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二度目の死闘

 「あれが盗賊のボスってとこか」


 偉そうに斧を担ぐ大柄な男と、その横でナイフを抜く男。大柄な男が状況を確認して、わざとらしく舌打ちをする。


 「討伐隊なんかに手こずりやがって。折角、馬鹿みたいに突撃してきた奴のお陰で、準備して迎え撃てたってのに、押されてるなんて聞いてねえぞ」


 突撃した馬鹿ってのはカーゼンのことか。それで返り討ちに遭っているんだからどうしようない馬鹿なのは否定できないな。


 押されている仲間に怒鳴るボスが、ゆっくりと歩いて向かってくる俺に気づく。じっくりと観察するように俺のことを見たかと思えば、鼻で笑うかのように笑みを浮かべる。


 「強えやつかと思ったが、所詮そこらの冒険者ってとこか」


 装備もそこそこ、体格も決して良くは無い。何か特別がある訳でもないから、そこいらの冒険者ってのは間違いではない。

 だからと言って、簡単にやられる気はないが。

 ステータスを確認しても、力以外では大きな差は無い。スキルにしても斧術スキルがどれだけ戦闘に影響を与えるかは判らないが、無手格闘術のように動きが少し良くなったりする程度だろう。

 一撃にさえ気を付ければ、勝負は分からない。ハイオークと戦い始めた時よりも条件としてはいいだろう。


 ボスに集中していたせいで、隣にいたナイフ使いの存在を忘れていたので、慌てて視線を移せば黒い影を残して姿が消えていた。


 「油断は命取りだ」


 ナイフが視界の端から迫ってくる。回避行動を取ろうと身体強化を発動させる。このタイミングからでも問題なく避けられる。


 「疾風迅雷!」


 後方から聞こえる声。俺の体から出ていく魔力の流れが、普段よりも更に激しくなるのを感じ、ニヤリと笑みが零れる。

 回避に移ろうとしていた体をそのまま前へと進ませる。ナイフが目の前まで迫ってきたところで、相手の体が吹き飛ぶ。


 「助太刀する」


 「良いタイミングだ。アイリーンはあっちのナイフ使いを頼む」


 当たらないということに関しては俺よりもアイリーンの方が得意だろう。だが、素早いナイフ使いを相手にするのは、俺には厳しいからアイリーンに頼む。まだ、斧相手の方が俺としては戦いやすい。


 「分かった。気をつけて」


 「ああ。やられるつもりは無いよ」


 吹き飛ばしたナイフ使いへと駆け出していくアイリーンから、俺の戦うべき相手へと視線を移す。


 「あっちの女の方が強そうだったのに、お前が俺の相手か」


 「お前くらいなら俺一人でもなんとかなるからな」


 勝てるとは言い切れないが、周りに人もいればソフィア達もこちらへ向かっている。すぐに負けさえしなければ、助っ人はすぐに来るから、粘るだけで勝ちみたいなもんだ。


 「言ってくれるじゃねえか! 実力の差ってのを見せてやるぜ!」


 向かってくるボスを相手するためにも剣を抜く。剣を装備した状態では魔闘術のスキルは使えないことは迷宮で確認済みだが、斧相手に魔闘術ありとは言え素手で戦うよりは、剣がある方が戦いやすい。

 それに魔闘術は、オークロードと戦った時ほど上手く扱えない。あの時は無我夢中だったからこそ、不慣れなスキルを無理矢理扱うことができていた。今使っても身体強化よりは良いが、それだけど状況を変えれるだけの力はない。


