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祝福の儀‐2

 迷宮市も賑わいは凄かったが、あれは市場であってお祭りではなかったので雰囲気が全然違う。

 日本のお祭りと似た部分もあり、違う部分もある。そんな不思議な感覚も、悪くは無いと人混みの中を歩く。


 「大丈夫か?」


 俺の斜め後ろを歩くせいで視界に入らず、何度もソフィアに声をかけている。逸れたら見つけるのが大変そう、というよりも見つけられる自信がない。


 「大丈夫です。思っていたより人が多いですね」


 教会の中はかなり人が多い。普段から人は多いが、やはり祭り効果というのは凄いものだ。

 そういえば、ソフィアと二人でというのも久しぶりだな。アイリーンやクロードを仲間にするまでは二人だったが、人が増えたとなれば、どうしても男女で分かれたり、全員で行動する機会が多くなる。


 最近はエステルも一緒だったから、ソフィアと二人で話すというのもかなり少なかった気がする。



 俺が少し足を止めて考えたせいでソフィアが俺にぶつかりそうになる。体勢を崩したソフィアの腕を慌てて掴んで転けたりしないようにする。


 「す、すいません」


 「いや、俺が止まったのが悪かった。大丈夫か?」


 「あ、はい。大丈夫です」


 ソフィアの視線があっちこっちに行くのを見て、若干抱きしめるような形にもなってしまっているのに気づく。慌てて離そうとしたが、またさっきみたいに後ろを歩かれても心配になる。


 「は、逸れないように手を繋いでおいていいか?」


 「え、は、はい……大丈夫です」


 口に出すのは相当勇気が必要で、顔が熱くなったのが分かる。掴んでいた腕を離せば、そろっとソフィアが手を重ねてくれ、伝わってくる体温に更に体が熱くなる。


 前もかなり緊張したなと思い出しながら歩き出す。こんな時くらいしか手なんか繋がないし、慣れろという方が無理がある。

 とりあえず何か話しておこうと、目に付いた屋台の話をしながら流れに乗って歩く。この人の流れが何処に向かっているかは分からないが、人が多く向かっている先なら何かしらやっているということだろう。


 屋台を楽しみながら、空いているスペースで行われている様々なパフォーマンスなんかも少し立ち止まって見る。

 ソフィアも楽しんでいるし、息抜きにもなったから見に来て良かった。






 人の流れが止まり始めたので、人の隙間から奥を見れば大聖堂が見える。

 最後はお祭りの目的でもある場所に着く。普通に考えれば当たり前かと思いながら、見る気もしないので戻ろうかなとソフィアに声をかけようとすれば、後ろから突かれる。


 「合流した。最後に見て皆で戻ろう」


 アイリーン達も流れに沿って来たのか、いつの間にか俺達の後ろに来ていた。

 見る気は無かったが、見ていこうと言われれば断るほど見たくないわけではないので、暇潰しがてら見に行くか。


 外の騒がしさとは一変。大聖堂の中は静かでリーシアが何かを読み上げる声が響き渡る。

 いつもの着崩した巫女服のような服装のリーシアとは違い、真っ白な礼装の上に仄かに青みがかった羽衣を纏った姿は美しく引き込まれる。


 「ーーっ!」


 かなりの距離があり、大聖堂の中、俺の周りにはかなり人がいる。それなのに、リーシアと目が合ったような気がして、つい視線を外す。

 やばい。早くここから逃げないと。

 もし、本当に目が合ったとしたら何か良くないことに巻き込まれる気がする。


 「礼装姿のリーシアも見れたし、さっさと行くか」


 無料ゾーンでは立ち止まらずに進むようになっているが、その流れよりも早く大聖堂を抜けようとする俺に、ソフィアが首を傾ける。


 「あ、終わったみたいですね」


 クロードの声に再び奥を見てみれば、リーシアが手に持つ本を閉じて壇上から降りていく。

 代わりに壇上に上がるのは、これまた前の姿からは想像できないようなビクスの姿。白い薄手の鎧を身に纏い、真っ直ぐと前を見つめるビクスは、それこそ勇者だの英雄だのそう言った言葉が似合う。


 「あの人がもう一人の神託を受けた人ですか?」


 「かなり強そう」


 そういえば、ビクスに会ったのは俺だけか。印象に残る人物だっただけに皆も知っていると思い込んでいた。


 「神託を受け、リクシアの名を――」


 ビクスの演説が始まり、それを少しでも聞こうと人の流れが遅くなる。合間を縫って出て行こうにも、なかなか通れる隙間がないので苦戦しながらなんとか進む。


 ようやく出口近くまで到達し、ほっと胸を撫で下ろす。


 「神託を授かったとは言え、元はただの貴族の三男。私の実力に疑問を持つ者も少なくないだろう」


 言い当てられたと言わんばかりに、大聖堂の中が静まり返る。人の動きも完全に止まり、あとほんの少しの距離が進めない。


 「ちょうどそこに、スタンピードの英雄と名高い冒険者がいる。ここは、実力を示すためにも一つ手合わせ願えないだろうか?」


 しっかりと俺の方を見つめて話すビクスのせいで、周りの視線は俺に集まり、もう逃げられない状況になってしまっている。


 嫌な予感がしたが、まさかこういうことになろうとは。なまじスタンピードの英雄の話が広まっているせいで注目度が半端じゃない。

 こんな中戦うなんて公開処刑のようなものだろう。


 「主、頑張って」


 戦いを見たいといった感情がダダ漏れのアイリーンにも後押しされ、ソフィアもクロードも応援するといった視線を送ってくるので完全に逃げ場がなくなる。


 「あー……分かった。やるよ、やってやる」


 こうなれば後のことなんて知ったこっちゃない。どうせ逃げられないだろうし、俺が悪い状況になるようなことをリーシアが許すわけもないだろう。エステルが俺についてくれれば教会は、りーしあは俺の味方であるはず。


 うん。信じてる。だから、そんな楽しそうな表情で俺を見ないでくれ。

 

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