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年末

「くしゅん!」


 たった一日で試作品を渡してきたグエンに驚愕しながらも、その出来を確認すべく使用しいると、隣にいたエステルがくしゃみをした。

 そういえば、最近少し寒くなってきているもんな。風邪を引いたりしていなければいいが。


「大丈夫か?」

「はい。ちょっとむず痒かっただけなので」

「寒くなってきているから風邪なんかには気をつけろよ」

「そうですね。もう少しで今年も終わりですからね」

「え?」


 今年も終わり……?

 そういえば、この世界に来てからかなりの時間が経ったが、年越しとかしてないなとは思っていた。

 日本と同じ感覚でばかりいたから、過ごしやすい気候は春か秋だとばかり思っていたが、地球でも地域によって違うのだから同じように考えてはいけなかったな。

 年越しの準備なんか何もしていないが、問題なかったのか?


「こっちでは、年越しだからといって何か準備したりはしないですよ。そもそも、畑の収穫をしたりして少しすれば年越しなので、そんな時間も無いというのが正直なところですが」


 俺の表情から察したのかエステルが教えてくれる。

 そういや収穫はどうなったんだろう?斧を貸してからは何も言ってこなかったから放置していた。

 何もしなくていいのは助かるな。貴族同士の挨拶なんかあったら面倒だし、贈り物とかも用意するのはだるい。


「仲の良い貴族同士や、領地を持たない貴族はパーティーや贈り物なんかをしたりはしますが、うちは大丈夫ですね」

「支援してもらっているところも無いしな。時間があれば、リーシアのところくらいは顔を出してもいいが」

「そうですね。しばらく会っていないので、時間があれば一度帰りたいですね」


 行こうと思えば転移ですぐに行けるのだから、エステルが行きたいというのなら連れて行くしかないよな。

 しっかりしているとはいえ、まだ10代半ばの少女だ。親元を離れるのは、少なからず寂しさを感じるものだろう。


 貴族の知り合いなんて、アトルバとフーレくらいか。アトルバはあの時以来会ってもいないし、まだそういう間柄でもない。何かあったら頼らせてもらうが、それまでは放って置いても大丈夫だろう。

 フーレは……貴族としては何かあるわけではないからな。騎士と冒険者、王の使いと新米貴族といった付き合いだから、俺から何かをするのはおかしいだろう。それに、できるだけフーレとは関わりたくない。ヘレナート達が戻るというのなら、その時は手土産とメッセージくらいは渡してもいいが、会いに行く気はない。こっちに来て欲しくもない。


「予定としてはリーシアに会いに行くくらいか。あとは村で何かするかどうかだな」


 収穫祭みたいなのはやらないのだろうか。それに、収穫した作物が食べられるか試さないといけない。


「クロードは収穫した作物について何か聞いているか?」

「スタインさんから、年末に収穫祭を兼ねて試食会を開こうという計画を頂いてます」


 さすがだな。村から離れるにしても、やることはやってから出て行ってくれているから助かる。

 そちらの段取りはクロードに任せよう。どんなことをやればいいのか分からないから。


 話しながらも作業を進めていく。判子のおかげで効率も上がったから、いつもよりも早い時間に書類が無くなった。

 これなら問題なさそうだ。印刷技術がないから、簡単なものは判子で作ろうと思ったが、問題なく作れるだろう。ただ、木材だとインクののりが悪いし、付けすぎると垂れてしまうのが欠点か。材料を工夫するのと、インクの方も工夫がいるだろうな。今みたいな水っぽいインクではなく、もう少し粘り気を付けないと垂れてしまう。

 そのあたりは、口だけはさんでおけば、グエンだったりスタインだったりが勝手に考えて形にしてくれるだろう。

 出来上がったものは知っていても、材料や作り方は知らないから、俺が手伝えるのは助言と完成品の確認程度だ。


「グエンにとりあえずこれでいいから色々作ってくれと伝えておいてくれ」

「はい」


 クロードに頼んで俺はその場で伸びをする。

 お疲れ様です。とエステルが俺の肩を揉んでくれるので、有難くそれを受け入れる。


 今から何かを始めても年内には終わらないだろうから追加の仕事を振るのは控え、今ある仕事を終わらせていく。

 一週間程すれば、手が空く時間も増えてきたので、エステルと一緒にリーシアのもとに顔を出したりもしてきた。

 あとは、収穫祭を兼ねた試食会と、スタインが戻ってくれば、今年はもうやることは無い。いや、何もやりたくない。


 だが、そんな希望を妨げるかのようにバタバタと騒がしくなる。誰かが俺のもとに向かってきているのだろう。嫌な報告でなければいいのだが。


「ご主人様。頼まれていた取り付けの方が終わりました」


 取り付け?ああ、銭湯の話ね。自分で頼んでおいて何のことか分からなかった。

 だが、銭湯ができたか。今年の疲れを洗い流すという意味合いも兼ねて、さっそく入りにいくか。村の皆にも早く使えるようにしてやりたいし。


「じゃあ、準備をしていくから用意しておいてくれ」

「いえ、準備の方はディナ達に頼んでありますので、このまま来てくださって大丈夫です」


 それなら、すぐに向かうか。準備って言っても着替えを取りに行くだけなのに、貴族ってのはこんな感じなのかな。楽なのはいいけれど、ちょっとしたことくらいなら自分でやるのに。

 まあ、面倒な時は些細なことでも面倒だと思ってしまうから、そういう時はやってもらえるのは嬉しいんだけどな。

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