年末―4
無事にと言っていいのか分からないが、収穫祭擬きもなんとかなったので、今回の余った作物は俺が全て引き受けることにした。
自分で食べつつ、子供達が魔法の練習で魔力が減った時にたまに食べさせることで消費している。
「りょーしゅ様」
「どうした?」
何やら得意げな表情で近づいてくるので、少しイタズラを警戒しながら隣に座らせる。
見ててと言われたので、ジエノアが伸ばした手の先を見ていると、丸と呼ぶには少し歪な形だが、形のある水の塊が宙に現れた。
「魔法使えるようになった!」
「すごいな。もう使えるようになったのか」
胸を張ってこちらを見てくるので、頭を撫でてやると嬉しそうにする。
いや、それにしても早いな。全く使えなかったのに、数ヶ月でここまでできるようになるとは。クロードの時は、それこそ毎日何時間も練習していたのに。しかも、魔力譲渡で魔力を感じるというドーピング的な練習方法を使ってだ。
ジエノアのセンスが良かったのか、この魔石が良かったのか、それとま他要員があるのか。
この土地自体が魔力を多く含んでいることが、この間の事件で分かったから、それも影響しているのかもしれないな。
「この間の野菜を食べた時から、魔力が使いやすくなったの!」
ああ、あれで魔力の感覚を掴んだのか。
良かったなサプラ。こんなところでもお前の育てた作物が役に立っていたぞ。
量さえ見極めれば、使い道は十分にあるのか。おやつに使ったり、食事の一品に少し混ぜるくらいにしておけば、疲労回復、魔力増大と胡散臭い栄養ドリンクみたいなキャッチコピーを付けれるな。
「このまま練習を続ければ、ソフィアみたいに魔法をバンバン使えるようになるかもな」
「がんばる!」
ソフィアがそんなに魔法を使えないとジエノアにバレないように訴えてくるが、それは無視する。
目標ってのは大きい方が良いからな。ソフィアには皆の目標になってもらおう。魔法の扱いに関してはソフィアが一番上手いからな。俺は肉体強化系と転移魔法しか使えないし。
「灯の方の魔力回路の設置も終わったよ」
マリゼが寒かったと暖炉に向かう。
ここ数日で一気に寒くなってきたから暖炉をつけてはいるが、基本的に屋敷の中にいる俺にとっては要らないかなと思うくらいだ。まあ、上着を着なくて済むし、魔石も薪も十分にあるからつけているのは良いんだが。
「お疲れ様。寒い中ありがとう」
「まあ、私は問題無いか見ていただけだからね」
実際に働いていたのはクロードとスタインだ。二人はこのまま時間になるまで待って、魔力回路を起動させてから戻ってくるのだろう。
別に急がなくても良いと言ったのだがな。
朝からいきなり、そろそろ少しはできているだろうとスタインが迷宮都市に行くと言い出し、迷宮都市に転移で向かった。
一度会っただけ。しかも客として少し話しただけの俺のことを、ダイツは覚えていたらしく会うなり絡んできた。
まだ一週間ほどしか経っていないのに、ある程度の数を用意していたダイツに礼と酒代として一万コルほど渡せば、上機嫌にまた作っておくと言われた。
そして、スタインに促されて村に帰ると、すかさず設置にとりかかった。
もう年末だと言うのに頑張るよなと、俺はゆっくりしていたのだが、本当に今ある分を全て設置してきたらしい。
付き合わされたマリゼが愚痴るのを苦笑いで流す。本当に皆働くのが好きだよな。
日が暮れはじめる。
俺の視界上に表示された時計は、まだ17時を過ぎたところだ。日が沈むのが早くなると、冬って感じがするな。魔石ランプを点けようと立ち上がると、マリゼに押し戻された。
「何のために急いで終わらしたと思ってるのよ」
その言葉とともに部屋が明るくなる。
魔石ランプが触ってもいないのに明かりをともす。よく見ると、魔石ランプ自体が今までの物とは違い、いつの間にかこの部屋……いや、屋敷中が変えられていたようだ。
「どう? とりあえず屋敷にも魔力回路を組み込んでみた。ちゃんと個別で切ることもできるし、自動では点かないようにしたから安心してね」
「すごいな。いつの間にこんなことしていたんだ?」
屋敷全域に魔力回路を仕込むだけでもかなり大変だろう。材料は今日届いたばかりなのだから、この短時間でやろうと思えば他の全ての準備を事前に終わらせておくくらいじゃないと無理だろう。
「私が設置案を考えてくれと言われたのは、領主さんに魔力回路の設計を見せた後すぐだね」
ということは、ほぼ最初から計画されていたということか。
いつの間に計画を立てて、費用や時間の調節をしていたのやら。
「魔力の供給源は、あの魔石に頼っているから、定期的に魔力の補充は忘れないでね。今の使用量なら半月から一ヶ月は大丈夫だろうけれど、ここから街道まで伸ばすと一週間に一度は補充しておいた方がいいね」
あの魔石がもっとあればな。
魔石って言うと、普通の魔石とややこしいから何か名前が欲しいな。今度、リーシアにでも聞いてみるか。
「あー寒かった。どうだ? 驚いたか?」
「お疲れ様。驚いたよ。まさか、ここまで進めていたなんて」
「ま、このくらいは余裕さ。村の皆も手伝ってくれたからな」
スタインとクロードに暖かい飲み物をディナが持ってきてくれたので、そのまま皆で寛ぐ。
皆、自分の仕事もあるのに、色々やってくれて本当に助かるな。
窓の外も今までと違い、暗くても周りが見えるほどには明るさがある。
これで、夜でも外を見に行くことができるし、暗くなってから風呂に入ることもできる。
「皆、お前に感謝してたよ」
何事だとスタインを見ると、分かって無いなと言わんばかりに呆れた様子をする。
「この村ができてから半年も経っていないが、安定した生活ができて喜んでいるんだよ」
「安定って言っても、まだバタバタしているし、問題は山積みだ」
やらないといけないことはまだまだある。考えれば考えるほど、完成は程遠いと思ってしまう。完全に軌道にのるまで、あと何年かかることやら。
「昔からある他の村だって、問題は山積みなところばかりさ。不作の年が一度あれば、村の存亡に関わるのは普通だ」
そうですねとソフィアが肯定する。
ソフィアは食い扶持を減らすために売られたんだったな。そのおかげで出会えたようなものだが、思うところはあるだろう。
「あまり悩まず、来年も同じように頑張ればいいんだよ。ここにいる俺達はお前についていくことを決めたんだから」
「はいはーい。私達もいるわよ。凄いわね。村全体を明るくするだけの魔道具と魔力回路を用意するなんてさすがだわ」
「これで、夜間の見回りも楽になったよ」
ヘレナートやルーク達もやってきて一気に部屋の人口密度が高くなる。
「今年……と言っても、ほとんどの奴らは会ってから半年も経ってないが、皆のおかげで助かったよ。来年も力を貸してくれ」
主に、俺が楽できるように。
そのまま、皆で話しながら年を越す。俺にとっては今までで一番楽しい年越しだった。まだ、会ってそれほど時間は経っていないが、長年一緒にいたような信頼感がある。
やっぱり仲間っていうのは大切だな。




