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教会

 「すいません。お待たせ致しました。案内しますのでついて来て下さい」


 五分も経たずに戻ってきたルークの後に着いて教会の中へと入っていく。奥へ奥へと進んでいけばどんどん人が減っていき、たまに廊下を歩いている人もルークと同じ聖騎士なのか良い装備を着けた奴か、教会の人間であろう服装の奴ばかりだ。

 場違いすぎて居心地が悪いので、ルークの後ろを離れないように着いて行く。中心に立てられた大聖堂を守るように建てられた周囲の建物だけでも、ぺネムくらいの町ならばすべて収容できそうだなほどだ。


 「この部屋と隣の部屋をお使いください。地図に載っている場所なら自由に使ってもらって大丈夫ですが、載っていない奥の方は許可が必要になりますので勝手には行かないで下さい」


 さっき言っていたダンジョンとか、ここに来る途中に見えた奥の建物とかのことか。探検したいなんて思っても無いから、言われなくても行くつもりは無いが、間違っても行かないように気をつけておこう。

 下手にダンジョンなんかに潜って、依頼でもされたら面倒なことこの上ない。アイリーンあたりが勝手に行かないように後で釘を刺しておこう。


 「部屋の中の物は自由に使って下さい。足りない物や用があれば、下の階に受付がいるので声をかけてください」


 「分かった。何かあれば声をかけさせてもらう」


 「では、ごゆっくりと。失礼します」


 「案内ありがとう」


 去っていくルークを見送り、二部屋用意してくれたので、また男女で別れて部屋に入る。ドアを開けて中に入れば、アトルバの家に泊まった時の部屋よりは劣るが、それでも十分な広さと物がある。

 部屋の中に更にドアが二ヶ所あるので、何かと思い中を覗く。部屋だと思って中を見れば、トイレとシャワーの様な物がそれぞれ設置されていた。


 「……ここだけ文明レベルが違いすぎるだろ」


 トイレもシャワーもこんなしっかりした物はこの世界で見たことが無い。トイレなんて汲み取り式があれば良い方だし、シャワーなんて穴の空いたバケツの中に水が入れられているのがあったくらいだ。

 トイレは筒みたいな形の真っ直ぐな形状だが、汲み取り式で無さそうなだけましだし、シャワーは魔石によって水を出しているだけのようなので水しか出ない欠陥品だが、それでも無いよりは断然良い。


 やばい。こんな所に泊まってたら、せっかく慣れてきた宿屋暮らしや野宿なんて耐えられなくなりそうだ。


 「ちょっと疲れたから休憩する。一時間くらいしたら教会の中の施設でも見に行くから、三人とも自由にしといていいと向こうの二人にも伝えておいてくれ」


 「分かりました。何時頃にお戻りになられますか?」


 「俺は二時間もしないうちに戻ると思うが、三人は夕飯までに戻ってくれればいいから四時間以内に戻ってきてくれればいいよ」


 クロードにお金を渡して三人で分けるように告げてベッドへと向かう。ちょっとゆっくりしたい。楽しいから耐えれてはいるが、流石に野営ばかりは少しずつ疲れが溜まる。

 転移さえ使えるようになれば、寝るときだけでも戻ることはできるから楽になるだろう。詠唱の載っている本を探し、早く使えるようにならないとな。






 横になりながらどうでもいい考え事をしていると、次第に意識が薄れていく。いつの間にか眠っていたようで、気がつけば枕元に紙が置かれていた。


 「三人は図書館に行ってるのか。ソフィアとクロードは分からなくもないが、アイリーンが図書館に行くのは想像できないな」


 図書館にいるので何かあれば呼んでくださいと書かれた紙をゴミ箱に捨て、部屋を後にする。転移の詠唱が書かれた本を探さないといけないが、今日はゆっくりさせてもらおう。適当に教会の中でも見て、時間を潰すか。


 改めて地図を見れば、その多すぎる施設の数にどこから見て回るか迷ってしまう。

 適当に歩いているだけでもいいな。何かを見るわけでもなく、見ているだけでも楽しめそうだ。小さなものから大きなものまで、他では見たことのない発展したものがちらほら見かけられる。


 魔石がふんだんに使えるからこそというのもあるが、魔石を組み合わせることでここまで便利になるのか。地球の科学とはまた違う、この世界に合わせた発展というのは見ていて楽しい。

 どうせ、俺みたいな一般人が持っている程度の知識では、地球の技術を一から組み立てるのは無理だ。だが、こちらの発展した技術に、地球の技術の一部を混ぜて改善改良することはできるかもしれない。そうでなくとも、少しでも便利な暮らしのために、ここの技術は見ておかないと。


