年末―2
村の中心近く。井戸と教会という村の中でも重要なものの近くに作られた銭湯。
立地に関しては、スタインを含め関係者とはもめたが、俺が押し通してここに作ってもらった。
それだけ、重要視しているというのもあるが、銭湯だから水が必要になる。井戸の近くか新しく井戸を掘るかを言えば、既にある場所の近くに作った方がいい。実際はソフィアの魔法や俺のストレージ、そして魔石の力で水も賄うが、一応秘密にしたい部分もあるからカモフラージュ用の井戸になっている。
それに、俺とソフィアがいない時は、魔石の魔力を温存するためにも、できるだけ用意できるものは用意した方がいいから、水くらいなら手分けしてある程度汲んでくるべきだろう。さすがに全部はきついが。
「じゃあ、最初に入らせてもらおうかな」
「はい。ごゆっくりどうぞ」
クロードが俺を見送ろうとするので、クロードの手を引く。
「え? えっと……どうすれば?」
「せっかく広いのだから、俺一人で入る必要は無いだろ」
「そ、それはそうですが。僕はまだ仕事も残っているので」
「急ぎの仕事は無いから後でやればいいさ」
適当に言ってみたが、本当に急ぎの仕事は無いようで、断る理由もなくなったからクロードは一緒に入ることになった。
クロードの着替えも取ってきてもらうように頼み、銭湯の中に入る。
いい感じだな。あまり銭湯に行ったことは無いからどんなものが正解かは分からないが、中に入るとお湯のむわっとした感じとにおいがして風呂だなとすぐに分かる。
一旦外に出ると、俺が出てくるのを待っているのか、先頭の前に少し人だかりができている。
俺を待つにしても、風呂なんてそんなに早く終わらないから、前で待つのはいいが数十分はそこで待つことになるぞ。
「ゆっくり入るから時間がかかるだろう。最初は静かにゆっくりと入る。10分ほどすれば、皆も入ってくるといい」
そういって砂時計をひっくり返す。時計が普及していないのは面倒だな。時計台でも作ろうかな。
再び中に入る。律儀にクロードは待っていたので、俺が先に脱衣所で服を脱いで待ちに待った引き戸を開ける。
「悪くないな」
タイルが無かったので、すべりにくいがゴツゴツとはしていない石と木を主に使ったから、銭湯よりも温泉のような雰囲気はあるが、そんなのはどちらでも良い。
風呂に入れて、あからさまに変でなければいいのだ。
ソフィアに頼んでお湯を作ってもらい、体を洗ったりはしているが、久しぶりにお風呂に入るので、念入りに体を洗っておく。
石鹸は少し高めなので、普段は置かない予定だが、俺が使う分にはケチったりしない。
体を洗い終わり、ついに風呂へと向かう。
少し熱めのお湯に声が漏れそうになる。浴槽は三つ作ってあり、42度くらいに設定した俺が入っている浴槽と39度くらいの浴槽、そして最後は水風呂だ。
サウナも欲しかったが、とりあえずはこれでいいだろう。
あとは自宅用にゆっくりと入れるお風呂も作りたいな。
俺が息を長く吐き出しながらゆっくりと浸かっていると、クロードも入ってくる。
熱いお風呂に全身浸かることに少しびくびくとしながらも、肩まで浸かる。
「これはいいですね。これも娯楽の一つになりそうです」
この村の欠点は、食堂も商店も賭け場も、はたまた図書館のようなものも、娯楽と言えるものがほとんど無いことだ。
教会に休みの奴らが集まるところを見ると、エステルやルセフィが可愛いのもあるが、相当暇しているのが分かる。
ただ、簡単にそう言ったものを作るのは難しく、まだ金の循環もできていない状態で作っても、俺が金を出して無償で提供するか、人が来ずに廃れるだけのどちらかだ。
外から金を手に入れる方法が出来上がらないことには、しばらく時間がかかる。
その点、この銭湯は俺の魔力と、ちょっとばかりの労力があればできるのだから、無償で提供しても痛手にはならない。
ここで集まってのぼせたりされると面倒だが、そんなこと言うと何もできないからな。そのあたりは自己責任だ。
一番大きな欠点としては、男と女で完全に分かれてしまうことだ。男だけのコミュニティと女だけのコミュニティができあがってしまえば、あとは男側が圧されて行くだけ。
この村のうるさい男共が静かになってちょうど良いかもしれないが。
最初に入って来たのは子供達。走って入って来たので、転けないか心配だ。少し遅れて大人達も何人かやってきて、人の数が一気に増えた。
「僕は先に上がりますね」
「ああ。俺はもう少ししてから上がるから先に戻っていてくれ」
俺ももう少ししたら上がるか。
久しぶりに入ると、まだ少ししか入っていないのに少しのぼせたような感じがする。
ぬるめの浴槽に移り、もう少しゆっくりとする。
さらに20分ほど入り、風呂から上がると、ちょうど女湯の方からソフィアも上がってきた。
「どうでしたか?」
「やっぱり風呂はいいな。作った甲斐があった」
「そうですね。私もリラックスできました」
少し火照った肌にドキッとしてしまう。
いや、やっぱりソフィアも可愛いよな。最初に会った頃とは違い、表情も豊かになったし痩せ細った感じもなくなった。
俺が少しソフィアを見ていると、視線に気づいたのか、どうしたのか尋ねてくる。
「寒いから髪もしっかり乾かさないとな。早く屋敷に戻ろうか」
「そうですね。他の人達にも注意しておきましょう」
「先にクロードが戻っているはずだから、クロードに頼もう」
どうせ、風呂に入っている連中に言っても聞かないだろうから、上がってきた時に言う方がいいだろう。
クロードには悪いが、せっかく風呂に入ったから俺はもう働きたくない。




