王都へ
揺れる馬車の中で、ゆったりと寛ぐ。俺の横ではソフィアが本を読み、エステルがアイリーンに文字を教えている。
クロードは一人馬車の端っこで、ようやくコントロールできるようになった魔力で遊んでいる。さっきから、俺の魔力ががんがん減っては凄い勢いで回復してるんだけど、本当に何してるんだろうか。
ふと、小さく取り付けられた窓から馬車の外を見れば、凄い勢いで景色が流れていく。
街道がしっかりしているということもあるが、今まで乗った馬車とは比べ物にならないほど速い。
「なんか、こんな無茶させて悪いな」
「教会からの依頼で時間がかかったのもあるので大丈夫ですよ。それに、聖騎士の人達にとっては良くやることなので」
国王からの報酬をもらうための期間に間に合わすために、聖騎士に協力してもらって馬車で運んでもらっている。
リーシアが何やら手紙を書いていたので、間に合わなくても問題なさそうだが、楽に王都まで行けるなら断る理由もないということで世話になることにした。
「それに、新型の馬車の耐久試験にもなっているので問題ありません」
新型の馬車か。通りで、この速度で移動しているのに、揺れとかもそこまで激しくないのか。
普通の馬車で、この速度で走っていれば、振動で酔っていただろうな。技術の発展に感謝だ。
新型の馬車の耐久試験のついで。そうは言うが、待遇が良すぎて申し訳ない気分になる。馬車の操縦から野営の準備、食事の用意や片付けまで全てを聖騎士と世話役としてついて来た使用人がやってくれている。
俺達が乗っているのとは違うもう一つの馬車には積荷が乗せられているので、ついでにと言うのも嘘ではないだろうが。
身の回りのことも、ソフィアやエステル、クロードが率先してやってくれるから、本当に馬車に揺られているだけのようなもんだ。
ビクスとの戦闘で受けたダメージを心配してくれているのだろうが、エステルの治癒魔法で殆ど治っているから、自分で動けるのにな。
「ケーマさん。そろそろ王都が見えて来ますよ」
エステルが窓の外を指差すので、ぐっと乗り出して外を見る。ソフィアとアイリーンも王都は初めて見るようで、俺の横に来て外を覗く。
「凄いですね」
「ああ……」
いざ目にして見ると、言葉が出てこない。街を囲む壁は分厚く、その上には見張りの兵士がいるのが分かる。
なんて言うのだろう。他の街と違って本当にいつ敵が来てもすぐに対応できるような感じがする。それこそ、地を駆けてくる魔物だけでなく、上空から来る魔物にも、王都に攻め込む人に対しても。
ただ、王都の中身に関しては、壁が全てを隠しているので何も分からない。外から見えれば、それだけ狙われる可能性もあるということだから、見えないのは仕方ないと言ったところか。
勢いよく走っていた馬車が徐々にスピードを落とす。街の中に入ろうと並ぶ列を横目に、兵士に誘導されて馬車は別の入り口へと向かう。
御者台にいた聖騎士が手続きを済ませてくれる。荷物が乗せられた馬車が先に中に入っていき、俺達の乗る馬車には誰かが近寄ってきた。
「やあ、久しぶりだね。報酬を貰いに来たのかい?」
馬車の扉を開けて声をかけて来たのは、迷宮都市で会った騎士のフーレだった。何故ここに?という疑問は湧くが、それよりもフーレが報酬について知っていることの方が気になる。
「そうです。期限的にどうなのかなってところですが」
王が褒美を与えると言った時から二ヶ月ならもう過ぎている。俺が教えて貰ってから二ヶ月なら本当にぎりぎりと言ったところだ。
「ああ、それなら大丈夫だよ。教会から連絡も来ていたし、本当に来ないようなら探しに行くように命じられていたからね」
「そうなんですか……」
いや、探しにいくように命じてあるとか、行きたくなければ来なくて良いというのは何だったんだ。
もとより断る勇気なんざ持ち合わせていないが、選択肢があるようで無いとか嫌になってくる。
「王には私から来たことを伝えておくよ。今は少し忙しいようだから、謁見は少し後になりそうたがね」
わざわざギルドに行く手間は省けたということか。フーレがどの程度の役職かは分からないが、話している感じだと王に直接言えるような立場のようだから任せておこう。
「では、ようこそ王都へ。追って連絡するから、それまでは王都で楽しんでおいてくれ」
フーレが馬車の扉を閉めると、ゆっくりと馬車が動き出す。
窓の外から見える王都の景色は想像を遥かに超えていた。フリージアの綺麗さとは違い、王都は生活感が溢れている。賑やかな街並みを馬車で抜けるのは大変なため、馬車用の道みたいな馬車を通る。
空いた道をすいすいと進んで行くが、街中に出るための道には兵士のような人が決まっている。
関係者用の道みたいな感じなのかな。貴族とか、重要人物的な人用の道だから空いているというなら納得だ。
わざわざ違う入口へと案内されたのも、教会の馬車だからこっちを使って良いよということなのか。
ここからは王都の街並みがよく見える。この活気を忘れないために、この活気を見せつけるために、この道が作られているのであれば、その目的は十分に果たせているであろう。
それをどう受け取るかは、見た人次第ではあるけれど。




