年末―3
かなり急いだのか、出発から17日が経ったところでスタインから連絡があった。無事に勧誘に成功し迷宮都市で作業をし始めたらしい。
連絡が来たのが夜遅かったのと急ぎの旅の跡で疲れているのもあるだろうから、その時には挨拶しに行かずにスタインを村に連れ帰ることになった。
「この村も随分と落ち着いたな」
「ああ、皆のおかげだ。あとは、村から売れる物さえ作れればな」
スタインとともに村の中を見て回る。騒がしくいたる所で工事が行われていた少し前から考えると、だいたい必要なものは出来上がり静かになった。
村の中心付近からは、また違った騒がしさが今日は聞こえてくるが。
「用意ができたので、そろそろ始めましょう」
クロードが俺達を呼びに来てくれたので、騒ぎの方へと向かう。
真昼間から酒を片手に話している男達。そして、中心では採れた作物が生だったり調理されたりと様々な形で用意されている。最初は余り濃い味付けにはせず、素材の味が分かるようにしてもらっているが、食材によってはしっかり調理するのが前提のものもあるからな。
収穫も全て終わり、下準備も整ったので、ようやく収穫した作物の試食会という名の宴会が始まる。
料理もできず、手が余った男達は既に酒を飲んでいて少し出来上がっているやつもいるが、今日はこれまでの慰労も兼ねているからとやかく言うことはしない。
「酒を飲んでも話をしながらでも何でもいい。ゆっくり気を抜きながら、今回収穫できたこいつらを皆で食べよう。ただし味の保証はできないが」
切り分けられれば普通の食材だが、元は普通の数倍大きく育っていたからな。味も本来の味と同じかどうかは分からない。
エステルが持ってきてくれた皿を受け取り、俺が最初の一口を食べる。それに続いて皆も食べ始めたが、俺を含めてほとんどの奴が、一口食べたところで固まる。
「う、美味い!」
誰かが言った瞬間に、一気に騒がしくなる。
確かに美味い。味が濃いのだ。それも、苦みや青臭さは普通と変わらず、美味しい部分だけが凝縮されたような感じだ。
最初は恐る恐る口に運んだが、二口目からはどんどん進んでいく。
まさかあの見た目でこんな結果になるとは。やっぱり、農業って分からないな。
「良かったなサプラ。これなら、来年からはどんどん育てられる」
「は、はい。頑張って育てた甲斐があります」
あとは、どれだけ土の管理ができるかが問題か。まあ、その辺りは経験者に任せるしか無いだろう。俺ができるのは肥料になる物を仕入れてくるくらいだ。
今度はスタインのもとへ向かうと、スタインは何やら難しい顔をしている。
何か問題でもあったのだろうか。
「いや、ちょっとな。味は良いのだが、何か変な感覚があって」
「変な感覚?」
「気のせいかもしれないが、内側から熱を持つような感じがするんだ」
「俺には分からないな。何か発汗作用のあるものでも入っていたのだろうか」
「俺の気のせいかもしれない。味は良いからこれなら売りにも出せそうだな」
スタインのお眼鏡にも叶ったようだ。これで懸念材料の一つが無くなった。
本当にここまで順調に進んできているな。
一時間くらい経つと、様子がおかしくなってきた。
酒を飲んでいた奴らは仕方ないが、酒を飲んでいない奴や子供まで酔っ払ってダウンしてしまったかのように眠ったり倒れているのが増えてきた。子供の方がまだ元気そうな奴は多いが。
「どうなってるんだ?」
まさか、毒?
いや、毒にしては症状も変だし、体の小さな子供や量を食べている奴らが先に倒れるはずだ。
それに、俺を含めて何人かは問題無さそうにしている。
そういや、俺は状態異常耐性のスキルを持ってたか。でも、ソフィアもエステルもクロードもアイリーンもそんなスキルは持っていなかった。
何が原因だ?
俺としては、むしろ元気になっている気がするくらいなんだが。
「これは、魔力酔いね」
「魔力酔い?」
ヘレナートも平気そうな表情だ。奥にいるイコア達は少し酔っている感じがするが。
「大量の魔力を外から取ると、魔力に酔ってしまうことがあるの。今日の食事に使われていた食材に含まれている魔力が、普通の数倍……いや、もっと多いわ」
「魔力ね……症状の出ている奴と出ていない奴の差は何なんだ?」
魔力が原因だとして、こうも人によって違いが出てくるのか?
「その人の魔力の保有量や使い慣れているかによって差がでるわ。この食材だと、薄めの魔力回復ポーションを飲んでいるのと同じ感じね」
そういや、魔力回復ポーションも使いすぎると魔力酔いを起こすとか買った時に言っていた気もするな。
「貴方の仲間は優秀なようね」
「そうみたいだな」
魔力の使用量は段違いに多いからな。魔力譲渡による回復で魔力が外から入ってくることにも慣れているのかもしれないし、村づくりが始まってからはカモフラージュを含め魔力回復ポーションを使う機会が多かったのもある。
ヘレナートも大丈夫だということは、魔力の扱いには慣れているのだろう。逆にイコア達はそれほど慣れていないと。
「軽い魔力酔いだから、放っておいたら大丈夫よ。このくらいなら時間が経てば過剰分の魔力が体から出ていけば治るわ」
「それなら良かった。寒い外にこのまま放置しているのは悪いから無事な奴らで家に連れて行くか、何か被せるものでも持ってこようか」
クロードとソフィアがまだ大丈夫そうな人に声をかけて連れて行く。
結構、量を食べていたジエノアも元気そうだ。魔法の練習をしていた効果があったのかな。
「食材の方は、使えそうにないか」
「使えないわけではないわよ。私達のように魔力の扱いに慣れている人は少しなら問題ないし、魔力を使った後にはむしろ良いわ」
ポーションほどきつくもなく、食事として栄養も取れるのか。
それに、俺ならかなりの量を食べても大丈夫かもしれない。魔力の急激な増減には慣れているし、魔力を使う手段もあるからな。
「私達じゃなくても、ある程度放置していれば、食材から魔力も抜けて行くから食べられるわ」
日持ちする作物か、乾燥さして食べるような作物を育てればいいのか。
味はかなり良かったから、作れる物は作っておきたいな。