 身体強化のお陰で、斧の軌道を見ながらでも逸らすくらいの対応ならなんとかできる。半身になって避けながら斧に剣を沿わせることで、体に当たらないようにする。

 空を切る斧を次の動作に移らせるためにボスの動きが止まる。狙える。そう思って剣を振ろうとするが、斧を逸らした時に伝わってきた衝撃で攻撃に移れない。


 次の攻撃を繰り出すボスから、慌てて距離を取ることで対応する。


 「なかなかやるようだな。寄せ集めの有象無象とは違うようだ」


 「生憎、俺は討伐隊のメンバーじゃないんでね。通りすがりの冒険者だ」


 「通りで。イアクト程度の町にいる冒険者とは違うわけだ。それでも、俺に勝てる実力とは言えないが」


 ニヤリと笑みを浮かべて、再び攻撃を仕掛けてくる。同じように剣で僅かに逸らしつつ反撃の機会を待つが、簡単に反撃はさせてくれない。


 「お仲間の方も苦戦しているようだな。あいつの暗影を破るのは難しいから仕方ないだろう。嬢ちゃんの技も速さではかなりのものだが、消耗も激しそうな技だけに魔力が尽きるまでに捉え切れるかな?」


 距離を取りながらアイリーンの方を見れば、攻撃が空を切っている姿が見える。簡単には倒せそうにもないか。

 アイリーンだけなら負けていただろうが、俺の魔力をガリガリ奪っている状況でなら、消耗でやられるのは相手の方だ。俺の魔力は今でも回復速度の方が勝っているから、魔力の問題は無い。


 だが、アイリーンの助太刀はすぐには無理そうだ。相手の使っている技がどんなものか分からないから倒すのには時間がかかりそうだな。さっきからアイリーンの剣は空を切ってばかりで、当たりそうな一撃もない。


 アイリーンなら時間はかかれど倒してくれるだろう。俺のやることは一つ。目の前の男を倒すだけだ。

 剣をぐっと握り直し、今度は俺から攻める。俺の動きに合わせて振り落とされる斧を横に大きく避けたせいで、こちらの攻撃も当たらない。それを二度三度と繰り返すが、簡単に攻撃させてくれるほど、相手も弱くない。


 「どうした? 息が上がってるぞ!」


 動きの止まった俺に襲いかかってくる斧。避けれない程ではない。息が上がっているとは言っても、身体強化を発動している状態ならまだまだ動ける。

 剣を斜めに構えて斧を逸らそうとするが、後ろから聞こえてきた声にそれを中断して距離を大きく取る。


 「すいません。遅くなりました」


 杖を構えてやる気満々のソフィアと、少し息を切らしているクロードが俺の横に並ぶ。クロードも剣を抜きやる気を見せるが、クロードの実力では、あのボス相手に前衛をさせるのは無理だろう。


 「大丈夫だ。ソフィアは俺の援護を頼む。クロードはソフィアを守れ」


 「分かりました」


 「クロード。アイリーンのように動けなくても、ソフィアのように魔法が使えなくても、戦う方法はあるってのを見せてやる。だから、しっかり見ておけ」


 「は、はい!」


 クロードにはもっと成長してほしい。魔力量を抜きにした戦闘力では、アイリーンが一番で、その次がソフィアだろう。俺の魔力というバックアップがあれば、この二人も実力は跳ね上がる。

 だが、近接戦で敵を引きつけながら生き延びることに関してなら、俺が一番だ。距離を取りながら機動力を生かして戦えるのならアイリーンに負けるが、アイリーンは敵の攻撃を受け流したりするのは苦手だ。

 俺が前衛で戦うのは嫌だから、クロードには是非とも俺の代わりに前衛で敵を引きつける役をできるようになって欲しい。


 カッコつけたからにはしっかりとやらないとな。息を大きく吐き出して、ボスを見る。ソフィアから距離を取るためにも、前に出てボスに接近する。


 「仲間が他にもいたか」


 「いないとは言ってないからな。ソフィア達が来る前に俺を倒しきれなかったのがお前の敗因だ」


 斧を捌きながらなんとか隙を突いて攻撃できないか探るが、俺の実力では攻撃を加えられる程の余裕はない。ボスの攻撃の手は少し激しくなっているが、耐えるだけでいいなら大丈夫だ。攻撃はソフィアに任せるしかないな。

 何度も受け流していると、流しきれない衝撃で手が痺れてくる。ソフィアの詠唱が終わりそうなので、斧を後ろに下がることで避ける。斧を構え直すボスの横側に一気に近づき、対応しようと振り下ろす斧を力の乗り切っていない振り下ろし始めで弾く。


