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再び

 帰りも転移陣を使って帰る。今度は魔力が一気に無くなることを知っているから心構えは大丈夫だ。転移陣を使用したらすぐに倒れるようにしゃがむ。そのまま大きく息を吐きだして、力を抜けば魔力はすぐに回復する。


 転移陣のある部屋を抜ければ、騎士達が凄い勢いでこちらを見て固まった。それだけ、この転移陣を使用することの大変さを知っているからだろう。どれだけの魔力量なんだと呟く声が聞こえる。

 そんな騎士達の奥から、行きにもあったここの騎士で一番偉いであろう奴がやってくる。


 「まさか本当に転移陣で行って帰ってくるとはね。噂以上の実力のようだ」


 「そりゃどうも。とは言っても、結構きつかったがな」


 「あれを使って結構きついの一言で済ませれる時点で規格外だよ。あれは普通、五人がかりで動かすものだからね」


 君は20層までの資料しか見なかったから知らないだろうけど。と付け加える。

 おい。そういうのは前もって言っておけよ。渡してきた資料を読むと、五人以上で魔力を流せば、必要魔力が大幅に下がるらしい。それでも、一人当たりの必要魔力量は魔法職でない冒険者にはきつい量だが。


 「うちのパーティーは魔力だけは存分にあるんでな」


 「そのようだな」


 スッと目を細めて、ソフィアを観察するように見つめる。その後に俺を見て、また最初の穏やかな目つきに戻った。

 流石にどちらが魔力の保有者であるかという情報は知られていないみたいだ。ソフィアを見たということは、魔法職であるソフィアが魔力の保有者であると勘違いしてくれているようだし。


 「私の名前はフーレドリヒ。フーレと呼んでくれて構わない。君のことは気に入ったから少しだが、私の方からも力添えしてやろう」


 何のことだか分からないが、こいつ事自体は悪い奴ではなさそうだ。悪意のない貰えるものは貰っておこう。


 「困ったことがあれば頼ってくれてもいい。逆にこちらが助けてもらうことになるかもしれんがな」


 奥の部屋へと戻っていくフーレの言葉に、国の争いなんかに巻き込まれるのは勘弁してくれよと願う。

 冒険者をやっているのは楽しいと思えるようになったが、面倒なことに巻き込まれるくらいならさっさと引退したいものだ。


 ……誰か養ってくれないかな。


 安全に戦うためにも、俺が戦いにあまり参加しないで済むようにするためにも仲間を増やすことはしないといけないな。


 一度ギルドに行き、持ち帰ったアイテムを買い取ってもらう。査定してもらっている間にギルド内にある酒場で軽く食事を取ることにした。


 「やっぱり、もう少しパーティーメンバーを増やす必要がありますね」


 「そうだな。二人だと負担が大きいし、いざという時に対応ができない」


 もし、俺が大ダメージを食らって戦線離脱してしまえば、ソフィアは何も出来ずにやられてしまう。前衛が回復の為に少しの間離脱するか、後ろから回復してくれるようにしないと、この先敵が強くなればやっていけないどろう。


 「ソフィアはどういう仲間が欲しいと思う?」


 「やっぱり、前衛で敵を捌ける人ですかね。回復役がいないので、盾よりかは回避に特化している方がいいかもしれません」


 回復魔法が使える奴は少ないからな。仲間にできるかわからない。そう考えれば、盾役よりは引きつけながら戦える程度の方が良いか。


 「その条件で一度探してみるか。迷宮市には奴隷市もあったしな」


 この前は寄りはしなかったが、奴隷市がやっているのは横を通ったので知っている。新人冒険者を仲間にしてもいいが、ざっと見た感じで良さそうな奴はそんなにいない。


 ソロでやってる奴なんて殆どいないし、周りの奴が付いてくるのは面倒だ。引き抜くってのは、あんまりやりたくないしな。

 査定も終わり、報酬を受け取る。ギルドを後にし、迷宮市へと再び足を運ぶ。


 「今日も人が多いですね」


 人混みはあまり好きではないのか、ソフィアがちょっと嫌そうにしている。

 確かに人が多い。日本の大きな祭りの時みたい歩けないわけではないが、デパートのセール並みかそれ以上の人混みだ。人気な店の前なんかは、人が溢れかえっていて中が見えない。


