王都—2
大通りを抜けた先。
何本もの通りが集まる中心地には大きな噴水と広場があった。
何がある訳でもないが、ゆったりとした空間は居心地の良い時間を与え、人を集める。
「ここが中央広場ですね。ここから真っ直ぐ行ったあの城が王城です」
エステルの指差す先を見れば、そびえ立つ綺麗な城が見える。
凄い。何が凄いと的確に表現できるほどの感性を持ち合わせていないから言葉にできないが、とにかく凄い。
自分には手の届かない場所だと思ってしまうような存在感。だが、決して華美ではなく洗練されているように感じる。
そして王城まで続く道。
途中に三ヶ所も門があり、忍び込もうとも思えない。ただ、真っ直ぐに続いているのに、これ程遠く感じるのは俺がそれだけ小さな人間だということか。
「あそこには行きたくないな。遠すぎて違う世界みたいに感じる」
「ある意味そうかも知れませんけどね。教会の中があれだけ他と比べて発展しているように、王城の中もそれ以上の設備があります」
技術力だけでも数段先を行っているということか。
「そして、中にいる人も、それぞれが選ばれた人ですからね。従者でさえ、訓練を受け試験に合格した人しか働けませんから」
無能を置いたところで、他国からきた訪問者なんかに国の品位を低く見られてしまうだけだからな。
それでも、あの中で働けることに比べれば、それまでの訓練や試験なんかは耐えれることなんだろう。俺には到底理解できやしないけれど。
あんな所に、王に会いに行かなければいけない。
……考えるだけで胃が痛くなってきた。
「あそこはなんでしょうか?」
少し列のできた店。並んでいるのは女性が多いようだが何の店だろう。
「あそこはケーキが美味しいと評判のお店ですね。中で食べるタイプのお店ですが、毎日列ができているとか」
ケーキねえ。迷宮都市でもソフィアと喫茶店に行ったが、女性客かカップルばかりで居心地がな。
見てる限り、ここも女性客ばかりで入り辛そうだ。
ゆっくり歩き出そうとしたが、ソフィアがケーキ屋をじっと見つめているのに気づいた。
甘い物が好きなのかな?
旅の途中なんかは肉やスープがメインになるから、甘い物なんか殆ど食べないもんな。
「食べたいなら行くか?」
「えっと……だ、大丈夫です」
少し悩み、遠慮したように断るので、本当は行きたいんだろうな。
だが、無理に俺が連れて行くのはソフィアが申し訳なく思ってしまうかもしれない。
悩んでいると、暇そうにしているアイリーンと目があった。アイリーンに無言で訴えれば、気づいたのか自分がそうしたかったのかは分からないが、ソフィアの手を引く。
「一緒にケーキ食べよう」
「え?」
突然のことに驚くソフィア。アイリーンから誘われるなんて珍しいからな。基本的に、アイリーンが何かしたいと思った時は一人で行くか、誰かがそれに着いて行くかで、アイリーンから誘われることはない。
「二人で行ってくるからお金」
「はいはい。気をつけてな」
どうせ、その後何か買い食いでもしそうだから多めに渡す。手に置かれた金を見て、こんなに良いのかとこっちを見てくるので、いいよと伝えればありがとうと金をしまう。
「アイリーンが暴走しないように着いて行ってくれ。終わったら宿屋に戻っておいて」
「はい。ありがとうございます」
「む。心外」
ソフィアの手を引いて店へと向かうアイリーンに苦笑いで手を振る。
ソフィアをぐいぐい引っ張って進んでいくので、もしかしたらアイリーン自身が行きたかったのかもしれない。俺が視線を送ったのを行っていいよという意味だと思って、ついでにソフィアも誘った可能性もアイリーンならあり得るな。
「わ、私達はどうしますか?」
気がつけばエステルと二人きりになっていた。少し恥ずかしそうに見上げてくるエステルを見ていると、こちらまで恥ずかしくなってきた。
落ち着け。エステルは仲間。エステルは仲間。
……って、エステルは婚約者じゃん。
「え、エステルはどこか行きたいところとかある?」
婚約者。婚約者か。
今まで婚約者と言われても実感は無かったが、こうして二人きりで改めて意識してしまうとドキドキしてしまう。
そろりと伸びてきた手が俺の手を掴んだ瞬間、心臓が飛び跳ねたかと思った。
「ふ、普通に二人で買い物とかしたい……です」
「そ、そうだな。買い物でもするか! 適当にゆっくり見て回ろう」
深く考えるのはよそう。
意識すればするほど、テンパって空回りしてしまう。
ま、まあ、このくらい。婚約者……カップルならなんらおかしくないことだ。




