王都―1
窓から街の奥の方を見続けていれば、いつの間にか馬車が止まっていたようで、御者台にいたはずの聖騎士が俺の横までやって来ていた。
「ここで降りれば、街を見て回るにはちょうど良い辺りです。そこの門から街に出て、少し歩けば店も多くありますし、そこを抜ければ宿屋もあります」
ここで降りろってことね。このまま乗ってたら王都にある教会に行くから、その後の移動が面倒になる。
良い場所で降ろしてくれようとしているのだから、従っておくのが良いな。せっかくなら、馬車で遠くから見るのではなく、中に入って色々楽しみながら見て回りたい。ゆっくりできるかは分からないが、また来れるかも分からないから観光程度はしておきたいし。
「ここまでありがとうございます。おかげで楽ができました」
「いえ。もともと、教会のせいで期日に間に合わなくなるところでしたし、それに……」
馬車から降りて伸びをしているエステルを見つめる。そう言えば、リーシアが言ってたな。この聖騎士はエステルの護衛なんかもやってたと。
「あれだけ楽しそうにのびのびされているのは初めて見ました。それだけで、御者を引き受けた甲斐があったというものです」
必死に頑張って、そして苦しんでいた姿を見てきたんだろう。小さな頃からリーシアの娘として特別扱いされていたエステルを見て、自分の子では無くとも心を痛めていたのだろう。
どこか嬉しそうに、どこか寂しそうにエステルを見つめるので、何も言えずに待つ。
「それでは。何かあれば王都にある教会に来て頂ければ、そこにいる者が助けてくれるはずです」
「ああ、ありがとう。また何かあったら助けてもらえると嬉しいです。ヘイゼルさん」
「あ、ああ。御者や護衛くらいなら手が空いてたら何時でもさせてもらうよ」
聖騎士のヘイゼルさんに別れを告げて門へと向かう。あんな人が仲間になってくれたら助かるのにな。聖騎士を辞めてこっちに来てもらうだけの利点も無いし、対価も払えないから、誘うことすらできないけど。
「人がいっぱいですね!」
人が行き交う大通りは本当に活気がある。今までの街と違い、屋台の数が少なく店として構え、店の前で宣伝のようなことをしているのが目に入る。
「この辺りは商店区ですね。奥の方には露店区もありますが、今は商店区の方が人気です。冒険者の方には露店区が人気のようですが」
時代の移り変わりといった感じかな。露店のようなその場売りでは無く、店を構えることで提供の安定や品質にこだわり、安心感与えるような売り方に変わってきているのか。
ささっと買い物をしたり、手に入れた金で買い食いや目に付いた物を買うみたいな人にとっては露店が人気なのかな。冒険者なんかはそういう人が多いイメージだし。
商店区を抜ければ、宿屋がちらほらと見えて来た。どの宿屋にするか。とりあえず、数軒は見てから決めたいので歩き続ける。
「ギルドは向こうの方ですし、王城は正反対。どこに泊まっても変わりなさそうですね」
流石に王都の宿屋街で経営している宿屋はどこもそれなりの質がある。外から見た程度では受付の容姿や態度くらいしか判断材料が無いので、本当に決めるのに悩んでしまう。
「よし、ここにしよう。悩んでいても変わらないなら目にとまったのでいい」
ちょうど目の前にあった宿屋に決めた。考えていたらまた悩みそうなので、さっさと中に入る。
カランコロンと音を立てて扉が開く。すぐに従業員が裏から出てきて受付をしてくれる。
「ようこそ。宿泊でよろしいですか?」
「ああ。部屋は三人部屋を二つ頼めるかな」
「三人部屋お二つですね。かしこまりました。部屋代は前払いで、二部屋一泊1500コルです」
王都だから少し高めなのは仕方ないか。お金を払って鍵を受け取る。階段を上がって部屋に入れば、まあ値段が高いのも仕方ないかと思ってしまう。
ペネムや迷宮都市で泊まっていた宿屋とは質が違う。エステルもいることだから安いところには泊まれないかなと考えて、大通りに近い場所で探してはいたが、値段相応の質はしっかりあったな。
部屋の様子も見たので、この後どうするか考える。
俺は何も無いから観光でいいが、観光するにしてもどこから回るかが問題だ。
「僕は少し図書館に行きたいです」
「図書館ね」
簡単に書かれた地図を眺めて図書館がどの辺りかなと探せば、エステルが指をさして教えてくれる。
図書館にはクロードだけが行ってもいいが、それでも態々反対側とかに行く必要もないし、図書館の方面に向かうか。
それにしても、フリージアで図書館なんてあんなに見たのに、まだ何か見たい本でもあるのか?
「魔力が操作できるようになったので、今度は魔法の詠唱が載った本を見ようと。ソフィアさんは火と水と風で僕は土なので詠唱は分からなくて」
「そんなに魔法を覚えるのを急がなくてもいいが、まあやりたいなら頑張れ」
「はい!」
しばらく王都にいることになりそうだから急ぐ必要は全くない。だが、他にやることもないし、本人が望んでいるようだから止める必要もない。
他に見たいものがある奴もいなかったので、クロードを見送りに図書館へと向かう。
「見終わったら宿屋に戻っておいてくれ。俺達も適当に見て回ったら戻るから」
「分かりました」
クロードが図書館に入って行ったのを見て、俺達も歩き出す。