 自分の手とソフィアの手をちらちらと見て、大きく、ただしソフィアに聞こえないように息を吐き出す。


 「ちょっとの我慢だ。行くぞ」


 「えっ……ちょっと、あの」


 伝わってくるソフィアの体温。恥ずかしくて顔は見れないが、抵抗されないということは、このまま手を繋いでいてもいいのだろうか。

 少し引っ張るような感じで歩いていたが、次第にソフィアが俺の横に、いや少し後ろ気味に並んで歩く。


 奴隷市が行われている区画までの五分程度の時間がかなり長く感じた。




 「奴隷市って、こんな感じなんですね」


 流石に奴隷市には人が溢れかえっているようなことはなく、手を離して横を歩いているソフィアがキョロキョロと店を見ている。


 露天のような形で檻に入れられた奴隷が見える店。一区切りされていて、奴隷を直接外からは見えないようにしている店。一部の奴隷を檻から出して客引きのようなことをさせたり、事務作業をさせている店もあ……る。って、あれはガゼフの店じゃないか。


 驚いて立ち止まりガゼフの店を見ていると、店の前で他の客の書類の確認をしていた女の子が俺を見て中に入っていく。


 あの女の子はガゼフの店でソフィアを買った時にお茶を出してくれた奴隷だ。まだ売れてなかったのか。違うな。ガゼフがわざと売っていないのか。

 あれだけの見た目と器量のある奴隷は上手く使えば、かなりのものになるだろう。それで得る利益を考えれば、彼女を手元に残しておくのも分かる。

 「おや?これはこれは。お久しぶりです、ケーマ様」


 「ガゼフか……あんたも迷宮市に便乗か?」


 人も集まり、冒険者も多いと奴隷も売れるのだろうか。奴隷市用の区画があるくらいだから売れるんだろうが、ガゼフくらいの商人ならばわざわざ来る手間を考えればマイナスになりそうだ。


 「今回はたまたま商売話があったんで、そのついでです。滅多にこういう奴隷市みたいなのには参加しないんですが、近くに来る用事があったので、たまにはいいかなと」


 ガゼフみたいな商人の場合、客との駆け引きが重要だ。こういう回転率が重視される場では、力が発揮しにくい。それでも腕の良い商人は、ある程度の稼ぎは出してくるだろう。


 「話は聞きましたよ。スタンピードを止めたそうですね。大物になるとは思っていましたが、これ程早く名を上げるとは思っていませんでした」


 「たまたまだ。たまたま。あんなの二度と御免だ」


 そのためにも仲間を増やしに来たんだ。ガゼフがいるとは思わなかったが、こいつがいるとなれば良い買い物はできそうだ。


 「ソフィアとも良くやっているようですし、見込み通りでした。スタイン様の目に適った時点で心配はさほどありませんでしたが」


 スタインへの信頼度は何なのだろうか。ペネムの一角でひっそりと道具屋をしていただけの人間に対する評価ではない。

 それに、スタインは俺の渡したノーマルスライムの核を王都で伝手を使って売りに行った。その伝手とはなんだ?あいつもあいつで何かありそうだな。


 「今日は新しい奴隷を探しに来たのですか?」


 ニコッと笑みを作り、先程までとは雰囲気を変える。商人モードってか。腹の探り合いは面倒だ。


 「そうだ。戦力の補充が必要になってきたからな」


 奴隷を出させ金額を提示させるまでは、さっさと話を進める。今回は少しばかり吹っかけられても払える。この前の対応から考えても、スタインの後ろ盾があればそこまで吹っかけられることもないようだし。


 「今日も良い奴隷は用意してますよ。あいにく、エレンは売れてしまいましたが。腕の良い冒険者に30万コル程で」


 30万!?ちょっと吹っかけすぎだろう。その値段で買う相手も相手だが、提示する度胸も並外れたもんじゃない。


 俺の時は13万コルとか言っていたくせに。


 「今日は戦闘のできる奴隷を見せて欲しい。重装備系の奴は除いてくれ」


 「かしこまりました。案内しますので着いてきて下さい」


 店の中へと入っていくガゼフの後に続く。中へと入ればすぐに檻があり、奴隷達が檻の中で薄い布切れの上に座らされている。

 こんな状況のせいで、ペネムの時よりは質が悪く見えるが、周囲にあった外から奴隷が見える店と比べれば、断然清潔で奴隷の顔色も良い。


 「少しお待ち下さい」


 ガゼフが檻の中に入っていき、何人かの名前を呼ぶ。名前を呼ばれた奴隷は俺達のいる方に来て、檻越しに並んでいく。

 また別の檻へ入り声をかけるということを繰り返し、数分も経たずに俺の出した条件に当てはまる奴隷が集まる。

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