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王都―4

 見たいものは二日ほどの観光で見終わり、完全にやることも無くなった。

 宿屋でゆっくりとしていれば時間は過ぎるが、完全に無駄にしている気がして仕方ない。


 覚えた詠唱をぶつぶつと唱えながら、上手く発動できないと悩んでいるクロードに、出てくる声をかけて部屋を後にする。


 エステル達が泊まっている隣の部屋のドアをノックして声をかける。


 「なに?」


 アイリーンがドアを開けて顔を覗かせる。エステルとソフィアは何やら話しているようで出てこない。


 「暇つぶしに適当に歩かないかと誘いに来たんだけど、誰か来る?」


 アイリーンが奥の二人に視線をやって様子を見る。少し考えて、何やら一つ頷いて向き直る。


 「二人は忙しいから私が行く」


 「ん? ああ。じゃあ、下で待ってるから用意して来てくれ」


 「わかった」


 ドアを閉めてパタパタと走っていくアイリーンの足音を聞いて、俺は先に下へと向かう。

 ソフィアとエステルが何をやっているのかは分からないが、アイリーンだけが来るなんて珍しいな。


 アイリーンと二人なら何処へ行くのが良いだろうか。買い物や観光なんかはあんまり興味なさそうだし、一回ギルドでも見に行くか。

 用事はないけれど、ストレージの中の素材なんかでも売って、少し金を持っといても良い。この前の買い物でだいぶ手持ちが減ったから。


 「お待たせ」


 いつものように動きやすそうな服装に着替えて来るかと思ったが、珍しくスカートを履いている。

 あんな服持ってたかな? アイリーンはそれこそ少年かと思うような服ばかり買うから、スカートなんて買った記憶がない。


 「スカートなんて珍しいな。似合ってるよ」


 「そう? エステルに貰ったから着てみた。動きやすいけどスースーする」


 クルッとその場で回ると、ふわりとスカートが舞い上がる。

 中が見えるほどは舞い上がらなかったが、またいつやり出すか分からないので、さっさと出発するか。


 「これはいわゆるデートというやつか」


 俺の横に並んで歩き出したアイリーンが、ハッと思いついたかのように口にする。


 「男女で買い物なんかに出かけるのを全部デートと言うならデートかもな」


 俺もアイリーンもそんな感情は互いに持ってないから、デートとは呼べないと思うが。


 「デートなら手を繋ぐべき」


 俺の手を握ってくるので、俺も握り返す。

 いつ何処にふらっと行くか分からないので、手を繋いでおけるのは安心だ。


 「うん。主も結構努力してる」


 剣を握って出来た俺の手の豆や傷を見て感心したように呟く。

 戦闘なんかはしなくても、毎日剣を握るくらいはしてる。その程度を努力と言って良いのかと考えてしまうが。


 「それに戦闘だけが努力じゃない」


 「お、おう」


 まさかアイリーンからそんな言葉が聞けるとは。戦闘のことばっかり考えてるのかと思っていた。


 「主はこのままでいいの?」


 「このままって? こうしてるのは意外と悪くないから良いと思うけど」


 アイリーンの手を繋いでいるのは、飼い犬にリードを着けているような安心感がある。それに、アイリーンが何も思っていないからか、俺も変に緊張したりすることもないし。


 「そうじゃない。このまま、リーシアとか王様とかの考えに流されるままでいいの?」


 こうやって王都に来ていることや、エステルとのことを言っているのか。

 この世界なら本気で逃げようと思えば、逃げられるだろう。身分証明がしっかりしていないからこそ、こうやって異世界に来ても生活できているが、すなわちそれは幾らでも偽装できるということだ。


 全てを捨てて、もう一度最初から違うところで始めれば、やり直すことも不可能ではないだろうな。


 「でも、逃げるのも面倒じゃん。今のところ楽しめているからこのままで良いかなとおもってる」


 「そう。それなら良い」


 「心配してくれてありがとうな」


 無表情だから分かりにくいが、俺を心配してくれているのだろう。何かと楽に生きたいとか言ってるのに、こんな面倒なことに巻き込まれたりしてるから。


 これで楽しくなかったら嫌だけど、今のところ恵まれているからな。戦闘だけはもう楽なの以外いらないが。


 ギルドへとやってきたのはいいが、人が多い。この辺りは良い狩場が少ないらしいので、強そうな冒険者は少ないが、王都の人口や出入りする人間が多いのに比例して冒険者の数も多いと言った感じだ。

 中にいるのも、狩り終わりやこれから狩りに行くというよりは、護衛してきたり護衛依頼やちょっとした依頼を待っているようだし、街の特徴が現れてるなと感心する。


 「良い依頼ない」


 掲示板に貼られた依頼を見てアイリーンが不貞腐れたように呟く。

 良い依頼なんて早い者勝ちだから、こんな時間に見に来て残ってるわけ無いんだけどな。


 査定待ちしている俺の横に並んで、ぼーっとし始めるアイリーンに苦笑いしつつも、下手に遠くまで狩りに行ったりせずに済んで良かったと安堵する。


 「二十三番でお待ちの方。お越しください」


 呼ばれたので受付まで行く。アイリーンも横についてくるが、暇だったからか眠そうだ。


 「こちらが内訳とお金になります」


 受け取った金額を見て、思っていたよりも高くて驚く。内訳を見てみれば、適当に採ってきた薬草が高く売れたようだ。

 そういえば、クロードが珍しい薬草とか言ってたような気がする。


 これで、王都にいる間の金には困らないかな。この後、また何か買わないといけなくなったら別だが。

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