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増員

 屋敷の中にいると、いつ誰が仕事を振ってくるか分からないので外に出る。

 俺が行っても仕事をする必要が無くて、ゆっくりとできるところ。畑の方だな。


 仕事を振ってきそうな建築作業中の場所を通らないようにして畑へと向かう。畑なら成果を伝えるために話しかけられはすれど、俺が農業の知識も経験も無いことを知っているから、仕事を任せようとはしてこない。


 数週間ぶりに畑まで来れば、種を植えた一区画が緑の葉で埋め尽くされている。


「お疲れ様です領主様。今日はどうされましたか?」


「サプラか。今日は様子を見に来ただけだから気にせず仕事をしていてくれ。ただ、想像以上に育っているな」


 種を植えて一ヶ月もしていないというのに、成長が早すぎる。連絡はもらっていたがこれほどだとは思ってもいなかった。


「何が良かったのか分からないですが、凄い速度です。報告の後、試しにいくつか別の作物を植えた中で、育たない種類もあったので、何でも育つわけではなさそうですが、大抵は育つみたいです」


「手が回るようなら、他の区画も使っていいから好きなように育ててくれ」


「はい! また良い報告ができるように頑張ります」


 無理はするなよと心の中で言っておく。こういう奴は、言ったところで逆に隠れて無理をしそうだからな。クロード然り。


 これで、作物は自給である程度賄えるか。リールに取引内容の見直しを伝えておかないと。まあ、スタインが勝手にやってくれるか。後で確認だけしておこう。


 畑から少し離れ、日当たりの良い場所で寝転ぶ。何だか、本当に全部順調だな。こんなに順調だと、何か起こりそうで怖いくらいだ。

 起こるとしたら何か。こんな森の中だと、魔物関連のことだろう。それか、国王やら貴族やらが何か企んでいるか。

 俺ができることは、何かがあった時に対応できる誰かをこの村に引き込むことくらいだ。

 必要な人材は集まってきているが、まだまだ足りないか。


「ケーマ! どこにいる?」


 もう来たのか。寝転がって数分しか経っていないのに、俺の平和な時間はもう終わりなのか。


 一旦力を抜いて空を見上げる。そのまま目を閉じて10秒ほどかけてゆっくりと息を吐き出してから起き上がる。


「どうした? もう書類はまとめ終わったのか?」


「やっぱりこっちにいたか。まだ終わってないが、フリージア教の奴が来てな。明日くらいには、派遣されて来たシスター達がこの村に着くそうだ」


 ようやくか。その中には魔力回路の研究者もいるはずだ。これで試したいことが色々とできるようになる。


「こちらが用意しておくことはあるか?」


「いや、出迎えなども必要ないそうだ。着いたら向こうから顔を見せに来るとさ。ただ、思っていたよりも人が多いようだから、泊まる場所をどうするかが問題だ」


「シスターと身の回り世話をする奴は教会で大丈夫だろう。魔力回路の研究者は、俺の屋敷か、庭の小屋に。あとは空いている建物に分かれて泊まってもらおう」


 幸い、移民用やこれから使う予定でまだ空いている建物はいくつかあるから、泊まるだけなら大丈夫だろう。


 翌日。昼食を終えてもまだ到着していなかったので、エステルとスタインにも屋敷で待っておいてもらう。

 まとめ終わった資料を読み返すスタインと、お茶を飲みながら本を読むエステル。何故か、ジエノアがやってきて魔法の練習に付き合っている俺。

 各々ゆっくりと時間を潰していると、クロードが屋敷に戻ってきた。


「教会の方が到着しました」


「わざわざありがとう。後で送るから少し休んでおくといい」


「はい。ありがとうございます」


 村に向かう人を見かけたから街道整備を抜けて案内してくれたのだろう。街道もかなり伸びているから、ここから戻るのも大変だし、俺が転移で送って行ってやろう。


 ジエノアにディナのもとに戻るように言って、俺達は屋敷の外に向かう。

 屋敷の外には一台の馬車と五人の男。その中には見覚えのある顔もいた。


「遠い村まで来ていただきありがとうございます」


「いえ。こちらとしても教会を建てていただきありがとうございます」


 俺の声が聞こえたのか、馬車の中から三人の少女が出てきた。


「久しぶりね、エステリーナ」


「ルセフィさんが来てくださったんですね!」


「ええ。できれば、女性で、エステリーナと知り合いという条件で募集があったから、立候補してみたの」


 シスターはエステルの知り合いなのか。俺の転移があるとはいえ、知り合いのいない場所で暮らすよりは知り合いが一人でもいる方がいいもんな。

 それにエステルの知り合いなら、エステルを通して話をすれば、拗れることもないだろう。宗教なんて、下手に力をつける可能性もあるから、できれば仲良くしておきたい。


 エステルとルセフィが話し始めたので、俺は他の奴を見る。

 少し眠たそうにした女性が多分魔力回路の研究者だろう。他は護衛のような男性と、世話役の少女のようだ。

 よろしくと声をかけると、観察するかのように俺を見てくる。十数秒かけてじっくりと見て、何か分かったのか軽く頷く。


「マリゼだ。神子様から話は聞いているよ。私にできることなら力になろう」

「頼むよ。ルセフィ達と一緒に教会に住むか、こっちに住むかどちらがいい?」

「こちらの方がすぐに相談できるからこちらにしよう」


 マリゼの案内をディナに頼む。屋敷に住んでくれる方が、俺としてもすぐに話を聞きに行けるから助かる。


「ヘイゼルさんとルークも来てくれたのか」


 ようやく一番話したかった相手に声をかけることができた。


「お久しぶりです。こちらも募集がありましてね。是非ともケーマさんが作る町を見てみたくて応募させてもらいました」

「町まで発展させられるかは分からないけれど、頑張ってみるよ」


 ヘイゼルさんの家族は後から来てくれるらしい。家族毎、こちらに移住してくれるのは有難いが、それだけ期待されると責任も感じてしまうな。

 だが、これだけ周りが頼もしいとできるだろう。俺の力でとなると大変だが、皆の力でならそれほど苦でもなさそうだ。それだけ、俺に力を貸してくれている奴らが濃い。


「僕達はこっちで教会所属の騎士として活動するように言われているので、このまま残ります。村の警備や森の探索、町までの護衛など手伝えることがあれば言ってください」

「それは有難い。人手が足りないから助かる。冒険者を呼ぼうにも、他の町から遠すぎるし、村がまだ未完成で店も無いから呼びづらかったんだ」


 それにしても、国所属の騎士団の数人と教会所属の聖騎士の数人が村にいるなんて普通じゃあり得ないよな。大きな町ならともかく、常駐の騎士がいる自体が珍しい。

 しかもそれが、俺の言うことを聞いてくれるのだ。これほど心強いことはないだろう。


「しばらくは空いている小屋に住んでもらうことになるが、専用の建物と宿舎、希望者は家も建てるから言ってくれ」

「ありがとうございます。家族連れはヘイゼルだけなので、僕達は小屋か宿舎で十分です」

「私も立派な家など必要ないので、他の村人と同じ扱いで大丈夫です」


 本当に欲が無いよな。最低限はもらうが、必要以上は望まない。教会の教えとしてはいいが、人としてはもっと上が欲しくなるものだろう。

 がめつい宗教なんて嫌だから、俺としてはそのままでいて欲しいが、自分が中に入るのは嫌だ。

http://book1.adouzi.eu.org/n9929ef/


↑新作(?)公開始めました

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