新たなスキル
走りながら時間があるので自分のステータスを確認する。ここ最近の狩りのおかげでレベルもかなり上がっており、今ではステータスポイントが14も溜まっている。
ソフィアのレベルアップ速度を考えると、ノーマルスライム叩きをしているとは言え、俺のレベルアップ速度は早い。これも異世界に来た特典のようなものなのだろうか。それとも人によってレベルの上がり方や成長の仕方も違う仕様なのか。どちらにせよ、俺にとってはレベルが上がるのが早ければ、それだけステータスポイントも手に入れることができるので嬉しい。
獲得できるスキル一覧をスクロールさせてお目当のスキルを探す。
今欲しいのは移動速度上昇系のスキルだ。できれば、回避能力上昇もあればさらに良い。
移動速度が速くなれば間合いの確保もしやすくなる。ソフィアが懐に潜り込まれた時に救援に駆けつけるのも速くなる。
金が手に入るまでの間、俺たち二人で狩りを続けるには移動速度は大切だ。さらに、回復がアイテムと俺のHP自動回復のスキルしかないため、回避能力もできれば欲しいんだよな。俺自身の戦闘能力は高くないから、できるだけスキルか仲間で補わなければいけない。そうなると手っ取り早いのは良いスキルを手に入れることだ。仲間は欲しいが、良い仲間に巡り合える可能性なんてそうそうないからな。
馬車まで最初の半分以下の距離になったところで、ようやく俺は視界に一つのスキルを捉えた。
・ステータス上昇スキル
身体強化 2ポイント
「これは使えるな。魔力消費は気にしないで大丈夫だろうから、実質制限無しで全ステータス上昇と言える」
すかさずスキルを獲得し、レベルも一つ上げておく。消費したステータスポイントは合計で4。
身体強化はポイントを使わなくともいつか取れるだろうが、魔力を纏ったりするだけでは取れなかったので、しばらくの戦闘が楽になるという点だけでも十分取った価値はあるはずだ。ステータスポイントの節約も大切かも知れないが、必要なスキルはさっさと取っておきたい。
試しに、馬車まで身体強化を使って走ってみる。使い勝手を知らずに即戦闘なんて自殺行為だからな。
「身体強化。消費魔力毎秒1」
最初だから丁寧に発動する。消費魔力は一分間で60と常人であれば破格の量だが、俺にとっては問題無い。
MP自動回復のスキルは最大MP量に回復速度が依存するようで、MPが400を超えた今では一分間で50もの魔力が回復する。プラマイで言えばマイナスだが、一分間で10ずつしか魔力が減らないなら十分普段の戦闘でも使えるはずだ。
身体強化が発動したのか体が一気に軽くなったように感じる。自分の感覚が全く追い付いていない。空回るように足がもつれ視界が地面を捉える。
ズサッっと無様に地面に倒れこんでしまう。身体強化のおかげなのか、怪我は無かったのが救いというところか。毎秒1の魔力を身体強化に使ってしまうと身体強化による補正が強すぎて感覚が狂ってしまうのか。
うん。最初はもっと身体強化に使う魔力を減らして徐々に慣らしていくか。
始めはさっきの十分の一程度の魔力で身体強化を発動し馬車まで向かう。今度は転ぶこともなく走ることができた。
ただ、まだ慣れていないからか動きに違和感を覚えている。動きに関しては通常時の1.1倍にもなっていないが、体が軽くなった感じのせいで地面を上手く蹴れている気がしない。
結局、馬車に追い付くのにかかった時間は、身体強化を取らずにずっと普通に走った方が早かったと思う。もっと慣れないと魔力の無駄にしかならないな。確かに体は軽く感じているし、力なんかも使っていないときより強くなっていると思う。だが、俺がそれを上手く操れないのであれば意味がない。
何事も少しずつ練習して上達するしかないというわけか。ソフィアだって魔法を新しく覚える時は詠唱を頑張って覚えたりしているもんな。
「ソフィア。こっちは何も無かったか?」
「はい。皆さんも変わりないです」
「そうか。少し試したいことがあるからここは任せる。アルトの方に行っているから何かあれば呼んでくれ」
ソフィアに後ろの警戒を任せ、まずは馬車と並走する。
身体強化に慣れるためにも消費魔力を少しずつ弄りながら走る速度や体の動かし方を調整していく。
「やっぱりぺネムで狩りをしている冒険者は凄いね」
少しずつ速度を上げたことによりアルトの近くまで来ていたようだ。
「まだまだですよ」
ショーンウルフ二匹なんてFランク冒険者でも狩りに何度も出ている冒険者なら狩れるだろう。基本的にショーンウルフは突進と噛みつき、引っ掻きくりしかしてこない上に、ウルフ系の中ではかなりスピードは遅い。力も強くないから、攻撃を食らっても一撃でやられるような相手ではない。
「ソロであれだけの手際で二匹のショーンウルフを狩れるのはDランク冒険者に成りたてでは殆どいないよ」
そうなのか?他の冒険者の実力を知らないからなんとも言えないんだよな。
「狩り専門の冒険者っていうのは大半がチームを作っているからね。ソロで戦うってのはそれだけ難しいんだよ。僕もCランクになってからはソロで戦う訓練もしていたけど、最初は苦労したものだよ」
「そうなんですか。今はチームはどうしているんですか?」
「あー……盾役と回復役の二人が結婚してね。斥候兼アタッカーの僕と魔法使いの二人ではCランク以上の依頼は厳しいから休止中なんだ」
残った二人は俺たちみたいな組み合わせだな。
やっぱり回復役は欲しいな。
回復薬の値段が高いのと、戦闘中に使用するには一度戦闘から離脱しないといけない。ポーション系ならば片手で飲もうと思えば飲めるが、どうしても隙ができてしまうから現実的ではないからな。
今のような狩り方を続けるならば回復役が居なくてもなんとかなるが、魔の森や迷宮に行くのならば連続戦闘や長期戦は逃れられないだろう。
早めになんとかしなければ。
「そろそろ一度休憩を取ろうか。近くに綺麗な水場があるから、そこで休むようにセネディさんに伝えてきてくれないか?」
「了解。俺はそのまま後ろに戻ります」
アルトの元を離れて後ろの馬車を操るセネディに休憩を取ることを伝えて馬車の中に入る。
いつの間にかセトラが眠りから覚め、元気にアンジュさんと外の様子を見ていた。
「ケーマ様。後で少しお話したいことがあります」
「ん?別に今でもいいよ?」
アンジュとセトラは楽しそうに外を見ているし、セネディには大きな声を出さない限り聞こえないだろうし。
「急ぎでは無いので。それとケーマ様の能力に関する話ですので」
俺の能力?
ソフィアが気づくことと言えば魔力譲渡の話かな?それならば聞いておく必要があるな。ソフィアと共に狩りをしていくうえで魔力譲渡は最も無くてはならないものだ。