 「ファイア!」


 互いに体勢の崩れた状態。崩れ方で言えば、力負けのした俺の方が大きく体勢を崩しているが、ボスの方もソフィアの魔法を避けられる状況ではない。

 直撃は免れるために、必死に体を捻るボスの背中にソフィアの魔法が当たる。火がボスの服の背中部分を焼き落とし、皮膚をも焼く。


 「くっ……痛えじゃねえか! だが、調子に乗るのもここまでだ!」


 倒しきることは流石にできなかったが、ダメージは与えられている。動きにぎこちなさが出るくらいはダメージがあるようだが、斧を大きく上に掲げ何かを唱える。


 魔力が斧に注がれ、斧に紋様が浮かび上がる。その紋様の意味するところは分からないが、嫌な予感がしたので慌てて後ろに飛び退く。


 風を切る音が耳に入ってくる。今までよりも大きく聞こえたその音からして、あの紋様が浮かび上がることにより何かの能力が発動したということだ。

 このまま、無闇に近づくのは危ない。襲ってくる様子は無く、ニヤニヤと笑いながら勝ちが決まったかのように斧を担いでこちらを見据えているので、ソフィア達のもとまで一度下がる。


 「あれはなんだ?」


 「あれは魔法武器ですね。マジックアイテムの武器版です。ケーマ様の持つ剣よりも更に強力な能力を持つ武器です」


 俺の剣は魔石が少し使われているから魔力を注ぐことで変化が現れると教えてもらった。発動の様子からして俺の剣とは比べものにならないから、相当厄介な能力だろう。


 「さっきの一振りで何か分かったか?」


 「確証はありませんが、あの斧に触れないほうが良いと思います」


 「触れるというのは、剣で受け流すのも駄目ということか?」


 「はい。魔法武器で一番ありふれているのは身体強化系のものです。そして、次に多いのが武器の切れ味や耐久力などの何かが上昇するものです」


 振りの速度が変わっていなかったとすれば、武器が強化されている可能性が高いということか。


 斧に触れない。

 対策としては簡単かもしれないが、俺の実力でそれをするのはかなり大変だ。振るわれる斧を必死に飛び退くことで躱し、すぐに体勢を立て直して次の一撃を避ける。なんとか触れないようにと避け続けるが、体力がどんどん奪われていく。


 「随分疲れているが大丈夫か?」


 斧を振るいながらニヤリと笑みを浮かべる。むかつくが実力は本物のようだ。俺だけでなくソフィアの援護もあるというのに倒せないどころかギリギリの戦いをさせられているのは、俺よりも強いということだ。


 「あんたこそ、火傷が痛そうだが大丈夫か?」


 息を整えて言い返す。四発ソフィアの魔法を食らっているのだ。最初の一発以外は斧でガードされているとはいえ、衝撃や熱は伝わっている。体力だけが減っている俺とは違って、ダメージがあるという点では俺たちの方が優勢だと言ってもいいだろう。


 「これくらい屁でもねえよ。そうだ、足元に気をつけな」


 ニヤリと笑みを浮かべ斧の紋様に手を触れる。

 やばい。ぞくっと背筋が震える感覚がしたのですぐに飛び退こうとするが、間に合わない。


 「ーーっ!」


 足元の地面がへこんだことによりバランスが崩れる。転けはしない。だが、大きな隙が生まれてしまった。

 当然のように斧が迫る。避けようにも崩れた体勢からでは避け切ることはできそうにない。

 仕方ない。剣で受け流すしかない。ギリギリで剣を滑り込ませてほんの僅かに軌道を変える。


 「がっーー!」


 剣が弾かれる。斧と触れ合った瞬間に今までとは比べものにならない衝撃が伝わってきた。握っていられなくなった剣が後方に弾き飛ばされ、斧が肩を掠める。


 やばい! 衝撃で体に力が伝わらない。弾かれて崩れた体勢を戻しきれない。


 横振りの斧が俺のガラ空きの胴へと振るわれた。

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