新年―2
村のことなどの話をしていると、ソフィアがお茶のおかわりと簡単なお菓子を用意してくれたのでありがたく頂く。
「これ、魔力が多いわね」
「この村で採れた作物を使ってるんだ。土地の魔力量が多いみたいで、魔力が少ない奴が食べるにはきついが、俺達にはこのくらいの量だと問題ないから使っているんだ」
リーシアの魔力量は多い方だ。俺と比べると少なすぎるが、エステルよりは多い。
鑑定がバレるといけないからヘレナートやフーレなどには鑑定を使っていないから魔力量は知らないが、そこらの冒険者の魔力量よりはエステルの方が多い。それよりも多いのだから、全てを村産の作物で食事をしなければ、リーシアなら問題ないだろう。
「これだけ魔力が多いなら、近くに迷宮があるかもね」
迷宮か。あったら素材も取れて便利だが、魔物が溢れて来たら大変だから困るな。
「心配する必要は無いわ。これだけ放置されて氾濫が起こってないのなら、迷宮があったとしても魔物の数は殆どいないか、周りの魔物に狩られる程度の魔物しか生み出せない迷宮だわ」
「それならいいか。余裕ができたらしっかりと森を探索することにするよ」
「ええ。もしあれば、悪くても小遣い稼ぎ程度にはなるわ」
雑魚しか湧かない迷宮だと、冒険者を呼ぶには弱いな。かかる金と得られる金を考えると、今は放置でいいだろう。
使える魔石が取れるならいいが、屑みたいな魔石と魔物の素材だけの場合は殆ど金にならないからな。
屑みたいな魔石なら、俺のモンスター作成でちまちまと魔石を集めている方が元手もかからない。最近は適当にしていたから魔石もあまり溜まっていないが、手元にある分だけでま前にスタインに売ってもらった魔石よりは大きな物が作れる。
そこまで金に困っていないのと、大きな魔石は使い道が多いから消費しているのもあるから、今は売る気は無いが。
「それで、どうなの?」
「は?」
いきなり尋ねられても何の事か分からない。素で聞き返してしまったので、お茶を飲んで濁す。
「結婚式よ。二人の仲も問題なさそうだから、いつまでも婚約で終わらしておく必要も無いじゃない」
「ぶっ! ……いや、まだ村もバタバタしてるし」
「もう大丈夫だと思うけれど? どうせ、今後も仕事は山積みだろうから変わらないわ」
「ぐっ……」
そりゃあ、ここまで来たなら、後は目の前の問題をこなしていけば村は発展するだろう。そして、問題というのは絶えず何かしらある。
だが、いざ結婚となると心構えが。この世界に来るまでこんなことを考えることも無かったし、まだ先のことだと思ってた。
「エステルも結婚するのは問題ないでしょ?」
「は、はい。迷惑にならないなら……け、結婚したいです」
恥ずかしそうに応えるエステルを見て可愛いなと現実逃避する。
……いや、これもう逃げ場無いんじゃないか?
結婚式の時期までは決めること無く済んだが、ここまで言われれば先延ばしするのも無理だろう。
疲れた。ぐったりと自分の部屋で椅子に深く腰掛けながら天井を見上げる。
結婚か。エステルと結婚できるのは嬉しいが、最後の一歩を踏み出すのに躊躇してしまう。エステルと結婚して、今の皆との関係は変わらずいられるのだろうか。
クロードは変わらず俺の指示に従ってくれるだろう。アイリーンも変わらずダラダラとしているだけだろうが、ソフィアがな。
俺としても、この世界で一番長く一緒にいたソフィアが、一番一緒にいて落ち着く。ソフィアはエステルがいると少し引くところがあるから、結婚した後は今まで通り俺のために働いてくれても、今までより一緒にいる時間は減るだろうな。
「結婚ねえ……」
「結婚くらいさっさとしちゃえばいいのに」
「うわぁ!」
誰もいないと思って呟いた言葉に、アイリーンが応えた。いるとは思っていなかったので、驚いて椅子から落ちそうになった。
「簡単に言うが、色々あるんだよ」
「でも、どうせいつかは結婚するんだから、問題を先延ばしにしているだけじゃん」
「ぐっ……」
そうなんだが、それでも今踏ん切りをつける勇気が無いんだよ。
「それか、逃げる? しがらみから逃げれば楽だよ」
逃げれば楽だろう。こんなに頑張って村のことを考える必要も無くなるのだ。
でも、俺を頼りにしてくれている奴もいる。俺について来てくれている奴がいる。だから、全てを放り出して逃げるにしても、この村が俺抜きでも問題なく回る様になってからだ。
「逃げはしないよ。もう少し悩んだら踏み出すさ」
「残念。逃避行って意外と面白そうだと思ったんだけど」
アイリーンのことだから本気で言ってそうで反応に困る。
ストレージと転移があれば逃避行もそれほどきつくは無いだろうから、皆で行けば楽しいかもしれないが。
「悩まなくても両方手に入れればいいだけなのに」
「両方?」
自由と今の環境?リーシアやフーレがいる限り、自由を手に入れるのはなかなか難しそうだが。あの二人を完全に出し抜けるだけの何かを、俺は持っちゃいない。
敵にすれば最悪だし、味方にしても完全に気は抜けないから困ってるんだよな。
「鈍感な主は悩めばいい」
鈍感って何だよ。
言うだけ言ってアイリーンは部屋から出て行ったので、閉められたドアを見つめる。
アイリーンの言葉に隠された何かに気づかなかった?いや、アイリーンの言葉は裏のない思ったことを口にしたようなものだから隠されたものなんて無いだろう。
あー……わからん。こういう時は何も考えずに寝るのが一番だ。




