リーシア
「さて、食事も終えたのでゆっくり話ましょう。私も貴方と話をしてみたかったのと、今貴方は分からないことが沢山あるでしょう。気になることは聞いてくだされば、私の分かる範囲で答えます」
分からないことが沢山あるのはその通りだが、その原因でもある人自身に言われるとは。
どこまで本当の事を答えてくれるかは分からないが、折角の機会だから聞いておかないとな。
「じゃあ、遠慮なく。まずは神託の神子がどういう存在なのかからお願いします」
「世間的には神託の神子は、神の声が聞ける者という存在です。実際のところは直接声は聞けませんが、神からのメッセージは頂いています」
声という形では無いが、実際に神託はあるということか。どういう形で神託があるのかは分からないが、それはどうでもいい。重要なのは神託の存在でしかないからな。
さっきの料理からして神託が実在するのは本当だとは思っていたから、これは嘘ではないだろう。 もっと制限とかの何かはあるだろうが、俺がそれを知る必要もない。
何分くらい経っただろうか。俺の質問に一つずつ答えてくれる。隠していることもあるかもしれないが嘘は言っていないようだ。少しずつだが、リーシアを疑う気持ちが俺の中で薄れていく。
知りすぎているのだ。俺の情報を集めただけでは分からない内容まで知っている。信じないわけにはいかない。だが、信じるのはいいが妄信してはいけない。
ここまでの質問で神託の神子の存在が確かであることと、この世界の神というのが遊びながら世界を管理していることが分かった。
遊びながら管理というのは語弊があるかもしれない。正確に言うなら、基本的に放置で世界の変化を楽しんでいるというのが正しいだろう。その中で神託の神子を通じて情報を与えて人間が絶滅しないようにしたり、この国が気に入っているのか助けたりしているようだ。
「じゃあ、最後に。リクシアって何者だ?」
神託の神子の存在は分かった現状、最も気になる存在であるリクシアについて尋ねる。あいつは神に選ばれたと言っていたから、それならリーシアが知っていてもおかしくはない。
「彼ですか。どうせ、ちょっかいをかけに貴方の元に現れたのでしょう」
溜め息を吐き、何をやっているんだかと言いたげな表情を浮かべる。俺に対する態度とは随分違うが、リクシアと何かあったのだろうか。
「彼は神に選ばれた英雄候補です。そのせいで優遇され、鼻に掛けるような性格になってしまったのが残念ですが」
「はは……」
何とも辛辣な言い様だが、神託を告げた身としてというのもあるのだろう。
「元々、神託は無かったのですが、貴方が現れるということで神託が告げられました。ビクス・リクシア・ファリン、彼の今の名前です。本来、神託は生まれた時に告げられることが大半なので、神託の神子が自身か大司教の名前を捩り名を授けますが、今回は元の名前があったのでミドルネームという形になりましたが、彼は選ばれたことを誇りに思っているからかリクシアと名乗っているんですよね」
ビクス・ファリンね。俺がこの世界に来ることになったからと言うことは、どの段階で神が俺を選んだのか分からないが早くても数年内ってとこだろう。
それで初対面の奴にリクシアと名乗るくらいだから、選ばれたことで調子に乗っているのは間違いないかもしれないな。
「彼は貴方が自由に生きるための影なので気にしなくて大丈夫です。英雄として生きたければ彼に邪魔だと告げれば良いですし、英雄になりたくなければ彼に任せておけば大丈夫です。貴方の道は苦難はあろうとも貴方の望む道を歩めるはずです」
俺の望む道ね。できればそっと暮らしたいというのが望みだとすれば、今はそれに辿り着くまでの苦難の時期ということか。
スタンピードと盗賊との戦いは、本気で死ぬかと思ったから苦難ももうちょっと楽なものにしてほしい。
今のところ予定されている苦難は、教会の呼び出しと王からの呼び出し。教会の呼び出しは何とか終わりそうだし、王からの呼び出しも何とか終わると信じよう。
俺が黙り込み質問してこないのを確認してリーシアがにっこりと笑みを浮かべる。
「さて、質問はもういいのですか? それなら少しお話しませんか?」
神託の神子としての凜とした姿から、普通の女性へと雰囲気を一転させてリーシアが尋ねてくる。
断る理由も面倒なのと怖いからという理由しか思いつかないので承諾する。意気揚々とリーシアは奥の部屋に行き、紅茶を持って戻ってくる。
「私のことは別に敬う必要も無いですからね。神託の神子と神に選ばれた者。どちらが偉いかと言われれば微妙なところでしょう」
それはそうだが、成し遂げてきたことと、単純な年齢差からしても対等以上に見てしまうのは仕方ない。
何とも微妙な態度しかとれないまま、リーシアの話を聞く。他愛の無い話から、教会や国の内情などこんな場所で話す内容では無いことまで話してくるので、頭の中を整理するのに必死で愛想笑いを連発しながら聞くのに徹底した。
何とも微妙な態度しかとれないまま、リーシアの話を聞く。
鬱憤を晴らすかのように話し続けたリーシアの勢いも止まり、今度は俺のこの世界に来てからの出来事を話す。
話しながら振り返れば、やっぱりスタンピードの時とこの前の盗賊戦はかなりやばかったなと痛感する。どちらも負け……死んでいてもおかしくなかった。これも苦難に入るのだとすれば、もうそろそろ苦難は終わってもいいんじゃないですか?




