趣味には─2
「領主さんがたまに着ているローブはどこで作ってもらったの?」
「これか? これならペネムで買ったものだが」
ストレージからローブを取り出す。戦闘時なんかは脱いでいることが大半だったが、それでもあれだけ旅をしてきても、まだまだ使えるくらいしっかりしているので、今でも森に行く時なんかには上から羽織ったりしている。最近は少し肌寒い日もあるので、上着代わりに羽織ることもあるしな。
「うんうん。これならいけるね」
「このローブに何かあるのか?」
サービスで激安で買わせてもらったが、それほど良い品だったのか?確かにあの時の俺にはかなり良い物だとは思っていたが、今なら普通に買える値段だし。
あのドワーフ、馬鹿みたいに商売下手だが、今頃どうしているのやら。
「このローブだけれど、魔力コーティングがしてあるね。そのおかげでこれだけ丈夫になっているんだよ」
このローブがね……
鑑定のおかげであの出会いがあったから、本当にスキル選択は運が良かったと言えるだろう。
「これを作った人なら今回のも作れるはずだよ。一度声をかけてみるのも良いかもね」
「暇そうな店を経営してたからな。こっちに来てくれないか声をかけてみるか」
だが、ペネムに行くとなると、かなりの間村から離れないといけないな。一番近いのは転移で王都まで行って、そこから馬か何かで行く方法だが、それでもペネムまで5日ほどかかる。
それだけの間、一人で旅をするのは面倒だな。
「後のことはこっちで考える。また良い研究結果を期待している」
「今回は魔力をふんだんに使える条件だったからね。また研究材料の発注をお願いしに行くよ」
スタインが俺を引っ張って部屋を後にする。
「ペネムにそんな物を作れる職人がいたとはな」
「人通りの少ない場所で、自分の作った物を売っている商売下手な奴だったからな」
そういや、スタインも人通りの少ないところで店をやっていたな。売り方は上手かったから目に付いたが、もっと人通りの多い所でやれば、普通に稼げただろうに。
「行くか迷っているということは、ペネムには転移で行けないんだな?」
「ああ。転移で行けるのは、王都、フリージア、迷宮都市の三ヶ所だ」
「増やすのは無理なのか?」
「あと一つなら大丈夫だが、一度行かないと追加もできないからな」
ラポールの数がもっと増やせれば良いのだが、空間魔法のレベルを上げるのはポイントがかなり必要になる。次のスキルレベルで何が得られるかにもよるが、ラポールが一つ増えるだけだったら無駄だからな。
最近は狩りもしていないから、レベルの上がりもかなり悪い。ノーマルスライム程度の魔物じゃ、経験値が本当に入っているのか疑いたくなるほどだ。
「そうなると王都から馬車か。ただ、連れてくるにしても転移の存在を知られたくは無いしな」
考えることは同じだよな。王都からペネムまで行って、そこから転移で帰ってくるのが一番早いが、それをやると転移を見せることになる。かといってペネムからアスクトまで馬車で来るのは時間がかかりすぎる。
「転移先は王都かフリージアか迷宮都市だったよな?」
「それであってる」
「じゃあ、俺が行ってくる」
「いや、スタインにここを離れられると作業効率が」
俺もスタインも離れてはいけない側の人間だから困っているのであってさ。
「仕事の方はクロードに振ってあるから問題ない。王都で買い付けをして、ペネムに向かう。そこから迷宮都市に行って迎えに来てもらう」
「なんで迷宮都市なんだ? 王都に戻った方が早いだろ」
「迷宮都市にある商会の廃工場を使わせる。それなら転移を見せる必要もなく、定期的にこちらから見に行くことはできるだろ」
何かあった時にすぐに連絡をもらうことはできないが、それほど急ぎの用は無いから問題ない。素材の買い付けを近くでできる分、仕事はしやすいと言ったところか。
「それなら大丈夫だな。できるだけ早く頼む」
「ああ、任せとけ」
* *
話が決まるやすぐに向かうと言いだしたスタインを転移で王都まで送り、俺は自室でゆっくりとお茶を飲む。
「こうやってゆっくりしようとすると仕事が舞い込んでくるんだよな」
屋敷の外から聞こえる慌てたような声。スタインがいないから、クロードでも対応できない内容なら俺が呼ばれるのだろうな。
あー……せめて簡単な内容なら良いのだけれども。
屋敷の前でソフィアが話を聞いているのだろう。慌てているからか声の大きいサプラと、その合間に落ち着かせようとしているソフィアの声が微かに聞こえる。
サプラってことは、また畑の方か。畑ならそれほどややこしい話にはならないだろう……というか、農業の詳しい話なんてされても分からない。
「ケーマ様。今大丈夫ですか?」
嫌だなーと机に突っ伏していると、いつの間にかソフィアが俺を呼びに来ていた。
部屋の前から声をかけてきているので、中に入るように伝える。
「休憩中申し訳ありません。サプラさんが、畑の収穫について話がしたいと来られてます」
「収穫? もうそんな時期か」
「この間、報告書が上がっていたと思います」
「あー……そういえば、そうだったな。準備を進めておくようにスタインに言っておいたはずだが」
全く記憶に無いし、むしろ執務室の机の上に積まれたままだろうが、スタインなら進めてくれているだろうと適当に返す。




