 ゾワっとする背筋。慌ててアイリーンを突き飛ばして、そのまま自分は斜め前に飛び込んで一回転する。


 騒然とする周囲を黙らせるかのように、楽しそうな笑い声が響く。


 「いや、悪い悪い。ちょっとふざけちまったわ」


 手を差し伸べてくるので、それを借りて立ち上がる。

 俺よりも頭一つ分近く高い冒険者は、立ち上がっても見下ろされているように感じる。深い赤色の髪と瞳も、さらに威圧感を増幅させる。


 「俺はジャディンスだ。お前の名前は?」


 「ケーマです。Cランク冒険者のケーマ」


 「Cランク? ああ。スタンピードの野郎か。それなら納得だ」


 俺を見た後に、アイリーンを見て、またこちらに視線を移す。


 「もっと鼻にかけたような奴かと思ってたが、自分の実力を分かってる良い奴じゃないか。そっちのチビもしっかり逃げる前提で攻撃してきていたし」


 あの一瞬でそこまで見切ってアイリーンの剣を受け止めたのか。アイリーンの速さを見切ることすら俺には大変だというのに。実力の差があり過ぎて、こうして面と向かって話しているだけで怖い。


 「一つ手合わせでもするか?」


 「いや、やめておきます。さっきの戦いだけで学ぶところは十分ありましたから」


 手を抜いてくれるとしても、こんな奴と戦うなんてごめんだ。アイリーンは戦いたかったかもしれないが、決定権は俺にあるからここは断らせてもらう。


 「謙虚なのは良いことだが、冒険者には向いてなさそうだな。まあ、お前は少しはまともな奴みたいだから、冒険者を辞めても問題なさそうだな」


 「あまり、話し過ぎないようにして下さいね。どこから煩いのが嗅ぎつけるか分からないので」


 フーレ達は外から回ってきていたようで、人混みの中を抜けてやってきた。フーレの姿を見たジャディンスが頭をガシガシと書いてばつが悪そうな顔をする。


 「どうせ明日だろうが。これだから面倒なんだよな」


 また俺の知らない所で、俺の話が進んでいるというのか。明日ということは謁見の際に告げられる報酬だろうか。

 その時まで内密にということは、また面倒なことに巻き込まれそうな気もする。


 何だろうか。国宝級のアイテムや莫大な金もしくは金になる何か。それとも、ギルドのランクを更に上げる?まさかとは思うが貴族位の授与?流石にそこまでするにら功績が足りないだろうから、騎士団への入団とかか?


 「ま、喋るなっていうなら俺は喋らねえよ。それで、訓練でも一緒に受けてくか?」


 「受ける」


 まさに即答。暇だからいいが、本当にやる気になると突っ走るよな。アイリーンだけでなく、他の皆も部屋でじっとしているのは飽きていたようで、参加したいとこちらを見てくる。


 「せっかくの機会なんで見ていきます。五人増えても大丈夫でしょうか?」


 「五人くらいなら問題ないさ。エステリーナ様とソフィアちゃんは魔法職だからあまり参考にはならないかもしれないけどね」


 何故かフーレの許可で参加が決まったので、少し訓練所から離れてストレージから武器や装備を取り出して全員に渡す。


 装備すればすぐに戻っていく皆の後ろ姿を苦笑いしながら見て、俺もゆっくりと訓練所へと戻る。

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