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王城

 白い石造りの建物は外から見ても、中から見ても、目立った汚れなど見当たらない。

 自然なくすみや風化による傷みはどうしても隠しきれない。だが、そういった自然や歳月を感じられる部分が、この城の凄さを教えてくれる。


 増改築はあったとは言え、建てられてから百年以上経つこの城が、昔のままの姿を保っている。それは、それだけの間、この城が傷つくよう攻撃を受けていない。人からも魔物からも守り抜かれているということだ。


 「こちらの部屋をお使い下さい。用があればいつでもお呼びください」


 滑らかで綺麗なお辞儀をして去って行くメイドに返事をすることも忘れ、城の中の様子に驚き続けていた。


 「王城って凄いですね」


 クロードでさえ驚きと緊張で放心していたようだ。元貴族だとはいえ、そこいらの貴族の屋敷と王城では比べるのも馬鹿らしいな。王城の中をしっかり見るなんて、普通は王城で働くか、それ相応の地位が無いと無理だろう。

 ソフィアもガチガチに緊張しているし、場慣れしているエステルと何も考えてなさそうなアイリーンがいなければ、ここまで案内してもらうことすら大変だっただろうな。宿屋まで迎えが来た時なんてエステルがちょうど手が離せなかったから、アイリーンが適当に対応してたし。


 案内された部屋の中を一通り見るが、教会の客室といい王城の客室といい、最先端の技術が盛り込まれ、それでいて部屋の美しさを損ねないようになっている。

 教会の中や王城の中は、他の場所よりも何十年も先を行っているくらい技術の差がある。


 そして、街ごとの格差というのも酷い。それだけ、発展途中であり技術の進歩が激しいということだろう。

 そこに、魔物という安全で安定な物流を妨げる存在。国同士の探り合い。


 更には魔法という存在。

 貴族なんかの金持ちは、便利にするためだけに魔法使いを雇ったりマジックアイテムを使い潰したりできる。

 上が満足しているのだから、わざわざ金を出して下のために動くことなんて殆どない。ましてや、人の命が軽く、上が絶対的な力を持つようであれば。


 「下からすれば辛いが、シンプルで分かりやすい世界だよな」


 才能があればある程度まで上には簡単に行ける。それは、戦いの力でも、商売の上手さでも、頭の良さでも何でもいい。


 俺がスタンピードを止めただけで、あれだけの報酬を貰い、英雄と噂されているように。



 「エステルとソフィアは奥の部屋を使って。俺とクロードがこっちの部屋を使うから」


 持って来たカモフラージュ用の荷物を適当に部屋の中に置いてベッドに横になる。


 技術が安定すれば、俺のストレージと転移を使って物流を安定させることはできるけど、そんな働きたくないし考えるのもやめておこう。


 「さて、どうしようか」


 フカフカのベッドの上で力を抜き天井を見上げる。布団が気持ち良い。そんなことばかり考えて、これからのことを考えようともしないまま、どうしようかと口だけを動かす。


 「ある程度自由にしておいて良いと言われても、王城の中を勝手に歩くなんてできないですよね」


 本当にな。

 出歩く許可は得ているが、出歩く勇気がない。王城の中なんて、いつ何時どんなお偉いさんに会うか分からない。

 そんな中を気ままに歩くなんてできない。寧ろ歩いているだけで精神がガリガリ削られていきそうだ。曲がり角の度にそろっと先を覗き見てから曲がるなんて不審者みたいなことをしたくなる程には怖い。


 そもそも、一回この部屋を離れてしまえば、戻ってこれるかすら怪しい。

 ここまで案内してきてもらったが、緊張して場所なんて覚えてなんかない。それに、なんだか遠回りして来たような気もする。

 窓から見える景色と歩いた距離がおかしいんだよな。


 「私も城の中は謁見室とパーティーなんかが行われるホールくらいしか行ったことので、案内もできないです」


 頼りのエステルやクロードですらこうなのだから、下手に動かずに部屋の中でゆっくりしているべきか。


 幸いにも、数時間我慢すれば夕食だ。それまで暇つぶしすれば、後は食べて風呂に入って寝るだけだから、どうとでもなる。


 食事の時が心配だけど。


 本当に何をするわけでも無く、いつも通りの時間を潰す。

 迎えが来たから今日この城に来たが、することは何もない。唯一今日やることと言えば、夕食をフーレ達と共にするらしい。はっきり言って、明日に王城に来た方が良かったのではないかと思うスケジュールだ。

 それに、フーレ以外に誰か同席するらしいけれど、それが誰なのかすら聞いていない。食堂で食べるようなので、フーレ以上に偉い奴は来ないだろう。


 「マッサージして」


 アイリーンが暇すぎてクロードにマッサージを頼む。俺の横に寝転び足をぱたぱたとさせているので、足を揉めと言うことなんだろう。

 アイリーンはゆったりとしているし、クロードはマッサージに励んでいる。エステルとソフィアは最近仲よさそうにしていて、今も二人で話している。


 あれ? 俺ぼっちじゃん。


 そうだよな。何でパーティーメンバーの数が奇数なんだよって話だ。

 それに、男が俺とクロードしかいない。クロードが取られたら、基本的に俺が余るのは目に見えてる。


 エステルとソフィアのところに混ぜてもらえばいいだけの話でもあるが、はっきり言って話すこともないのに女子トークの中に混ざるのは俺には無理。


 パーティーメンバーでも増やそうかな。

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