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まさかの

 俺の話も終わり、静けさが訪れる。

 聞きたいことも聞けたし、もうそろそろ帰ってもいいかなと、リーシアの表情を窺おうとすれば、またリーシアが話し始める。


 「パーティーの女の子とは良い感じなの?」


 は? いきなり話がぶっ飛んだので、むせそうになってしまった。しかも、さっきまでの堅苦しい感じはどこへやら。一気に緩い感じに変わったが、それでも瞳の奥には怖さが残っている。

 ……良い感じって、そういうことだよな?


 「仲間としては良い感じになってきましたが、所詮は仲間としてですよ。今のところそんなことはありません」


 ソフィアもアイリーンも可愛いが、今は何もないしするつもりもない。せめて、どうこうするのなら奴隷から解放してからにしたい。今のままだと、どうしても壁があるような気がしてしまう。

 それに、今までのことを振り返っても、ソフィアは俺のことを少しは意識してくれているかもしれないが、アイリーンは無いだろうな。アイリーンは俺を主として認めてはくれているが、良い奴隷主に買われたということであって、男女関係としての感情は無さそうだし。


 「そうなんだ。そういえば、エステリーナには会った?」


 「ええ。先程、腕の怪我を治してもらいました」


 治癒魔法は初めて見たが、あれは冒険者としてやっていくならパーティーに一人いればかなり楽になるだろうな。集中力が必要そうだから戦闘中に使えるかは分からないが、使えなくとも戦闘後に怪我を治せると考えれば少しくらい無茶もできる。

 普通の狩りにしろ迷宮にしろ、途中である程度以上の怪我をすれば帰らざるを得なくなるから怪我をしないように安全に安全を重ねて戦わなければいけない。

 その安全を取るために、どれだけ効率を低くしていることか。ほんの少し踏み込みを深くするだけで、ほんの少しガードを緩めて攻撃機会を増やすだけで戦闘自体も早く終わる。

 回復系のポーションなんかもあるが即効性は無いし、一つ一つが高い。あんな効果のしょぼい物をがばがば使っていたら魔物を狩っても利益がマイナスになるなんてこともあり得そうだ。


 「治癒魔法は良いでしょ。使えるようになるのは大変だけれど、使える人材は重宝されるからね。それに、エステリーナは見た目も身内から見ても悪く無いから、引き抜きだけでなく縁談の話も多く来てるのよね」


 それは仕方ないだろう。冒険者にとってはあのレベルの治癒魔法なんて喉から手が出るほど欲しい人材だろう。そこに容姿も揃っているとなれば、冒険者以外からもアプローチは多くあるだろうし。エステリーナの治癒魔法と容姿があれば、貴族なんかも目を付けてきていてもおかしく無いくらいだ。見た目が悪くないどころか、かなり良い部類に入るだろう。


 「面白みも無いそこらへんの冒険者や貴族には渡すつもりは無いから断ってるけどね。それでも、立候補してくる人は絶えないのよね」


 「可愛いですし、実力もありますからね」


 「もう年齢的にも結婚をしても良いくらいだからね。貴族なんかは特に最近押しが強くなってきている」


 まだまだ若く見えるけれど……そうか。日本と同じように考えたら駄目だよな。結婚適齢期なんて、社会性が違えば全然違ってくる。それこそ、10代前半から働いているような世界なら、10代後半くらいには結婚していてもおかしく無いか。

