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ビクス

 あれよあれよという間に連れてこられたのは、聖騎士達の訓練場でもある区画。ここだけは、何かをやることが決められていたかのように、店も出し物も何もない。

 むしろ観客席のようなものが設けられており、用意周到さにもう何も言えなくなる。


 「頑張ってくれよ。あれはエステルを狙っていたから、煩くて困ってたんだ。一つぎゃふんと言わせてやって」


 俺の隣で立ち止まりそれだけ告げ、リーシアは何もなかったかのように歩き出す。ジト目で背中を見つめるが、それに気づいていないのか、それとも無視をしているのかは分からないが、何も反応を見せずに一番見やすそうな場所に用意された席へと座る。




 「まず、勝てる気がしねえ」


 なんたって向こうは神託の英雄だろ?俺も悪くはないスキルを手に入れているとは言え、そこまで強いわけではない。

 俺の神託なんて"自由に生きろ"だ。向こうが神託の英雄と言うのならば、俺は言わば神託の遊び人じゃん。ロールに差があり過ぎる。


 それに神託を得た者同士だとしても自力に差がありすぎる。俺は剣なんて握ったのはこの世界に来てからだから半年もたってない。それに対してビクスは多分幼いころから簡単な訓練くらいはしているだろう。



 「逃げなかったのは褒めてやろう。同じ神託を得た人間としては仲良くやりたいものだが、今は俺の力を見せる為にやられてくれ」


 ビクスがゆっくりと現れる。それに伴い、訓練場の中が静まっていき、俺達のやり取りに注目が集まる。


 「簡単にやられるつもりは無い。やるからには俺も本気でいかせてもらう」


 俺の力がどの程度か試すこともできる。それに、負けるにしてもできるだけ自然に、痛く無いように負けたいものだ。

 自然と互いに剣を抜く。戦闘態勢に入れば、やっとかと見物人達がざわざわとし始める。


 攻める。のは無策だよな。格上相手に戦うのであれば、俺は守りに入るべきだ。

 魔力を通わせ動きに対応できるようにする。ある程度以上の実力者はそれだけで小さく関心の声を上げる。

 俺が纏っている魔力は、普通の近接メインの戦士ならば数分で魔力が切れて終わる程の量だ。ここぞという時に使うのならばともかく、最初から使うようなものではない。


 だが、これでも足りない。

 どれだけの実力差があるかは分からない。鑑定でスキルを見ようにも、隠蔽されていて見ることすらできない。

 もし、オークロード並みにステータスが高ければ、そうでなくとも盗賊のボス並みに一点特化していれば、今の俺の強化程度じゃ破られて終わりだ。


 戦闘系のスキルは戦闘態勢に入れば常時発動に近い。だが、スキルを意識することにより、その効果は更に高まる。


 ほぼ全力。俺が普通に使えるスキルは発動状態。体に負担のかからないギリギリの身体強化もかかっている。

 この状態でも、無駄に流れていく魔力を常時回復することにより、俺の消耗は精神的な部分のみになる。短期決戦用の戦闘スタイルをある程度長く維持できる。

 俺の強みではあるが、いざという時にそれ以上の力が出せない……体への負担を考えればもう少しなら上がるけど。


 互いに出方を伺い、ジリジリと距離を詰めたり離したりを繰り返す。

 だが、それも何時迄も続くことはない。何がきっかけになったかは集中している俺には分からないが、ビクスが距離を一気に詰め、同時に俺は距離を取ろうと後ろに下がる。


 「速いっ!」


 スキルか? 静止した状態からだとは考えられないほどの速さで詰め寄るビクスに、簡単に間合いへと入られる。


 「へえ。良く受け流したな」


 真っ直ぐ突き刺しにきた剣に剣を合わせて受け流した。そのままの勢いで間合いを取ったビクスが、自分の剣を見つめ感心したように呟く。


 速い。確かに速くて焦りはしたが、疾風迅雷を使ったアイリーンに比べれば遅い。ここまで身体強化をしてなお速さに驚いたが、対応できないほどでは無いので、あれだけならば受け流すことはできる。


 「だが、あの程度だと思うなよ」


 またもや詰め寄ってくるビクス。今度は振り下ろされる剣を受け流す。


 やばい。


 本能的に感じ取った怖れに、すかさず反転しながら剣を振る。


 「これも防ぐか」


 振り抜いた先には、同じく剣を振り抜いたビクスがいた。剣と剣がぶつかり、弾かれる。痺れる手で剣を落とさないように必死に握り、今度は剣を逸らす。


 速い。アイリーンのように直線的な速さではない。動きの繋ぎ、切り返しが速すぎる。

 受け流して、次に構えた時にはビクスの攻撃は始まっている。


 これは厄介な速さだな。


 速さだけでなく力でも少し負けているとなると、攻略法なんて見えやしない。

 相手としては完全に格上の相手。これは一人では隙を見つけることすら無理かもしれないな。


 「反応速度は素晴らしい。だが、それだけでは勝てないよ」


 俺に反撃できるだけの余裕が無いと分かれば、ビクスの猛攻は止まらない。

 少しずつ傷が増えていく中、この状況を打開する方法を考える。


 要は、隙を作らせるか、ペースを崩せればいいんだ。ビクスの剣を捌くのを止めずに何かが出来れば。

 だが、その手段が無い。俺の両手は剣を握るために使われている。片手が空いたところで何かできるわけでは無いが。転移もまだ使えない。使えたとしても、ラポールがかかっている先への転移では場外負けになるだけだ。


 こういう時に、魔法の一つや遠距離攻撃の手段があればな。

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