 商業区画は教会内とは言え賑やかだ。どういった基準で出店許可がもらえるのかは分からないが、どの店も取り扱っている商品は悪くない。店員も商売っ気のある人ばかりなので、外とは違い店を厳選せずとも最初から選ばれた店しかない。

 野菜を適当に買ったところで、食堂もあるからご飯のことは考えなくても良かったことに気付く。まあ、ストレージに入れていたら今のところ傷んだりしたことはないから入れておけばいいか。


 気になったものを買いながら歩けば時間はどんどん過ぎていく。一時間なんてあっという間に過ぎたので、部屋に戻るか図書館に皆を探しに行くか迷う。

 図書館を見てみたい気もするが、俺が行くと三人が俺のことを気にしてしまうかもしれない。どうせ時間はあるだろうから、今日はやめておいて、また時間のある時にゆっくりと見させてもらうか。


 部屋に戻る前に大聖堂とやらを見ていこうと行き先を変更する。

 信仰するつもりはないが、こんな教会なんて無縁だったのでどういう造りなのか気になるのと、この世界に連れてきてもらえたことには感謝しているので少しくらい見させてもらおう。


 流石に夕方の何もない時間には人も少なく、大聖堂へと向かうに連れて人は減っていく。周囲の建物の音も大聖堂には届かないように造られているのか、扉の前に立つ頃には風の音と微かな話し声が聞こえるくらいだ。


 ギギッと音を立てる扉を押し開ければ、視界に見上げるほどの像と奇妙な紋章が入ってくる。


 扉が閉まれば、静寂が大聖堂内に訪れる。引き込まれるように像と紋章に視線を取られながら、少しずつ奥へと進む。


 「君が転移者か」


 「っーー!?」


 気がつけば何列も並べられた椅子の中のちょうど自分の左隣に人が座っていた。ふいに話しかけられたことで、少し飛び退くかのように後ずさってしまったのが恥ずかしい。


 俺のことを知っている?

 それも異世界から来たということまで知っているとなれば、この世界ではソフィアくらいしかいない。ソフィアが俺の秘密を漏らすわけないだろうし、クロードやアイリーンが気づいていたとしてもあの二人も言わないだろう。


 それに、この男。俺の記憶にはこの男らしき人物は全くいない。教会の人間かもしれないが、こいつの醸し出す雰囲気がそうではないと告げる。


 ストレージから剣を取り出そうと手を腰の方に回す。


 「そんなに警戒しなくて大丈夫だよ。俺は敵じゃない。君と同じく神に選ばれた存在とでも言ったところかな」


 「神に……?」


 勝手に神の仕業だと思ってはいた。人を違う世界へと飛ばす能力。世界に干渉するだけの力。体験したことを考えれば、神くらいの存在でないと不可能なことだと思ってはいたが、そうだと言い切れる根拠は無かった。

 だが、こいつは神だと言い切り、さらに自分が選ばれた存在だと言う。


 何者だ?どうしてここにいる?


 「君はこの世界のことを知らなかったんだったね。ここがフリージアと呼ばれる理由も、教会がこれだけの力を保有している理由も」


 「お前は知っているのか?」


 「この世界では常識だからね。逆に聞かせてくれ。君は、フリージアという名を聞いたことがあったかい?」


 フリージア?この教会、この場所の名前以外では花の名前くらいしか思いつかない。

 こいつが聞いているのは花の名前なんかじゃないだろう。そうだとすれば、思い当たる節などない。


 「知らないのか……よくそれでここまでやってこれたね。運が良かっただけか、それとも君自身の実力か」


 ぶつぶつと呟きながら考えだした男が何を言ってるのか分からない。

 運が良かっただけとか聞こえたが、ここまで二回も死にかけてるんだ。こんな運なら無い方が良かったと言いたい。同じ運の良さなら、博打で大儲けしたり、たまたま見つけた石ころが希少な宝石だったりとかそんなのが良かった。


 どこから吹いたのか分からない風が男の銀髪を舞い上げると、考えるのを止めたのかこちらに向き直ってくる。


 「俺から言ってもいいが、どうせあの人に会えば知ることだろう。説明するのが面倒だから任せることにするよ」


 全く話について行けないが、どうやら男は説明もしてくれないようだ。俺の横を通り過ぎ大聖堂から出ていこうと扉の前まで行った所で振り返る。


 「俺の名前はリクシアだ。また会おうケーマくん」


 リクシアね。覚えておこう。全く何を言っているのか分からなかったが、どうせこの先関わりがあるのだろう。


 ……まじで教会の依頼が終わって、国王に褒美を貰いに行ったら隠居したい。そこまで何事もなく辿り着くのすら至難の技だろうが。

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