新年―3
軽く仮眠を取った後、リーシアを連れて銭湯の魔力回路を見に行く。技術自体は、マリゼがすぐに作れたものだから、リーシアなら見なくても思いつくだろう。問題は魔石の部分になるから、この方法は俺くらいしかできないだろう。
魔力が並以上にある奴を大量に用意すれば代用することもできるが。
「魔力回路はマリゼらしい無駄の多い魔力回路ね」
「ある程度効率的に回ればいいじゃないですか」
「そうね。80点というところね」
俺には何が良くて、何がダメなのかは分からないから口出しはできないが、80点ということは悪くはないということだろう。
マリゼも少し嬉しそうにしているから、上々の評価なようだ。
「でも、これだと結局は魔石が問題になるのよね」
ある程度省エネで使えるようには設計してもらっているが、魔力回路自体は突拍子もないことをしているわけではない。
潤沢な魔力がある前提での魔力回路だから、どれだけ見てもリーシアが望む何かは見つからない。
「問題は力づくで解決するたちなんだよ」
「どういうこと? これを起動させ続ける魔石なんて相当な出費よ」
だからこそ、リーシアに作ってもらった魔石が必要になるんだよ。
魔力回路の中央に置かれた魔石に手を伸ばす。今は魔石の魔力が半分ほど減っているのでちょうど良い。
魔力のコントロールもかなり慣れてきた。魔力を手の先に集めることもスムーズにできるようになったから、全ては慣れだなと思う。
ゆっくりと集めた魔力を魔石へと流す。ぐんぐんと魔石が魔力を吸収するのを確認しながら、流しすぎて溢れないように注意する。
スキル:魔力操作のレベルが2に上がりました
久しぶりに流れたログに少し驚きながらも魔力を流すのは止めない。
一分も経たずに魔石の魔力は満タンになり、そして俺の魔力もそのすぐ後には全回復している。
「これで、魔力は問題ないだろう?」
「そ、そうね。まさかこの魔石を簡単に充填できるとは思わなかったわ」
俺のスキルを知らなかったリーシアとマリゼは呆然としながら魔石を見る。前から知っていたエステルはさすがですと頷いている。
「これが俺のスキルの一つ。バカみたいな魔力の回復速度だ。もともとの魔力量もこれでバカみたいに魔力を使っていたからかなり高いが」
今なら全力を出しても、魔力切れより集中力や疲労の方を気にしないといけないくらいだ。回復速度は魔力量に比例というわけではなく、ある程度で頭打ちが来たから、全力を出せばおそらく消費量の方が多いが、もともとある魔力を考えれば、かなりの時間は戦えるだろう。
「……本当に力づくなのね。まあ、これができるならあの魔石を欲しがるのも納得だわ」
「ああ。だから頼むよ」
「いいわ。私には使えないから、作れたらあげるわよ」
次は何を作るか。作りたい物は色々あるが、他にも必要な材料がいっぱいあるからな。
村の皆に魔法を覚えさせるのも良いかもしれない。魔石一つだけだと、子供達だけでも取り合いになってなかなか進展しないし。
「これなら、マリゼを選んで良かったわ。完璧さや斬新さを求めるよりも、無駄があっても早く様々なものを作れるマリゼには良い環境ね」
「これからも頑張って開発し続けます」
「まあ、無理はしないでくれ。どうせ、作る物は必須ではないから時間もたっぷりある」
早く作ってくれるのは良いが、無理して体を壊されでもしたら、代わりがいないからな。逃げ出されたりしてもダメだから、マリゼに関しては好待遇にしないと。
「私には使えないけれど、考え方は良いわね。もっと効率良くできるか、今の魔石よりも持続力の高い新たなエネルギー源が見つける必要があるわね」
「そうすれば、国全体に普及させることもできるね」
その辺りは俺の管轄ではない。俺は俺の周りだけでも不自由無ければ良い。
新しいエネルギー源ね。魔石を含めた魔力によるエネルギーは、どれだけクリーンなのだろうか。
俺がパッと思いつく分だとガスや石油、電力と言ったところだが、環境汚染なんかを考えるとな。それに、どうやれば効率良く利用できるのかも分からないし。
屋敷へと戻ると、リーシアとマリゼは魔力回路について話をすると言って二人でマリゼの部屋に行った。
エステルと二人でリビングのソファーに座る。普段はそれほど意識をすることは無いが、結婚の話をした後ということもあり、静かな部屋で二人きりで隣りに座ると緊張してしまう。
「村での生活は楽しいか?」
「楽しいですよ。皆がいてくれるので退屈しません」
やっぱり今の状況が一番良いとは思うんだよな。
でも、いつまでもこのままというのがダメなのも分かってる。
周りにかき回されるのも嫌だ。エステルは渡したく無いし、他に変なのを押し付けられても困る。
だったら、先に決めておくというのは悪く無いか。
「な、なあ、エステル」
「はい。お茶でも入れましょうか?」
「い、いや。今はいい」
息を深く吐いて、バクバクとなる鼓動を落ち着かせようとするが、落ち着く気配は無い。
ここで引けば、たぶん次はもっと追い込まれるだろう。一番最初で決めてしまうのが楽なのは分かっている。どうせ落ち着かないなら、吹っ切れ。
「俺と結婚して下さい。今すぐには無理だが……半年後に式を挙げよう」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
赤くなって少し涙を溜めながら笑みを浮かべるエステルの表情は今まで見た中で一番可愛いと思った。
婚約も結婚も周りから押されてという感じになってしまったが、エステルと結婚できたのは単純に嬉しい。
少し恥ずかしくなって窓の外を見ると、ジエノアが魔法でお湯を作っているのが見えた。新たなエネルギーって、魔法を使える人を増やせば必要ないかも。なんて、どうでもいいことを考えて気持ちを落ち着かせる。
いまだに落ち着こうとしない鼓動だが、その高鳴りとともに幸せだと思う気持ちが溢れてくる。




