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王城―2

 コンコンとドアがノックされる。誰かがパタパタと走っていき、ドアを開ける。用を尋ねる声からしてドアを開けに行ったのはクロードだろう。


 寝てたのか。ぼんやりとした意識を覚醒させれば、窓から見える空は青から黒へと変わっている。

 窓とは反対側。何か重みを感じる左腕を見てみれば、くーくーと寝息を立ててアイリーンが俺の腕を枕にしていた。


 空いている右手でアイリーンに軽くデコピンをすれば、おでこを摩りながらゆっくりとアイリーンが顔を上げる。


 「お腹空いた」


 起きて一言目がそれかよ。

 いや、確かに昼も殆ど食べていなかったからお腹は空いているが、他にも色々とあるだろう。


 「たぶん食事のお誘いが来たみたいだ」


 こんな時間になっているなら、呼びに来たのはフーレかその従者だろう。


 クロードが戻って来て、俺が起きているのを見てドアの方に何か伝える。


 「今から夕食にしないかと来られましたけど行きますか?」


 「いく」


 俺よりも早くアイリーンが返事して飛び起きる。行くのは行くけど、少しくらい落ち着け。

 早くと振り返って俺を見るので、苦笑いしながら立ち上がり、ローブを羽織って部屋を出る。


 「昼間から寝てるなんて、気ままな冒険者らしいと言えば良いのかな」


 フーレが冗談めいて言うが、確かに昼間っから寝るなんて気ままな生活だよなと思う。


 「俺はゆっくり生きたいからこのままでいいの」


 毎日仕事を頑張って、なんて生活は俺には出来そうにない。本当に両親や周りの大人は凄いなと、冒険者みたいな仕事をしているだけでも思う。


 「そんな生活ももうすぐ終わりだけどね」


 「え?」


 呟くように言ったフーレの言葉は、隣にいた俺にさえ聞き取れない程の音量で、思わず聞き返してしまう。


 「なんでもないよ。さっ、食事に行こう」


 答えてくれないフーレに案内され、到着した部屋は食堂なんかでは無く、普通の応接室のような部屋だった。

 高そうなソファーや小物。この部屋の中にある物全て売り払えば、遊んで暮らせそうだなとか考えてしまう。


 「食堂だと周りが煩いからね。僕の部屋にさせてもらったけど良いよね?」


 ここまで来て断るなんてことはしない。ちょっと緊張はするが、フーレの部屋ならば少しくらいやらかしたところで謝れば許してくれるだろう。


 「あんまり使わない部屋だから埃とかあったらごめんね」


 「掃除はきっちりしているので大丈夫です」


 奥の部屋。少し見えた感じでは執務室だろうか。そこから、出て来たのは綺麗な女性。その後ろにはメイドが料理の乗った台を押している。


 「これも一緒だけど大丈夫?」


 「え、ええ。大丈夫です」


 俺と同じくらいの身長の女性。騎士のようだが、筋肉質ではなく細身の体は、引き締まっていて美しい。金色の肩よりも少し長い髪と切れ長の目がより一層引き込ませる。


 「ヘレナートと言います。よろしくお願いします」


 「冒険者のケーマです。婚約者のエステリーナとパーティーメンバーのソフィアとアイリーンとクロードです」


 丁寧に挨拶されたので、俺も知っているだろうが全員の名前を告げる。皆も俺の紹介に合わせて頭を下げていく。


 「まあ、堅苦しいのは無しにして食事にしよう。せっかくの料理が冷めてしまうのは勿体無い」


 フーレの言葉で全員が席に着く。メイドがそれぞれの前に料理を運び、運び終わったところでフーレが一言告げて食べ始める。


 料理は俺達に合わせたのか、食堂の物を部屋まで持って来させたようで堅苦しい料理ではなかった。

 それでも、流石王城の料理人、王城で使われている食材とでも言うべきなのか、味はかなりのものだ。


 普通に食べているエステルとクロードとは違い、ソフィアは一口食べて驚き緊張し始めた。アイリーンは美味しかったのか普段よりも早いペースで食べていて、こいつに緊張なんて言葉あるのかなと思ってしまう。


 「ケーマ君は夢や目標みたいなものはあるのかな?」


 「夢ですか。さっきも言ったように楽に生きたいってとこですね。もう死にかけるのも嫌ですし」


 本当に、今度こそ、もう死にそうな経験はしたくない。

 アイリーンは強いし、ソフィアもかなり優秀になった。クロードも成長して魔力が扱えるようになったから、俺と変わらない実力はある。

 回復の使えるエステルがいるから少しくらい無理してもらっても大丈夫だから、これからは俺が前に出る必要もないはずだ。


 「私も死にかけるのは嫌だね。君なら問題なさそうだ。これからは冒険者として無理することも必要なくなるだろうから、夢は叶うんじゃないかな」


 「どういうことですか?」


 「王からの報酬で分かるよ。君にとっては良い報酬か悪い報酬なのかは、判断しにくいけどね」


 それ以上は語らず、尋ねてもはぐらかされる。


 冒険者として頑張らなくても良くて、けれど俺にとって良いか悪いか分からない。

 どんな報酬だろうか。売ればお金は手に入るが目立ってしまうような貴重な品だろうか。それとも、貴族のお抱えなんかに紹介してもらえるのだろうか。実力を買われて護衛なんかに抜擢されるのだろうか。


 選択肢が多すぎて絞りきれない。俺にとって良くないこととは何だろうか。

 その場所に縛られてしまうような報酬?でも、家なんかもらえるならそれは嬉しいんだけれど。もっと良い仲間をくれる?それはちょっと困るな。今の皆のことは気に入ってる。

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