 貴族なんかだと婚約自体は早めにして関係性を誇示したりすることもありそうだから、必然的に結婚適齢期も若くなっていくだろう。


 「貴方はエステリーナみたいな娘は嫌いかい?」


 「嫌いじゃ無いですよ。むしろ、見た目はかなり好きです。内面は悪く無いとは思いますが、まだ少し話しただけなのでなんとも言えないですが」


 見た目や雰囲気は、俺の好みに合っている。内面に関しては、完全に合わないなんてことは無さそうだけど、人間些細なことで拗れることも珍しく無い。


 まあ、チャンスなんて無いだろうけど、もしチャンスがあるなら立候補してみたいくらいだ。女性の扱いなんて分からないし、その後上手くやれる自信も無いけれど。


 「あれだけ可愛ければ、チャンスがあれば僕も立候補したいくらいですよ」


 「本当に? 容姿や治癒魔法に関しては良いかもしれないけれど、家事とかはそこまで出来ないわよ」


 「そこらへんは追々なんとかなりますし、最悪出来なくともどうにかできるので大丈夫だと思いますけど」


 俺も家事なんて出来ないけど、親が死んでから一人で生きてこれたし。日本とじゃ便利さが全然違うけれど、この世界だと家事をしてくれる人を雇うのは日本よりも簡単だから家政婦的な人を雇えばいいだけだ。


 「それもそうね。だったら決まりね」


 「え?」


 一瞬の静寂が訪れ、リーシアがにやっと笑う。


 「エステリーナのことよろしくね」


 「え? ええ!? 本当に!?」


 「貴方なら大切にしてくれそうだもの。私の娘のことよろしくね」


 む、娘? リーシアとエステリーナって親子なのか。似ているとは思っていたけど、リーシアも十分若く見えるから見た目だけなら姉妹のような。


 って、そんなことどうでもいい。本当にエステリーナと?

 嬉しく無いことは無いけど……そうか! 冒険者の仲間としてか。


 「とりあえずは婚約からでいいかしら」


 逃げ場なし。

 ……まあ、うん。悪くは無い話だし。元の世界では結婚なんて出来ないと思っていたし、この世界に来てからも出来ればいいな程度にしか思っていなかったのが、あれだけの優良物件を押し売りされたのだ。それも俺のデメリットとしては教会と繋がりを持ってしまうというだけ。

 もしかしたら、エステリーナにアプローチしていた貴族なんかがいちゃもんつけてくるかもしれないが、バックに教会がいればそこまで強くは踏み込んでこないだろう。


 うん。大丈夫。悪い話じゃない。きっと大丈夫。





 半ば諦めモードのまま、適当に相槌を打っていれば話は終わり部屋を後にする。

 俺がこのタイミングで帰ることが分かっていたかのように、デイリドがやってくる。


 「話は終わったようだな」


 俺の顔をじっくりと見つめてくるデイリド。少し気持ち悪くて一歩下がろうとしたところで、笑みを浮かべる。


 「うん。エステリーナをよろしく頼む。君なら問題ないだろうからな」


 「え、あ、はい」


 何故分かった……そういえば、デイリドはエステリーナのことを孫と言っていたような。


 こいつもグルか。

 もとから俺とエステリーナを婚約させるつもりだったということか。そのために、わざわざ治療という名目で俺とエステリーナを引き合わせたということか。


 「エステリーナも満更でもない様子だったから、期待しておるよ」


 しっかりと本人には伝え済みだと。

 用意周到すぎやしませんかね。俺にそこまでの価値なんてねーぞ。


 「ええ。婚約したからには、大切にさせてもらいます」


 だって、おざなりにしたらバックが怖いもの。教会を敵に回す状況なんて考えたくもない。


 というか、デイリドの娘がリーシアで、その娘がエステリーナか。世の中恐ろしいな。

 三人とも別々の能力を持っているからやり辛い。本当に敵に回したくない一家だな。


 ああ、本当にやってられない。

 なんでこんなに俺が望んだわけでも無いのに、どんどんしがらみが増えていくのだろう。


 幸いなのは、悪いしがらみが少ないことと、意外と楽しいと思えていることか。

 俺は楽に楽しんで生きていたいのに。

 第二部前半もこれで終わりです。

 ここまで読んでくださりありがとうございます。閲覧数やブクマ、評価等々いつも励みにさせてもらってます。

 現在、エブリスタの書き溜めも残り4~5万字しかなく第二部後半が終わるあたりに追い付きそうな進行状況です。第三部以降は執筆速度も落ちるかと思いますが、追い付くまではできるだけ更新していこうと思います。

 これからも暇つぶしがてらに読んでいただければ幸いです。

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